JR東日本は新型車両E129系を新潟地区に導入し、国鉄時代から使用していた115系電車を置き換える。115系といえば、直流電化区間の「近郊形電車」として知られる。一方、新たに登場するE129系は、JR東日本によると「一般形」だという。「近郊形」と「一般形」、一体何が違うのだろう?
115系とE129系は、車体のサイズはほぼ同じ。どちらも2両編成と4両編成があり、座席配置はセミクロスシート。営業最高速度はともに時速100kmとなっている。違いは車体の素材と制御方式だ。115系は鋼製車体、直流モーターを抵抗制御で制御する。E129系はステンレス製車体、交流モーターをVVVFインバーターで制御する。こうした違いは技術や素材の進歩によるもので、電車の用途としては大きな違いはなさそうだ。
片側3扉、セミクロスシートの「近郊形」
近郊形電車は、客室内の座席配置と動力性能によって定義されている。国鉄時代、「ロングシート」「クロスシート」をあわせ持ち、都市近郊の運用に適した性能を持つ電車を「近郊形」と呼んだ。都市内の短距離区間用に通勤形電車があり、大都市間など長距離区間用に特急形電車がある。そして大都市とその周辺部を結ぶ中距離区間用に近郊形電車があった。
ロングシートは通勤形電車に見られる「窓に背を向けたベンチタイプの座席」、クロスシートは「進行方向に対して直角(クロス)に配置された座席」だ。この両方をあわせ持つ座席配置を「セミクロスシート」と呼ぶ。「セミ」はラテン語で「半分」の意味。つまり、座席の半分がクロスシート、残りはロングシートだ。
典型的な近郊形電車は、片側に3つの乗降扉を配置し、扉付近がロングシート、それ以外の場所がクロスシート。扉付近は通勤形電車のような座席、それ以外の場所は長距離列車のような座席となっている。最近は片側2扉、全席クロスシートの普通列車用車両も「近郊形」と呼ぶ場合がある。
性能面にも違いがある。同じ出力のモーターを使ったとしても、ギア比が異なる。通勤形電車のギア比は高い。駅間が短いから、最高速度よりも加速度を重視する。これに対して近郊形電車のギア比は低い。駅間距離が長いため、加速度より最高速度を重視する。その他の客室設備として、トイレを備えた近郊形電車も多い。通勤形電車より乗車時間が長いからだ。
「通勤形」「近郊形」を統合して「一般形」へ
近郊形電車は、混雑する場合に扉付近の乗降時間を短くできる一方、空いている区間ではなるべく座席に座ってもらおうと配慮された車両だ。ところが、国鉄時代末期から「近郊形」と「通勤形」の分類があいまいになってきた。都市圏が広がり、ベッドタウンが郊外へ広がるにつれて、近郊形電車が走る中距離区間も通勤客が増えてきた。
そこで211系のように、「近郊形電車と同じ動力性能で片側3扉だが、車内はロングシートのみ」という電車が登場した。「性能は近郊形、座席は通勤形」である。211系の場合、オールロングシートの車両とセミクロスシートの車両を連結していたので、かろうじて「近郊形」に分類された。
2000年になると、JR東日本は「通勤形」「近郊形」の両方に対応したE231系電車を導入する。E231系は車体設計を共通とし、座席配置によって通勤用・近郊用のどちらにも対応でき、動力性能も通勤用・近郊用の両方に対応する。高出力な交流モーターとVVVFインバータ制御によって、通勤形電車と同じ加速度、近郊形電車と同じ最高速度を実現した。通勤用・近郊用の用途によって、最適な加速度を設定できる。
座席配置と動力性能の設定によって「通勤バージョン」「近郊バージョン」があるから、E231系そのものについては、「通勤形」とも「近郊形」とも呼べない。そこでJR東日本はE231系を「一般形電車」と呼んだ。「一般形」はディーゼルカーや客車で使われていた言葉で、「急行形」「特急形」ではなく、「通勤形」でもない車両を指した。JR東日本は「通勤形」「近郊形」を統一した分類として「一般形」と呼ぶようだ。
E231系のコンセプトは、次世代の標準車両としてJR東日本以外にも採用された。相模鉄道や東急電鉄などでE231系の基本設計を採用した電車が走っているし、JR東日本はE231系以降、同様のコンセプトで改良版のE233系を製造した。新潟地区で導入予定のE129系はE233系一般形電車の基本設計を採用している。だから「通勤形」「近郊形」ではなく「一般形」に分類されたというわけだ。