夜行列車に乗っていて、ふと目が覚めると駅に停車している。「ここはどこだろう?」と時刻表を見ると、その時間帯は通過マークが並び、停車する駅はない。しかし、列車は停車しないはずの駅に停まり、しばらくして何事もなかったように動き出す。

時刻表では通過と表示されても停まる駅がある(写真はイメージ)

このように、市販の時刻表では通過と表示されているにもかかわらず、列車が停車する場合がある。運転士の交代などの都合で停まるだけで、旅客扱いはしない。この停車を「運転停車」と呼ぶ。「運転」は走ることで、「停車」は停まること。ならば「運転停車」はどっちなんだ? と思うかもしれない。「運転停車」とは、「運転の都合上の停車」という意味である。

運転停車は昼間も行われる。乗務員の交代は旅客扱い駅で行われるけれど、たとえば単線の幹線で、特急列車同士が停車駅の中間の小さな駅ですれ違う場合、片方が運転停車して反対方向の列車の通過を待つ。この場合も旅客扱いはしないから、時刻表では通過マークになっている。駅の時刻表にも掲示されないし、発車案内表示器にも掲出されない。

寝台特急の運転停車は運転士交代・機関車交換などを行う

2014年3月14日発、翌15日着の列車をもって定期運行を終了した「あけぼの」は、寝台特急として初めて「運転停車」を実施した列車だった。それまでの寝台特急は、夜間も主要駅に停車し、旅客扱いを行っていた。そもそも古い客車は自動扉ではなかったから、乗客は停車した列車から自由に乗降できてしまう。夜行列車が走る路線の主要駅は「24時間営業」が当たり前だった。

乗客が眠っている時間に運転士の交代などが行われる(写真はイメージ)

ブルートレインの元祖となる20系客車は、寝台車だけではなく普通座席車やグリーン車もあった。夜間の停車駅で乗降する利用者にとって、寝台よりも座席のほうが都合が良かったからだ。扉も手動で、走行中は車掌が遠隔操作でロックしていた。しかし、深夜の駅の乗降が減ると、「深夜の駅の旅客営業は採算が合わない」「正式に停車すると、乗降に十分な時間を確保しつつ、安全確認も必要」などの理由で旅客扱いは取りやめになったようだ。

ただし、安全確保のため運転士は交代が必要だし、電化方式の違いなどで機関車を付け替える必要もある。そこで運転停車が実施された。寝台特急「あけぼの」の場合、下り列車は水上駅・長岡駅・新津駅・鯉川駅・北金岡駅に運転停車し、上り列車は長岡駅・水上駅・新前橋駅で運転停車を行っていた。

推理小説のトリックで広まった!?

1970年に「あけぼの」が運転停車を実施した後、他の寝台特急でも採用された。九州行のブルートレインの時刻表は東海地区から山陽地区までノンストップと表記された。しかし、実際には名古屋駅や大阪駅などで停車し、運転士の交代を実施していた。現在も寝台特急「サンライズ出雲・瀬戸」は浜松駅(上りのみ)・豊橋駅・名古屋駅・米原駅・大阪駅(下りのみ)などで運転停車を実施している。また、「北斗星」「カシオペア」は青函トンネルの前後で、機関車交換のために運転停車を行う。

運転停車が広く知られるきっかけは、ブルートレインブームの頃に一般の雑誌やテレビなどで紹介されたり、推理小説のトリックに用いられたりしたことだろう。とくに西村京太郎氏の小説『寝台特急殺人事件』は当時のベストセラーとなり、岡山駅の荷物扱いのための運転停車がトリックに使われた。近年ではテレビドラマ『相棒』で、「カシオペア」の運転停車がトリックに使われた例がある。