DSPの大きな特徴として、「さまざまなターゲティングを組み合わせて、より細かい広告配信を実現できること」があります。

このターゲティング手法は、多彩なものが存在しますが、これらの紹介の前に、今回はマーケティングの基本戦略となる「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」についておさらいしたいと思います。

アドテクノロジーの進化は、画期的な手法で推進してきた反面、やや手法先行で活用されています。現在では、アドテクノロジーによってデータが膨大に取得できるようになりました。

しかし、データの特性や制約を考慮して分析・評価を行わないと、判断を見誤ることにもなりかねません。このことからも「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」は、DSPのターゲティングを検討する上で役立つ考え方です。

STPマーケティング

まず、みなさんは「STPマーケティング」をご存知でしょうか。

マーケティングの大御所、フィリップ・コトラー氏が提唱した代表的な手法のひとつで、効果的に市場を開拓するための考え方です。自社の「製品・サービス」を「誰に」対して、どのような「価値」を提供するかを明確にしていきます。

STPとは、「Segmentation」「Targeting」「Positioning」それぞれの頭文字を意味し、この3つのステップで自社が狙うターゲットセグメントを特定することで、マーケティング施策の基本的な方向(設計図)を定めます。

では、各ステップの詳細を見てみましょう。

セグメンテーション : Segmentation

不特定多数を対象にした製品・サービスは実質、存在しません。顧客分析や担当者の経験則を通じて、何らかの共通項の固まりを考え、顧客をグループ分けてしたのち細分化し、狙うべき顧客層の準備を行います。

■ 代表的な細分化の切り口
・ 人口動態変数 : 年齢・性別・家族構成・所得など
・ 心理的変数  : ライフスタイル・パーソナリティ・価値観など
・ 地理的変数  : 居住地・地域・文化・行動範囲・気候など
・ 行動変数   : 製品知識・態度・使用頻度・購買状況など
・ ロイヤリティ : ブランドへの好意・信頼・評価など

この中で最も活用される分類は、性別・年代や使用頻度・購買状況などです。インターネットの場合は、Webコンテンツの内容やジャンル、アナリティクスを通じて分析したライフスタイル・価値観、購入(利用)状況などを活用することが多いほか、今後は位置情報をはじめとしたモバイルからの情報が積極的に活用されるでしょう。

さらに、顧客の細分化(セグメンテーション)で考慮したい視点が2つあります。

1つ目は、自社に関連したデータのみに偏らないようにすること。偏ったデータセグメンテーションは、データを取得しやすいインターネット系企業に多いように思います。

2つ目は、競合を同業種のみに絞らないようにすること。たとえば、「隙間時間」におけるスマホ利用は、メール・検索・動画・ゲーム・電子書籍など、さまざまな業種をまたがります。従って競合は、同業会社だけではありません。また、利用者もそのような分類でサービスを選択していません。

「自社にとって意味があるのか」といった軸や、切り口を発見することが重要ですが、顧客は、企業側が定義した通りに思考しているわけではないので注意が必要です。

ターゲティング : Targeting

ターゲティングとは、自社製品を市場に投入する際、どの顧客層(セグメント)を標的市場(ターゲット)にするかを決めることです。企業のリソースは限られており、自社の製品・サービスが訴求しやすく、競争力を持つ顧客セグメントを選択することが求められます。

ターゲティングの方法としては、「セグメント規模」や「強み / 弱み」「参入障壁」「競合の戦略」「環境要因」などビジネス視点で選択します。

ただし、感度の良いセグメントを発見(仮説)することも、後の施策を考える上で重要です。目先の売上だけでなく、セグメントの成長性や生涯価値(Life Time Value)も加味して育成していくセグメントを見ていくことも必要となっていきます。

経験豊かなマーケティング担当者でも、セグメントの絞り込みは何度やっても難しいものです。ビジネス視点と分析で得られた情報、そして、ポジショニングの有効性を往来しながら、セグメントの価値を判断していきます。

つまり、セグメントの価値は、その製品・サービスが置かれている状況やマーケティングの目的によって異なるということをあらかじめ認識しておくことが重要です。同時に、複数のセグメント間の役割や目的を考慮しながら、価値に応じたランク付けや、その計測が可能な評価軸を考えておくことも必要となります。

ポジショニング : Positioning

ポジショニングとは、ターゲット顧客の「頭の中」にある自社製品・サービスについて、独自のポジションを築き、顧客に自社製品・サービスのユニークな価値を認めてもらうことです。

すなわち、競合に対して優位に立つことが目的となり、さまざまなマーケティング戦略と整合していなければならず、マーケティング・プロセスの中でも重要なステップとなります。

ポジショニングを進めていくうえでの考慮すべき点は2つです。

1つ目は、製品・サービスの「特性」を顧客のベネフィットに変換すること。顧客の頭の中にある「価値」感に合わせて、メッセージを考えなければなりません。「性能」や「スペック」「割引」といった部分を訴求する前に、自社製品・サービスを利用することで得られる「体験」や「感動」「メリット」などをイメージさせることが重要となります。

2つ目は、設定したポジションでNo.1であること。2番ではダメです。よくある例えですが、日本で一番高い山は皆、知っていますが、2番目・3番目は知られていません。「日本一」と言えなければ、「関東一」「町で一番」としてターゲットを絞り込むこともできます。できるだけ競合しない土俵を自ら作ることです。

同一の製品・サービスであっても、セグメントされた顧客タイプごとに期待する価値は異なりますので、あらゆるタッチポイントに応じてポジションを微調整しなければなりません。

ディスプレイ広告もさまざまなマーケティング施策と連動し具体的な方針が策定されます。しかし、Web広告ではデータを取得してしまうことで、場当たり的になることがあります。

市場における顧客ニーズの理解や、顧客の興味にあったベネフィットの訴求、競合を対象とした自らのポジショニングの確立、という基本戦略を改めて振り返ったのち、DSPのターゲティングを設計していきましょう。

次回は、DSPにおけるさまざまなターゲティング手法を紹介します。

執筆者紹介

ソネット・メディア・ネットワークス 商品企画部

2000年3月に設立。ソニーグループの一員として、インターネットサービスプロバイダー(ISP)を運営するソネットの連結子会社としてインターネットマーケティング事業を展開する。国内最古のアドネットワーク事業者として10年以上の実績があるほか、RTBの市場拡大に先駆け、DSP「Logicad(ロジカド)」を自社開発。2014年10月には、インターネット広告に関する技術の精度向上を目的とした研究開発を行うラボを新たに設立するなど、独自のポジションを築く。