シルバーの車体がブーム?

新型車両の登場やSLの運行など、鉄道は身近な話題のひとつとしてニュースに登場する。そんな鉄道には、ファンだけではなく、ふだん鉄道を利用している人も「これはなぜ?」と思うことがるはず。この連載では、そんな鉄道の秘密をご紹介しよう。第1回は通勤電車のお話。

最近の通勤電車は銀色の車体ばかりだ。少し前までは、東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)の中央線、東京 - 高尾間は最近までオレンジ色の電車ばかりだったのに、今ではこの区間も銀色にオレンジ帯の電車ばかりとなってしまった。東急電鉄はかなり前から銀色の電車ばかりだし、真っ赤な電車で親しまれている京浜急行電鉄も、新車は銀色の車体になっている。なぜ、銀色の電車は流行しているのだろう。バブルの一時期、高級自動車で銀色が流行したけれど、これも流行のひとつだろうか。

京浜急行にも、ついに銀色ボディの新1000形が登場した

答えは単純。鉄道の車体の素材が鋼鉄からステンレス製やアルミ合金製に変わったからだ。どちらも鋼鉄より腐食しにくい素材である。また強度が高く、鋼鉄より長持ちする。

もともと電車の塗装はクルマと同じで錆を防ぐためのもの。色で路線を区別したり、個性的なデザインを演出するという役割は、そのついでだった。アルミ合金やステンレスは錆びにくいので塗装の必要はない。しかも銀色は汚れが目立ちにくい。プロが使うキッチンも銀色だし、清潔感がある。それなら塗装する必要はない。塗装にはお金がかかるから、省略できるならコスト削減にもなる。こうした理由で、ステンレスやアルミ合金の地金が目立つ車体が主流になったというわけだ。

ステンレスが採用された主な理由は、「腐食に強いこと」に尽きる。車体表面に錆が出ないだけではなく、車体を軽くできるというメリットがある。鋼鉄製の車体は、長い間に少しずつ腐食していくことを考慮して設計されている。車体の表面だけではなく、屋根や柱までも空気に触れて少しずつ腐食するため、あらかじめ「ここまでは腐食しても強度を保てる」という厚みや太さで部品を作る必要があった。ステンレスは腐食に強いので、鋼鉄よりも細く、薄い部品でも、鋼鉄と同じ強度を保てる。

アルミ合金が採用された主な理由は、「軽量」だからだ。アルミ合金は鋼鉄の3分の1の比重で、鋼鉄とほぼ同じ強度を持っている。もちろん腐食にも強い。航空機では古くからアルミ合金製素材が使われていた。銀色の電車は「ステンレスカー」と呼ばれることも多いけれど、実はアルミ合金製の車体も多い。最新型の新幹線N700系のように、塗装されたアルミ合金製車体もある。前述の京浜急行も、銀色電車を導入する前から「アルミ製の車体全体を赤く塗装した車両」があった。

腐食の心配がなく、塗装が不要の銀色電車。ステンレス車両をいちはやく採用した東急電鉄は、当初は銀色のままで走らせていたのだ。銀色イコール東急というイメージ作りも成立していたようである。しかし、銀色素材の普及が進むと、各社は車体に色をつけ始めた。それは前述のように、路線を色分けして乗り間違いを防ぐためや、鉄道会社のコーポレートカラーなどデザインを考慮したためだ。ここまで読んできたあなたは、「塗装が不要な素材なのに……」と不思議に思うかもしれない。実は文字通り「塗装」している電車は意外と少なく、カッティングシートの帯を貼り付けるなど、コスト削減もきちんと考慮されている。広告ラッピング車両はその応用だ。