社内SNSの課題のひとつは「どうやったら社員に使ってもらえるか」だが、日立総合計画研究所(以下、日立総研)の場合、実験的に作った社内SNSが日立グループ内で爆発的に広まり、新規加入者をストップするまでに増えたという。このようなケースは非常に珍しいが、どうやって普及に至ったのか。また、既存のサービスを利用したり製品を購入するのではなく、社内SNSを自分たちで導入する場合の注意点にはどんなことが挙げられるのか。日立総合計画研究所 主管研究員 佐藤尚彦氏、日立コンサルティング アナリスト 枝松利幸氏に話を聞いた。

実験的に作った、グループを横断する社内SNS

日立総研は日立グループのシンクタンクであり、「日立グループに貢献する」というミッションを持っている。日立グループの社内SNSは2006年12月にその日立総研が中心となり開始された。

日立コンサルティング アナリスト
枝松利幸氏

当時、日立製作所の新入社員だった枝松氏は大学生のころからmixiなどのSNSを活用しており、入社時から「日立グループに社内SNSを導入すると役に立つのではないか」と考えていた。Web2.0関連のセミナーに出席するなど、SNSへの興味を上司に知られていたこともあり、SNSを作る実証実験の際に担当者として抜擢されたという。

日立グループはイントラネットの中にブログはあるものの、個々の組織の中だけで使用しており、法人を超えて日立グループ全体で使えるツールは存在しなかった。そんな中、グループすべてがつながることができる初めてのツールとして、期待されたスタートとなった。

規約などを徹底的に作り込んでからのスタート

「最初から規約は作り込みました。法的に守られたものにしたいと思ったので、他のSNSの規約をいくつも調べ、それを参考に独自に書き直して使いました」(枝松氏)。細かなところは、専門家の意見を聞いて作り上げていった。

日立総合計画研究所 主管研究員 佐藤尚彦氏

ガイダンス、FAQ、利用の手引きなどに関しては、2カ月をかけて準備をしていった。その他の点についても本格的なサービスと同様に、通報機能を作ったり、プライバシーポリシーに関しては事前に「同意」を選ばないと参加できないようにした。「最終的には本社(日立製作所)で導入してもらいたいと思っていたので、明日にでも正式サービスとして始められるように作り込みました」(佐藤氏)。

始めた後で問題が出てきた場合は、問題を解決した後で規約にも反映させていった。たとえば実施後に問題となったのは、著作権に抵触する画像を使ってしまうケースだ。はじめは「運営者がふさわしくないと考えたものは取り下げてもらう」と個別対応していただけだったが、問題を把握した後は「画像に関して著作権に抵触するものは利用禁止」の旨を画面に1行付け加えた。

会社のアドレスで登録しているため、完全実名制であり、漢字を平仮名に書き換えることなども禁止だ。また、情報漏えいのリスクを考えて、書き込みはイントラネット経由のアクセスに限った。「日立グループのネットワークの中にあるので大丈夫」という前提が、ユーザーが安心して利用できることにもつながっていった。

潜在的な問題意識を刺激して爆発的に増加

開始当初、枝松氏が自分で招待したのは全部で30人くらいだ。そこから予想を大幅に上回る毎日100人、というハイペースで増えていった。ついに1カ月で1,000人にまでふくらみ、とうとうサーバーがダウンした。「ここまで増えると思わなかったので、かなりびっくりしました。最初は喜んでいたのですが、だんだん不安になってきまして…」と枝松氏。一時、招待機能を止めて負荷をストップし、専門家に依頼してチューニングしてもらう必要がでてきたほどだった。今では何と4,500人にまで増えている(新規招待はストップしている)。

そこまで参加人数が増えた理由について枝松氏は、「ちょうどmixiが上場してSNSが一般化した時期だったのが良かった。また、IT系グループの人たちはITリテラシが高く、抵抗なく参加したので、そこから一気に増えたのも要因のひとつでしょう。もうひとつ、社内のコミュニケーションに関して問題意識を持っていた人が多かったせいもあるかもしれません」と考えている。同じ日立グループにいても、総勢30万人にもなると顔を合わせない人がほとんどだ。同じグループにいる知らない人ともっと出会いたいという気持ちと、メール以外のツールが欲しいという潜在的なニーズが成功の大きな要因だったことは間違いない。

ファシリテータ役は枝松氏が行った。「SNSなら、知らない人からコメントがもらえて面白い」と感じてもらいたかったので、知らない人にも積極的にコメントを付けていった。管理者IDと個人IDを使い分け、管理者IDで通知を出したり注意を促す文章を出す一方で、個人IDで1ユーザーとして参加した。あくまでサービスを提供しているという意識で、佐藤氏と枝松氏の二人で全体を見るようにしていたという。システムメンテナンスは日立総研のIT担当が行ってくれたので、システムに関してはいっさい気にしないで済んだ。

書き込みはすべて業務につながるスタンス

コミュニティも350くらいあり活発だが、一番よく使われているのは日記だ。人気のある日記は1日300 - 400以上のアクセスがある。現在、1日100件の日記がアップされ、コメントに至っては4、500件も付く。1つの日記に対してコメントがチャット状態になり、20件を超えることがあるという。

枝松氏のポータル画面。実証実験のSNSという位置づけだが、既存サービスにひけをとらないほど作り込んであるのはさすが

コミュニティに限って言えば、7割くらいが業務に直結するもので、日記も6、7割は業務的なことか、仕事の参考になりそうな内容が中心だ。ただし、SNS上で直接業務を行うというわけではない。「メールではなく、わざわざSNSに書くのは人間関係の維持とネットワーク強化のためという意識があるのでしょう。"みんなの役に立ちそうだから書く"というスタンスが多いですね」(枝松氏)。

枝松氏らの認識は、「SNS内でのやりとりはすべて業務につながっている」というものだ。プライベートのことが書かれていてもそれが人間関係をスムーズにし、結局は業務に反映されるので、内容については厳しく取り締まらなかったそうだ。「禁じたことは、他社の情報を書くことくらいです。ちょっとふざけすぎかなと思うことがあっても、コメントで注意するくらいに留めました」(枝松氏)。

日記は枝松氏が1人で全件チェックし、写真も全部見ていた。問題があったら啓蒙していくというスタンスだったが、実名で書き込んでいることもあり、すぐに止めてくれたそうだ。

次回は、このSNSが同グループに与えた効果などについて聞く。

【基本データ】

  • 特徴: 実証実験として始めたら一気に広まった社内SNS
  • 使用製品: OpenPNE(オープンソース)
  • 使用開始時期: 2006年12月から
  • 利用者: 約4,500名(日立グループ全30万人中。ただし2007年12月時点では新規招待はストップしている)
  • ファシリテーター: あり(1名、ただし正式な存在ではない)
  • 参加方法: 招待制
  • アクティブ率: 約2割
  • 日記: 1日100本程度、コメント: 400 - 500件程度、コミュニティ: 350程度