新幹線停車駅は地域の中で最も重要な駅だ。新幹線の停まる駅に接続する路線があれば、普通列車から特急列車まで、原則としてすべての列車が停まる。例外として、品川駅のように近隣の新幹線駅に近い駅で在来線特急列車が通過する場合や、夜行列車が深夜に通過する場合もある。でも例外は少数だ。ほとんどの新幹線駅では、新幹線との乗換えを便利にするために、在来線の全列車が停車する。

函館本線を走る下り普通列車。北海道新幹線開業後も、一部の下り列車が新函館北斗駅に停まらない

ところが、3月26日開業の北海道新幹線新函館北斗駅は、その例外になる。函館本線のすべての旅客列車が停車するわけではなく、なんと普通列車のうち下り3本は新函館北斗駅に停まらない。JR北海道のプレスリリースで普通列車のダイヤも発表されており、函館駅5時51分発の森行、函館駅12時34分発の森行、函館駅17時37分発の長万部行は新函館北斗駅の停車時刻が記されていない。普通列車が停まらない新幹線停車駅とは珍しい。

新函館北斗駅は北海道新幹線開業まで、函館本線渡島大野駅として営業中だ。新幹線駅に改築されるまでは小さな無人駅で、快速「アイリス」も通過していた。北海道新幹線が開業して新函館北斗駅になると、函館本線の特急「スーパー北斗」「北斗」が全列車停車する。大出世といえる。それでも新函館北斗駅に停まらない普通列車が3本ある。しかも下り列車だけ。きっとなにか特殊な事情があるに違いない。

その通り。プレスリリースの時刻表をよく見てみよう。前回(第341回)の「新垂井線」でも紹介したように、この3本の普通列車は通過を示す「レ」ではなく、経由しない「||」の記号になっている。まさしく、新函館北斗駅を避けて通っている。

「8」の字を描く函館本線

新函館北斗駅をとりまく特殊な事情、それは複雑な線路配置にある。地図を見ると、函館本線の線路は、新函館北斗駅の南側の七飯駅で分岐し、北側の大沼駅で合流する。さらに大沼駅で分岐して、森駅で合流する。まるで「8」の字のような線路だ。新函館北斗駅は最初の分岐線の西側にある。ほとんどの列車は下りも上りもこちらを走る。しかし、先述の普通列車3本は東側の線路を走る。だから新函館北斗駅には停まれない。

函館本線函館~森間の略図

どうしてこんな線路になったのか? 理由は前回の「新垂井線」と同じ。急勾配区間を迂回するためだ。

函館本線の七飯~大沼間は、当初は西側の線路だけだった。開業は1902(明治35)年。北海道鉄道が函館駅と本郷駅を結んだ。当時の函館駅は旧駅で、現在の五稜郭駅付近にあった。本郷駅は現在の渡島大野駅、3月26日からは新函館北斗駅である。1903年、本郷駅から森駅までの区間が開業し、1904年に函館駅が現在の位置で開業した。

当時の函館本線は単線で、しかも山岳地帯を通るため、急勾配の連続だった。そこで、大沼~森間については第二次大戦末期の1945(昭和20)年、私鉄の渡島海岸鉄道の一部を吸収する形で海岸沿いに迂回路線を作った。これは「砂原線」と呼ばれている。

一方、七飯~大沼間の別線は通称「藤城線」だ。こちらの開通は遅く、1966(昭和41)年に建設された。急勾配を避ける迂回経路と、函館本線を複線化するための下り線として作られた。だから「藤城線」は開業から現在に至るまで下り列車しか走っていない。

「藤城線」は途中に駅がないから、下り貨物列車や特急列車はすべてこちらを経由していた。「北斗」「スーパー北斗」「トワイライトエクスプレス」「カシオペア」「はまなす」の札幌方面行は藤城線経由だった。

下り列車はすべて「藤城線」経由となるところだけど、普通列車だけは例外となった。本線が上り列車だけになると、各駅の利用客が不便だ。そこで下り普通列車については、本線経由と「藤城線」経由を振り分けた。つまり、もともと渡島大野駅を通らない下り普通列車は存在し、新函館北斗駅になっても継承されるというわけだ。

3月26日のダイヤ改正で、下り特急列車は「藤城線」経由から本線経由に戻され、新函館北斗駅に停車する。もちろん北海道新幹線と接続するためだ。そうなると「普通列車もすべて本線経由になるのではないか? もう藤城線に乗れないかもしれない」と「乗り鉄」たちは心配した。

しかし、「藤城線」経由の下り普通列車が3本だけ残された。その理由はなぜだろう? どうやら、本線は単線で函館行の列車とすれ違いができないため、「藤城線」を経由して上り列車に本線を譲っているようだ。

3月ダイヤ改正のプレスリリースの新幹線接続時刻表と、今回の普通列車発表プレスリリースの時刻表から類推すると、七飯~大沼間で、函館駅5時51分発の森駅行は函館行の上り普通列車、函館駅12時34分発の森行は上り特急「北斗8号」、函館駅17時37分発の長万部行は上り特急「スーパー北斗16号」とすれ違うようにみえる。普通列車を確保しつつ、特急列車の北海道新幹線連絡を実現する。工夫されたダイヤといえそうだ。