東京電力の電力供給不足により、関東では計画停電が実施されている。関東の鉄道会社の大半は東京電力から電気を購入しており、変電所のある地域が計画停電になると、運休や運行本数削減などの影響を受ける。しかし、JR東日本は自社保有の発電所を持っているため、広大な路線網をなんとか支えられるという。そしていま、その発電所を新潟県十日町市が支援している。

JR東日本の発電所とは

JR東日本は2カ所の発電所を運営している。1つは神奈川県川崎市にある火力発電所。もう1つは、新潟県十日町市と小千谷市にまたがる水力発電所だ。これらの発電所の歴史は古く、火力発電所は1930年から、水力発電所は1939年から稼動している。これらの発電所は、首都圏の通勤路線を電化する際に、安定的な電力を確保するために立ち上げられたという。建設当時の日本国有鉄道が建設し、JR東日本に引き継がれた。

JR東日本の電車は、自社製の電気で走っている

火力発電所は最大65.5万kW、信濃川発電所は最大44.9万kWで、2006年当時はJR東日本が使用する電力量の約60%、首都圏の電車の9割をまかなっていたとのことだ。また、現在は川崎発電所の4号機を更新する工事に着手しており、2013年度から7.5万kWも出力を増強できるという。

この自営電力で足りない分を、JR東日本は東京電力から購入している。首都圏の電車を増発する一方で、省エネルギー仕様の車両を導入する背景には、東京電力へ支払う電力購入費の節約という意味もある。

かつて、水利権を侵害された十日町市が協力

このうち信濃川発電所については、2008年にJR東日本による不正取水が発覚。国土交通省に許可された取水量より多い水を水力発電ルートに流していたという。地元の十日町市、小千谷市やその下流域では川の水位が減り、漁業など生活に大きな影響を受けた。この事態を重く見た国土交通省は、JRに対し信濃川からの取水を取り消す処分を行った。結果、JR東日本は水力発電が実施不可能となり、不足した電力を東京電力からの購入量を増やして補った。

その後、JR東日本は地元への謝罪と再発防止策を重ね、地域振興策を実施することで同意を得た。そしてようやく2010年6月に取水、発電を再開。ただし、信濃川に充分な水量を放出するため、発電量は休止前より小さくなった。東京電力への依存度が高まったとも言える。

ところが、3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生。東京電力の大幅な供給不足という事態になった。これにより、JR東日本の首都圏の鉄道網は危機を迎えた。そこに助けの手を差し伸べた自治体が、不正取水でJR東日本から被害を受けていた十日町市だった。JR東日本の3月14日の報道発表によれば、「十日町市からの提案によって」河川維持流量を低減し、発電量を増やせることになったという。

首都圏の鉄道事情はまだ回復せず、減速運転や運休時間の設定など満足な状態とは言えない。しかし、もし電車に乗ったなら、ほんの少しでも十日町市に感謝の気持ちを持ってほしいと思う。ちなみに新潟県十日町市と小千谷市は、2004年の新潟県中越地震で少なからぬ被害を受けた地域でもある。