ケーブルカーといえば観光地の乗り物で、その特徴は景色の良さ。ところが、観光地にもかかわらず景色が見えないケーブルカーが2つある。青森県の青函トンネル記念館にある「青函トンネル竜飛斜坑線」と、立山黒部貫光の「黒部ケーブルカー」だ。

「青函トンネル竜飛斜坑線」のもぐら号

車両が通過するときだけゲートが開く

「青函トンネル竜飛斜坑線」は、地上の青函トンネル記念館と海底の青函トンネル体験坑道を結ぶケーブルカーだ。地下へ向かうケーブルカーだから、当然ながら全区間トンネルとなっている。現在は観光用に利用されているが、もともとは青函トンネル工事の作業員や物資を輸送するために建設された。だから青函トンネル記念館の休館中も、トンネル内のメンテナンス作業用に運行され、青函トンネル内で火災事故などが発生した場合には、このケーブルカーが避難路になるという。

このケーブルカーの特徴はもうひとつあり、すれ違いがない。観光地のケーブルカーは2台の車両が往復し、中間地点ですれ違うものが多い。しかしこのケーブルカーは、青函トンネル記念館駅から体験坑道駅まで1台の往復運行だけ。ただし、体験坑道付近には分岐点があり、作業輸送用の線路がある。全区間トンネルだけど、体験坑道駅付近にはトンネル工事に関する展示物があり、見所も多い。

黒部ケーブルカーの「黒部湖駅」(左) と黒部平駅

「黒部ケーブルカー」は立山黒部アルペンルートの途中にある。黒部ダム付近の黒部湖駅と、立山ロープウェイに接続する黒部平駅を結ぶ。こちらは当初から観光目的で建設された。景色が見えないと知りながら、わざわざ費用のかさむ地下トンネル方式となった理由は2つ。「雪を避けるため」と「自然環境保護」といわれている。

立山黒部アルペンルートは、富山県側から長野県側まで複数の乗り物でひとつのルートを形成する。その中でひとつでも不通区間ができると、通り抜けできなくなってしまう。地形や自然条件が厳しい黒部湖付近は、シーズン中の積雪も多く、傾斜の多いケーブルカーは除雪が困難だ。そこで全区間地下方式とし、安定した運行を実現した。自然保護の観点からも、地上に設備を増やしたくないという意向があったという。自然保護といえば、立山ロープウェイも自然保護への配慮から、支柱を設けない「ワンスパン方式」となっている。

「立山ケーブルカー」は貨車を連結

赤い箱は非常ブレーキを扱う乗務員室

立山黒部アルペンルートにあるもうひとつのケーブルカー「立山ケーブルカー」もユニークだ。旅客車両と貨車の2両編成になっている。この貨車は黒部の電源開発工事に必要な資材を運ぶために連結されている。観光シーズンで混雑する場合は、登山客やスキー客の大きな荷物は貨車に乗せるよう要請されるのだとか。この貨車はかなり大きく、電源開発工事では自動車を運んだこともあったそうだ。