国鉄時代に全盛期だった寝台特急の中には、客車のブルートレインだけでなく、寝台電車も走っていた。いまでも鉄道ファンに人気の581系・583系電車だ。1967年に新大阪~博多間の寝台特急「月光」でデビュー。日中は寝台をたたみ、新大阪~大分間の座席特急「みどり」としても活躍した。その後、東海道新幹線に接続する形で、近畿・山陽地区と九州各地を結ぶ寝台特急・昼行特急へ導入されていった。

2014年12月23日、日本旅行が募集した「鉄道コン」に使用された583系電車

一方、上野~青森間を結ぶ寝台特急への導入は1968年だった。東北本線の全線電化をきっかけに、東北本線経由の「はくつる」、常磐線経由の「ゆうづる」に導入された。こちらも日中は昼行特急「はつかり」としても活躍した。

583系の寝台車は、中央の通路の両側に、窓と並行するようにベッドが並んだ。A寝台は上段・下段の2段式、B寝台は上段・中段・下段の3段式。ところが、B寝台の一部は上段がなく、中段・下段の2段ベッドになっていた。その中段は室内が高く、人気の場所になっていた。

3段寝台のB寝台車の中で、なぜ2段寝台の部分があったか? その理由はパンタグラフだ。581系・583系は3段寝台とするために天井を高くしていたけれど、電車だからパンタグラフで架線から電気を取り込む必要がある。そのパンタグラフを設置するスペースの分だけ、屋根を低くする必要があった。屋根が低ければ天井も低い。したがって、そこには上段寝台を設置できなかった。

583系のB寝台車客室。昼間は座席特急としても使われた

パンタグラフの下だけは2段だった

ただし、上段を設置できなからといって、屋根を必要以上に低くする必要はない。その結果、「パンタ下の中段」は、他の中段よりも天井が高かった。他の中段は長さ190cm、幅70cm、高さ68cmだったけれど、パンタ下の高さは103cmもあって、上半身を起こして座れた。下段は幅102cm、高さ75.5cmだったから、幅は狭くても高さは下段よりゆとりがあった。寝台料金はベッドの幅によって異なっていて、上段と中段は同じ、下段は1,000円高い。「パンタ下の中段」は下段より安く、他の中段と同じ値段。だから人気だった。

いま、寝台特急「サンライズ出雲・瀬戸」に使用されている寝台電車285系も、「パンタ下」がおトク。285系は個室寝台がメインの2階建て構造だけど、「パンタ下」は1階のみの平屋構造。ここはB寝台個室「シングル」になっている。2階建て上段室・下段室のシングルとベッドのサイズは同じ、料金も同じだけど、天井が高く広々としている。昔も今も、寝台電車に乗るなら「パンタ下」がおトクというわけだ。