北海道の鉄道網が混迷を極めている。

JR北海道の「輸送密度500人未満の路線は廃止、2,000人以上の路線は維持」という方針が報じられた。沿線自治体の危機感は大きく、道へ要望するも差戻し。道から国への要請も「まず道の議論を進めよ」という立場である。その前後に台風と熱帯低気圧が次々に北海道を襲った。その影響でJR北海道の北部・東部の幹線が寸断された。

相次いで上陸した台風の影響で、根室本線・石勝線をはじめ、道内の各路線で甚大な被害が発生した

9月13日の北海道新聞によると、釧路市、網走市、根室市の市長が12日に北海道庁を訪れ、JR北海道の鉄道事業見直しに対して、道が中心となってJR北海道と協議するよう求めた。これに対して北海道副知事は「北海道全体の課題として対応する」としつつも、「地域もどう鉄道を利用するかなど議論してほしい」と返したと報じられたという。

3市長の期待は、道から「わかりました。道と地域が一体となって、鉄道交通の整備活用を検討しましょう」という返答だったと思う。それが「道も検討するから市も考えよ」である。市だけではどうにもならないから道に願い出ているわけで、これは門前払いに等しい。とても残念なニュースだった。

ただし、道の立場も苦しい。さかのぼって8月6日の北海道新聞によると、8月5日に北海道の渡辺直樹交通企画監と、道議会の長尾信秀新幹線・総合交通体系対策特別委員長が国土交通省を訪れ、JR北海道の経営再建に向けた国の支援を要請したとのこと。これに対して国土交通省担当者は「道の議論を進めた上で国の支援を議論したい」と返答している。道の期待は「国として北海道の発展、復興のため鉄道維持に協力したい」という答えだったろう。国の返答はまるで上告差戻しである。

2つの報道から導かれる答えは、「道とJR北海道が議論を進めた上で鉄道存続の必要性と支援要望をまとめ、国土交通省に上げよ」となる。現在のところ、主体的に動くべきは道だ。まず道が「北海道にとって、いかに鉄道が必要か、それが国にどれだけ貢献するか」をまとめ、国に対して強く訴える必要がある。

北海道振興策としての鉄道の役割は?

国としても道に任せきりにしてはいけない。これは北海道という自治体の話ではなく、「北海道島」という国土の問題だ。

こうした議論の中で、台風と熱帯低気圧が次々に北海道を襲った。その影響でJR北海道の北部・東部の幹線が寸断された。台風によって鉄道と農家は大きな損害を被った。これは北海道だけの問題ではない。

北海道産のジャガイモ、タマネギ、トウモロコシの被害は甚大で、本州への出荷が難しくなっている。とくにタマネギは深刻だ。タマネギの生産量は北海道と佐賀県が多く、次いで兵庫県、長崎県、愛知県となっている。ところが佐賀県タマネギは今年、天候不順によるカビ由来の病気で不作が続いている。そこに北海道産の供給不足が重なる。すでに東京の小売店でもタマネギの価格は上昇しているそうだ。タマネギの価格上昇は家計だけではなく、カレーや牛丼チェーンなど外食産業の業績にも影響する。輸入を検討する動きもあるという。

十勝毎日新聞社によると、JR貨物は根室本線の貨物列車の代替輸送として、札幌までトラックで輸送している。しかし、貨物列車1日あたりコンテナ約420個の輸送力に対してトラックは約150個と1/3にとどまる。これは生鮮農産物の出荷量とほぼ同じで、輸送も優先されているという。その他の製品は帯広貨物ターミナルに積み上がっている。輸送力は例年の5割程度に落ち込んだ。今後は釧路から貨物船に載せる計画とのことだ。

16日の閣議で、台風10号など4つの台風による被害は激甚災害に指定された。これで鉄道網の復旧も進めやすくなる。東日本大震災のJR東日本や、熊本地震のJR九州の場合は、黒字企業のため政府による支援が進まなかった。ところが、JR北海道は幸か不幸か、誰もが認める赤字企業だ。政府の復旧予算に組み込まれる可能性は高い。しかし、当のJR北海道が廃止の意向を示している路線となると、政府としても復旧していいものか悩ましいのではないか。

北海道の農産物輸送の停滞は、国全体の経済と自給率の問題でもある。農産物の管轄は農水省で、経済は経産省の管轄だ。輸送を担う鉄道は国土交通省の管轄である。国の機関はどれだけ連携しているのか。

国土全体としてみれば、国は北海道の鉄道網に冷淡なくせに、なぜか沖縄県に鉄道を作ろうとしている。2002年の沖縄振興計画では軌道系交通システムの検討がなされ、国会で南北交通の鉄道が課題として採り上げられ、2010年度は約3,500万円、2011年度は約4,000万円の調査予算が組まれた。これを機に、沖縄県では「沖縄21世紀ビジョン」を策定し、2030年までに南北を縦断する鉄軌道等の新たな公共交通システムを導入し、これを基軸とした交通体系の整備を掲げた。一方、政府が沖縄振興策として提案した鉄道について、国土交通省は赤字になるという試算結果を提示、それでも沖縄県は黒字化可能として整備を続ける意向だ。県と国が整備して、運行は民間もしくは第三セクターになるという。

沖縄の歴史を考えれば、国の沖縄に対する振興策は当然だ。しかし、国土全体の均衡な発展という意味で考えれば、なぜ国が北海道を放置できるのか理解しがたい。沖縄振興策も必要だけど、北海道も厳しい自然と闘った歴史がある。今回の災害は被害甚大であり、それでなくとも北海道という広範囲な国土に対して、国は積極的な振興策をもってしかるべきだ。沖縄には鉄道が必要で、北海道の鉄道は不要。その政策に矛盾はないか。