鉄道会社には設立から今日まで続いている文化や考え方がある。例えば優先席は多くの鉄道会社で採用されているが、横浜市営地下鉄は全席が優先席となっている。女性専用席の有無や位置も鉄道会社によって異なる。携帯電話の使用については各社とも、「優先席付近では携帯電話の電源を切って」と呼びかけているが、阪急電鉄の場合は「携帯電話電源オフ車両」を設定している。もちろんその他の車両もマナーモードで、通話は遠慮してほしいとしている。
そんな阪急電鉄だが、他の大手私鉄の車内には必ずある「あるもの」がないという。それは一体なんだろうか。筆者などは「あるもの」のおかげで退屈しないし、世の中の話題も把握できる。知り合いと電車に乗ったとき、ふと会話が途切れてしまっても「あるもの」のおかげで話のタネが見つかったりする。便利で楽しいアイテムだが……。さて、あなたは気づいただろうか。
理由を阪急電鉄に聞いてみた
他の大手私鉄には大抵あって、「阪急電車」にはない「あるもの」とは? それは「週刊誌の中吊り広告」だ。どんな電車にもあると思っているから、実は阪急電車にもあると思っていた。しかし実際に乗ってみると、確かになかった。書籍の広告はあるのだが。他には不動産、金融関係など、おなじみ業種や商品の広告が並んでいる。
毎週、いくつも発行される週刊誌。その広告は収入の面でも大きいはず。出版社にとっても広大な路線網を持ち、大都市と住宅街を貫く阪急沿線の人々に週刊誌を買ってもらいたいはず。では、どうして阪急電車には週刊誌の広告がないのだろう。阪急電鉄に聞いたみたところ、こういう返事だった。
「電車の中は公共の場所と考えております。週刊誌の広告にはごくまれに公共の場所にふさわしくない内容が含まれる場合があります。広告はお金をいただいて掲載させていただくものなので、当社としては内容の1つひとつをチェックいたしかねます。そこで、もとより週刊誌の広告はすべてご遠慮いただいております」
週刊誌にはスキャンダラスな内容もある。だが、コンピューター情報誌やゲーム雑誌など、専門的な内容でスキャンダルとは無縁の週刊誌だってあるというのに……。なんと潔いことだろうか。
ちなみに、車内の中吊り広告というアイデアは阪急電鉄の創業者、小林一三だったといわれている。商売はする。ただし儲けを第一にしない。阪急電鉄の広告に対する考え方は、そんな小林氏の精神に根ざしているかもしれない。