電車は架線からパンタグラフを使って電気を取り入れ、モーターを回して走る。技術の進歩によって電車は高性能になり、線路も木製マクラギからコンクリート製、樹脂製へと進化している。そして架線も進化している。たまには空を見上げてみよう。気分がイイぞ……じゃなくて、架線にもいろいろな種類があるのだ。
電車の絵を簡単に描くと、四角い車体の下に車輪を加え、レール代わりの直線をサッと引く。これが線路だ。屋根には菱型のパンタグラフを描き、その上にまた直線を引く。こちらの直線は、実際の鉄道では「架線」と呼ばれている。私たちは普段、「カセン」と呼んでいるけれど、鉄道の保線係の人々は「ガセン」と呼ぶらしい。「河川」と間違えないように配慮しているそうだ。
最近の電車を知っている人なら、パンタグラフは菱形ではなく、「く」の形で描くだろう。パンタグラフは進化している。車両も進化している。線路も砂利を敷いた線路からコンクリート製、そしてラダー軌道などへと進化している。では、架線は進化しているのだろうか? 答えは「イエス」。進化しているのだ。
最もシンプルな架線は、いまでも路面電車などで見られる。2つの柱の間に線を張り、垂れ下がった最も低い位置にトロリー線(電流線)をくっつける。これを「直吊架線方式」(直接吊架式)という。低コストがメリットだけど、架線のたわみが大きいため、列車の速度を上げると、パンタグラフと架線が離れやすくなってしまう。だから高速鉄道ではあまり使われず、路面電車などに向いているといえる。
架線をなるべく地上と平行に保ちたい。そこで考えられた方法が「カテナリー式」だ。2つの地点で保持する電線はたわむ。ならば、そのたわみがあることを前提としようという考え方。たわんだ架線から、長さの異なるタテの線を垂らし、その下にトロリー線を張る。ここで使う垂らした線を「カテナリー」(懸垂線)という。
カテナリー式は最も普及した架線方式だ。電車を利用した人ならきっと見ているはず。このカテナリー式を基本として、架線はさらに進化している。新幹線では、カテナリー式の架線の下に、さらに懸垂線を下ろしてトロリー線を張る。横方向の線が3つになるわけだ。これは「コンパウンドカテナリー式」という。この方式は高速走行でも離線しにくいため、在来線の特急列車が走る区間にも普及している。
その他、在来線ではシンプルカテナリーを2つ並べた「ツインシンプルカテナリー式」や、上に張った線(吊架線)を2本にして横風に強くした「ダブルメッセンジャーシンプルカテナリー式」などもある。地下鉄や長いトンネルでは、天井で架線を平行に固定できるため、トロリー線ではなくレールのような鋼材を使う事例もある。
JR東日本の首都圏の在来線では、カテナリー式を進化させたコンパウンドカテナリー式やツインシンプルカテナリー式へ付け替えられていったが、最近はシンプルカテナリー方式に戻りつつある。ただし旧式ではなく、改良型の「き電ちょう架式」だという。トロリー線の素材が進化し、電流を供給する線と吊架線を共通化するなど工夫されている。架線全体の部品や線の数を減らし、保守の簡易化や景観に配慮しているそうだ。