ホビーのドローンからビジネスのドローンへ

2015年9月25~26日に東京・お台場の日本科学未来館で「Breakthrough Summit(ブレークスルーサミット)」と呼ぶ、新技術に関する講演会が開催された。後半の26日には、「Drone Day(ドローンデイ)」と銘打ち、ドローンに関する講演会や座談会などが数多く実施された。

日本科学未来館の外観。2015年9月26日に撮影

その中で、「ドローン:マネタイズの可能性」と題した座談会がとても興味深かったので、その概要をご報告しよう。スピーカーを3名、モデレータを1名とするトークセッションである。

モデレータは牧浦土雅(まきうら・どが)氏。株式会社オブリージュのCEOである。スピーカーの最初の1名は玉川憲(たまがわ・けん)氏。ソラコムの代表取締役社長をつとめる。次に、渡辺健太郎(わたなべ・けんたろう)氏。マイクロアドの代表取締役である。最後に野波健蔵(のなみ・けんぞう)氏。千葉大学特別教授であり、自律制御システム研究所の代表取締役をつとめる。

出席者4名のプロフィールを説明するスライド

セッションは、出席者の4名がそれぞれを自己紹介するところから始まった(以下は文中敬称略)。

牧浦土雅(以下牧浦) みなさん、こんにちは。きょうのこのセッションをモデレートさせていただく、牧浦土雅です。タイトルは「ドローン:マネタイズの可能性」。「ドローン」というワードは、ここ最近は本当に誰でも知っているようになりました。ホビーとしてのドローン、そしてビジネスへと。ビジネスとしてのドローンの可能性はどうなのだろうか。事業としてのドローンの可能性を、このセッションで深掘りしていければと思います。それでは、皆さまから、自己紹介をしていただきたく、お願いいたします。

左からモデレータの牧浦氏、スピーカーの玉川氏、渡辺氏、野波氏

玉川憲(以下玉川) 玉川です。ソラコムという会社を経営しています。もともとはアマゾンで5年ほど、日本のAWSクラウド事業の立ち上げをしていました。その後で今年(2015年)にソラコムという会社を創業しました。ソラコムは、IoTのためのプラットフォームづくりをしています(注記:このプラットフォームは2015年9月30日に発表された(関連記事:ソラコム、IoT向けネットワークプラットフォーム「SORACOM」と関連サービスを提供開始)。個人的にはドローンが大好きで、ビジネスを含めて真剣に検討しています。

渡辺健太郎(以下渡辺) マイクロアドの渡辺と申します。マイクロアドは、インターネット広告のプラットフォーム事業を手がけている会社です。ドローンに関してはビジネスへの展開をいろいろとリサーチしたり、あちこちで相談させていただいたりしています。来年には広告関係で、外に出せるものを何かやりたいなと、いろいろと準備しているところです。

国産のドローンと海外製のドローン

野波健蔵(以下野波) 野波です。2013年11月に自律制御システム研究所という会社(注記:ドローンを開発、製品化する大学発のベンチャー企業)を立ち上げて、ドローン・ビジネスのまさに最前線におります。2013年11月にスタートした会社は始めは10名ほどだったのですが、現在は40名くらいの人員がおります。大学では自律制御システムの研究を30年ほど、ドローンの研究を20年ほど、やってきました。非常に地味な研究なのですが、おかげさまで最近はあちこちで注目を集めています。会社には毎日のように、引き合いがきています。国内の企業や官公庁、そして海外からもきています。面白いことに、中国からも引き合いがあります。ドローンはちょうどいま、ホビー用から業務用へと拡大する、そのとっかかりに来ています。本日は熱く語っていきたいと思います。

牧浦 今、海外から野波さんのところに問い合わせがくるとおっしゃっていたのですが。なぜ日本なのでしょうか。

野波 現在話題となっているホビー用のドローンは主に海外製です。しかし、海外製のドローンでも、使われている部品は3分の1が日本製なのです。しかも重要な部品はかなりの割合で日本製です。例えば、ESCというモーターをドライブする部品は、米国製ですと100時間しか持たない。それが日本製ですと1000時間の寿命があり、米国製の10倍も長持ちします。ですから、日本製に期待するということは、あると思います。

牧浦 野波さんの会社で開発されているドローンの部品は、すべて国産なのでしょうか。

野波 完全というわけではありませんが、ほぼ純国産です。

牧浦 渡辺さんの会社は東南アジアの各国に拠点を置かれている。ドローンに関するビジネスを始めるとしたら、どこが候補になりますか。

渡辺 うーん・・・。エンターテインメントということで考えると、シンガポールやフィリピンではカジノを始めとする新しい市場ができています。新しいエンターテイメントが求められているということから考えると、シンガポールあるいはフィリピン、かもしれないですね。

牧浦 そうしますと、場所に対するこだわりはあまりないと。

渡辺 そうですね。ニーズがあるところで、始められれば良いかなと。

山形で飛行させたドローンのカメラを東京で操作

牧浦 玉川さんは、会社の名前に「ソラ(空)」が入っています。それは創業のときにドローン・ビジネスを視野に入れていたからでしょうか。

玉川 いいえ。あれは「空」ではなくて「宇宙」の「宙」のソラなんです。先ほどご説明したようにIoTをやっている会社なので。モノをインターネットにつなげて、その裏側に、クラウドのような、コストが低くて処理能力の高いものがある、そういった世界観ですね。どんどんデータが入ってきて、解析して、それをフィードバックして面白いことをするという。

玉川 僕はドローンにはとても興味を持っていて。なぜかというと、ドローンは空中を動き回るし、無線で通信するし、人間では見ることのできな視点からモノを見ることができるからです。そういったことから、ドローンを使った面白い実験をしています。ドローンを使った実験をしているのは山形県にある「熱中小学校」という社会人向けの小学校で、僕はここの教員(教頭)をしています。

玉川 実験には、野波先生のところのドローン「MS-06LA」を使っています。このドローンは市販のネットワーク・カメラを積んでいまして、カメラの映像をインターネット経由で送ったり、カメラをインターネット経由で操作したりできます。そこでドローンの操縦は山形県で友人にやってもらって、カメラの操作を東京のソラコムでやるという実験をしたところ、大成功でした。

自律制御システム研究所で開発したドローン「MS-06LA」を熱中小学校の実験に使用した

熱中小学校のある山形でドローンを飛行させ、ソラコムのある東京でカメラの映像を確認するとともに、カメラを操作

牧浦 これはソラコムでドローン・ビジネスへと展開するのでしょうか。あるいはシステム自体を販売する可能性はあるのでしょうか。

玉川 それは今のところは考えていません。ソラコムはエンジニア集団なので、システムづくりはやります。サービスは別のところになるでしょうね。例えば観光ツアーをサービスする会社があって、人間が入れないところから撮影した映像をお見せする、そのシステムをソラコムが開発する、といった可能性は考えられます。

(続く)