前編では、内部統制を社員に浸透させるために、内部統制の意義を再確認することの重要性について述べた。後編では、事務局から現場の推進者、幹部社員、社員ら、部門ごと、担当者ごとに必要となる内部統制浸透の方法について述べたい。

「他人事ではない」という意識が必要

内部統制の実効性確保において最も大切なことは、「内部統制の構築や整備は他の人や部門の問題であり責務である」という考え方を払拭することといっても過言ではない。

こうした考えを払拭することこそが、人材育成において求められる。こうして育成した人材を、最後までプロジェクトを遂行するために活用できるかも、内部統制を成功させる上で重要となる。

上に立つ経営者や上級幹部が、内部統制は自分自身や自分の所属する部門の問題や責務であると考えることも必要である。また同時に、内部統制に係わる業務プロセスに携わっている幹部や社員も、まずは一旦自分自身や自部門の問題や責務と考えることが重要だ。

制度的な義務とは別に、このような問題意識を部門レベルで共有することにより初めて、内部統制の構築や整備を責任の押し付け合いとせず、企業にとって本当に実効性のある有意義な活動に高めていくことができる。

このように考えると、内部統制の活動こそ、今後の企業活動を有効に動かすための人材育成のツールであることが分かる。

事務局はやっかいな課題と闘う「司令基地」

事務局では、内部統制の評価フェーズに向け、現在管理部門の中でも最も忙しい部門であることが予想される。

また、事務局は、内部統制の実行性確保の上で、"何でも屋"的な行動力を求められているのではないだろうか?

ある時は経営者から活動状況や推進上の課題を的確に報告することが求められ、ある時は現場からクレームや難しい問い合わせがある。さらに、現場がやりたくてもできなかった業務の改善や、会社としての課題の整理と組織改革への切り込みなど、誰もがやりたくなかったことへの対応が求められる。

こうした各種の要求を手際よく整理し、プロジェクトとして前進させることが求められる。そうした意味で内部統制の事務局は、会社の中で常にやっかいな課題と闘っている「司令基地」な役割を果たしている。

「嫌なことは見たくない」「責任を負いたくない」「形式主義に流されたくなる」といった心理面の課題。また、複数の目的が競合する中で、「優先順位をつけられない」「目的設定の誤りを是正できない」といった問題も出てくる。

互いの持つ能力とスキルを「移転」する必要性

これらを考慮すると、内部統制を持続的に行い維持管理していく上では、属人運営に依存しない組織人材のスキルとして、「リスク判断力」「情報の管理力」「情報の整理術」「忍耐強いプロセス構築力」「プロジェクト推進力」のいずれも必要だ。

では、これらの能力を持つ人材をどのように育成するか? 誰が考えてもこの様なスキルを全て持った人材は少なく、このようなスーパーマンを一から育成するにはかなりハードルが高い。

そこで考えられるのが、「管理能力に強いメンバー」「リスク管理に強い監査部門のメンバー」「プロセスと現場を良く知るメンバー」の混成チームとして事務局を立ち上げるという手法である。

この手法においては、それぞれのメンバーが持つ能力を最大限引き出し、メンバー間で互いに能力やノウハウを移転する必要がある。

事務局を務めた個人的な経験から言えば、メンバーの得意とするフィールドが違うこともあり、よく意見が合わなくなり、朝から大声を出して議論した。だが、ここで議論できたことが、互いの能力や内部統制推進にあたってのノウハウ入手の助けとなり、責任を持ってプロジェクトを最後まで遂行できた理由だと考えている。

現場に定着させるのに必要な「問題の共有」

内部統制を構築・運用して行く場合、現場を理解している人材がまず求められる。何度も繰り返して恐縮だが、内部統制を運用する場所は、結局最後は現場だからだ。

いくら事務局に能力があって優秀でも、いくら素晴らしいマニュアルや規定、システムが整っていても、現場が内部統制を正しく理解し、運用されていなければ何の意味もない。

内部統制は、正しいルールが現場に定着して初めて開始されるものであり、これなくして内部統制の達成はあり得ない。

その意味で、新しい統制活動を定着させていく段階において、現場の内部統制推進者と幹部社員が、重要な活動を担うこととなる。

一般社員もまた、統制推進者や幹部からの伝達を受け、なぜこの活動が必要なのか、なぜ現状の運用を変えなければならないのかを正しく理解し、「自分も内部統制の活動に参画している」という自覚を持つ必要がある。

では、内部統制推進者、幹部社員、一般社員の人材育成をどのように進めるべきなのか? まず挙げられるのが、「問題の共有」だ。現場では、結局何のためにやるのかが重要であり、問題を共有することでまずはきっかけを作り、いかにタスク化するかがカギとなる。

そうすると自然に業務改善への意識が高い幹部や社員が集まってくる。後はそのメンバーをひたすらバックアップすることで、周りの社員も理解を示す。気付いたころには問題点も明確となり、定着フェーズに入っていける環境が完成する。

組織間の連携により維持管理活動を強化

最後に、内部統制を推進する上で重要な部門として挙げられるのが、業務処理の集中センターと業務監査部門である。この二つの部門は、内部統制の維持管理機能の役割を果たすからである。

業務処理集中センターは、内部統制活動の実施まで社内のプロセスがバラバラだった場合に非常に有効となる。同センターの立ち上げは、業務の標準化と平準化に一気に寄与するため、特に業務の標準化で悩んでいる企業にお勧めしたい。

社内の複雑なプロセスや業務パターンを分析し、バラバラなプロセスをフロント業務とバックオフィス業務へ整理。人員も専門家として育成することが可能となる。この整理プロセスにより、今まで個人や組織で属人化されていたプロセスの「見える化」が図られ、誰でもが処理できるようになる。

業務監査部門に関しては、人材育成というよりは人材活用の側面が強く、いかに連携して内部統制を維持管理していくかが重要となる。

事務局の部分で述べたように、内部統制活動を事務局だけで維持管理することは容易ではない。業務監査部門と連携して現場の状態を維持メンテする必要がある。

例えば、運用の評価を行う上でも、現場の業務の中で、文書の保管や業務マニュアルが規程に則り日々確実に運用されているかなど、事務局だけでは管理ができない部分を、業務監査の実施で補完する。こうすることで、運用評価をより確実に高い達成度に引き上げることが可能となる。このように、組織間の連携による活動も、より良い内部統制環境を構築していく上で有効となる。

次回は、連結子会社における人材育成について述べていきたい。