11月18日14時59分(日本時間)、景海鵬宇宙飛行士と陳冬宇宙飛行士の2人が搭乗した有人宇宙船「神舟十一号」が、地球への帰還に成功した。
神舟十一号は今年10月19日に打ち上げられ、その約1カ月前に打ち上げられていた宇宙ステーション試験機「天宮二号」にドッキング。2人の宇宙飛行士は天宮二号の中に入り、30日間にわたる宇宙滞在をこなした。
今回の成功で、神舟宇宙船による有人飛行は6回目、そのうち宇宙ステーション試験機への滞在は3回目となり、中国の有人宇宙開発が着実に進んでいることが示された。
天宮二号はまだ宇宙を飛び続けており、2017年4月には新型の無人補給船「天舟一号」が打ち上げられ、ドッキングや燃料の補給といった複雑な試験を行うことを予定している。
有人宇宙船と宇宙ステーション試験機の打ち上げ、軌道上でのドッキング、宇宙での長期滞在、そして物資や燃料の補給。10年以上もかけてこうした技術を積み上げてきた中国が次に狙うのは、本格的な宇宙ステーションの建造と運用である。
有人宇宙船「神舟」
「神舟」は中国が開発した有人宇宙船で、今回で11機目、宇宙飛行士が乗った状態では6機目の飛行となった。また2013年に行われた前号機「神舟十号」の飛行からは、約3年ぶりとなった。
神舟宇宙船というと、ロシアの宇宙船「ソユーズ」に似ていることから、「所詮はロシアからのパクリではないか」などと、たびたび揶揄の対象になっている。
たしかに、中国は神舟の開発においてソユーズを参考にしたことは事実で、これは中国自身が開発録などで認めている。また宇宙船の構成が、宇宙飛行士が宇宙で生活や実験をするための「軌道モジュール」、打ち上げや帰還時に座る「帰還モジュール」、エンジンや太陽電池などが収められた「機械モジュール」の3区画に分かれているところや、それぞれのおおまかな形状はソユーズと似てはいる。しかし、逆に言えばその程度しか同じ点はない。
たとえば各モジュールはすべて少しずつ大型化しており、宇宙船全体の全長はソユーズの7.5mに対して8.6mに、直径は2.7mから2.8mに増えている。大きくなったぶん内部も広くなり、宇宙飛行士はソユーズよりも快適に過ごせるようになっている。
なかでも、一番大きく形が変わっているのは軌道モジュールで、ソユーズのものはラグビーのボールのような楕円体だが、神舟では円筒形になっている。また太陽電池も追加され使える電力も増え、内部の広さも相まって、ソユーズよりも大掛かりで複雑な実験や運用を行うことが可能となっている。
さらに帰還モジュールが分離され、宇宙飛行士が地球に帰還した後も、軌道モジュールのみ独立した人工衛星として活動することも可能なようである。ただし宇宙ステーションとのドッキングなど、ミッションによっては太陽電池をもたない軌道モジュールを装備することもある。
また、宇宙船の後部にある軌道変更用のスラスターは、ソユーズの1基に対して、神舟は小型のエンジンを4基、田の字の形に配置している。理由は不明だが、おそらくは万が一どれか1基が故障しても、残り3基のうち、点対称になる2基を噴射することで運用を続けることを可能にする意図があると考えられる。
ほかにも、ソユーズ宇宙船は全体が灰色のサーマル・ブランケット(断熱シート)で覆われているのに対して、神舟には断熱シートは軌道モジュールにしかなく、さらに色も白く、おそらく素材から異なっているものと考えられる。また前方を見るためのペリスコープ(潜望鏡)もないなど、ソユーズと異なる点は枚挙にいとまがない。
もちろん、これらの変更点が、すべて"改良"であるかどうかはわからない。中国では同等の部品が手に入らないためにやむなく設計変更した結果である点もあるだろうし、改良ではなく"改悪"になっている部分もあるだろう。たとえばソユーズも神舟も、打ち上げ時にロケットに問題が発生するなどして脱出しなければならなくなった際、帰還モジュールと軌道モジュールを脱出用のロケットで引き剥がす。しかし、神舟の軌道モジュールが大きくなったということは、そのぶん脱出に必要なロケットが大きく、複雑になっているはずであり、脱出時の安全性がやや損なわれている可能性がある。
しかし重要なのは、中国が単なるソユーズのコピーにとどまらず、自分たちの頭で考えて新しい宇宙船を設計し、開発することに成功したうえに、順調に運用を続けることができているという点である。
慎重な神舟の歩み
神舟の初飛行は1999年に行われた。このときは無人で、その後も動物を積むことはあったものの、4号機までは無人で飛行試験を繰り返した。
そして満を持して2003年、楊利偉宇宙飛行士が搭乗した「神舟五号」が打ち上げられ、地球を約14周(約1日間に相当)した後、無事に地球への帰還に成功した。楊氏は現在、中国有人宇宙飛行プロジェクト事務室の副主任を務めている。
2005年には2人の宇宙飛行士が乗った「神舟六号」が打ち上げられ、成功。2008年には3人が乗った「神舟七号」が打ち上げられ、そのうち2人が船外活動(いわゆる宇宙遊泳)を実施し、こちらも無事に成功を収めている。
こうした流れを見てもわかるように、神舟が開発されてから、実際に人を乗せて打ち上げるまでには、4年をかけて慎重に無人での試験を繰り返している。またその後も、複数人が乗った状態での打ち上げや、船外活動など、徐々に難しいミッションにひとつずつ挑戦していき、またその間隔も2~3年おきと、慎重を期している。
たとえばソ連では、1961年に初の有人宇宙飛行を行い、1964年に初の船外活動を行っている。米国は、初の有人での軌道飛行が1962年で、初の船外活動は1965年、さらに初の軌道飛行からわずか7年後の1969年には「アポロ11」が月に着陸している。
単純に比較するのはやや強引かもしれないが、何もかもが手探りだった宇宙開発の黎明期よりも、中国はさらに時間をかけ、慎重に計画を進めているということを示している。
そして中国は続いて、大型の宇宙ステーションの建造を目指し、そのために必要な技術開発や試験へと移った。そしてその歩みもまた、慎重なものであった。
(第2回へ続く)
【参考】
・http://www.cmse.gov.cn/module/download/downfile.jsp?classid=0&filename=1609141817116362147.pdf
・http://www.cmse.gov.cn/art/2016/11/18/art_18_31353.html
・Shenzhou 11 crew return to Earth - China Space Report
https://chinaspacereport.com/2016/11/18/shenzhou-11-crew-return-to-earth/
・Two Chinese astronauts back on Earth - Spaceflight Now
http://spaceflightnow.com/2016/11/18/shenzhou-11-landing/
・Shenzhou-11 returns Chinese duo to Earth | NASASpaceFlight.com
https://www.nasaspaceflight.com/2016/11/shenzhou-11-returns-chinese-duo-to-earth/