今回は継承の続きとなります。前回であらかた継承の話はしたのですが、今回はその発展となります。

メソッドのオーバーライド

「オーバーライド」は継承したクラスで継承元のクラスのメソッドを「上書き」する手法です。前回、コンストラクタであまり説明をせずにオーバーライドを使いましたが、もう少ししっかり解説したいと思います。

まず、そもそも何のためにオーバーライドを使うかということなのですが、一般的には後述する「ポリモーフィズム」を実現するためです。ポリモーフィズムについての解説で、メリットや使い方の話を扱うので、ここではとりあえずオーバーライドの使い方についての話のみに留めます。

まず、以下のクラスParentがあるとしましょう。

class Parent:
    def __init__(self):
        print('Parent __init__()')

    def fun1(self):
        print('Parent fun1()')

    def fun2(self):
        print('Parent fun2()')

これを継承するChildというクラスを作ります。

class Child(Parent):
    def __init__(self):
        print('Child __init__()')

    def fun1(self):
        print('Chilc fun1()')

見てわかるようにChildはParentを継承するという宣言を1行目で行い、コンストラクタ__init__と親が持つfun1()というメソッドと同じ名前のメソッドを再定義しています。一方fun2()については再定義していません。これを実行すると以下のような出力が得られます。

c = Child()
# Child __init__()

c.fun1()
# Chilc fun1()

c.fun2()
# Parent fun2()

見てもらうとわかりますが、Childで再定義したコンストラクタやメソッドはChildの処理が呼び出され、再定義していないメソッドは親のものがそのまま呼びだされていることがわかりますね。

ちなみに、Childのコンストラクタをなくすと親のコンストラクタを呼び出します。コンストラクタもメソッドなので、メソッドfun1()、fun2()の動きと全く同じ原理です。

class Child(Parent):
    """ COMMENT OUT
    def __init__(self):
        print('Child __init__()')
    """

    def fun1(self):
        print('Chilc fun1()')

c = Child()
# Parent __init__()

さて、このあたりでいったんオーバーライドの動きについてまとめてみましょうか。

オーバーライドの動き

見てもらうとわかりますが、子クラスで再定義したメソッドは子クラスのものを呼び出し、再定義していない場合は親クラスのメソッドを呼び出します。当然ながら、子クラスだけしか持たないメソッドを親クラスのインスタンスは呼び出せません。

オーバーライドしたメソッドからの親メソッドの呼び出し

さて、先ほどのオーバーライドの例ですが、若干困ったところがあります。それは「オーバーライドしたいのだけれども、親の処理を呼び出す必要がある」という場合です。

少し難しくなるのですが、例をあげてみましょう。たとえば「あるテキスト情報をデータベース・サーバーに登録する」必要があるとします。ただ、その入力方法にはいくつかの選択肢があり、ひとつはコンソールを使ったもの、もうひとつはWebからの入力(HTTP REST)であるとします。

まず継承を使わない一番愚直な実装はそれぞれの入力方法ごとにクラスを作り、そのなかでデータベース・サーバーへの接続と書き込み処理を記述するというものです。ただ、よく考えてもらうとわかるようにデータベースへの登録処理は両方のクラスでほとんど同じになるため、あまり賢い実装方法だといえません。

これを解消するために今回は親クラスにデータベースの処理は任せ、子クラスは異なるinput方法にのみ対応するという設計をしたとしましょう。これは以下の図のようになります。

Console Registerクラスはコンソールへの入力をデータベースに登録し、Web RegisterはHTTPからの入力をデータベースに登録します。ただ、その登録自体は親クラスのメソッドを利用するという形式です。

また、データベース・サーバもIPアドレスを持ちますので、その登録もそれぞれ必要です。ただ、その管理は親にすべて任せることとしましょう。

図を見てもらうとわかると思いますが、子クラスの初期化にしろ、メソッドの呼び出しにしろ、いずれにしても「親クラスの同名のメソッド」を呼び出す必要があることがわかります。ただ、先ほどのParent、Childの例を見てもらうとわかるように、子クラスでメソッドをオーバーライドすると、親クラスのメソッドは呼びだされません。

今回はこの制約を解除する方法、つまり「オーバーライドした子クラスのメソッド」が「オーバーライドされた親クラスのメソッド」を呼び出す方法について扱います。

では実際にサンプルを使って説明してみましょう。

class Register:
    def __init__(self, dbip):
        self.dbip = dbip

    def register(self, text):
        print('write "' + text + '" to DB Server at ' + self.dbip)


class ConsoleRegister(Register):
    def __init__(self, dbip):
        Register.__init__(self, dbip)  # call parent method

    def register(self):
        text = 'input from Console'
        Register.register(self, text)  # call parent method


class WebRegister(Register):
    def __init__(self, dbip):
        Register.__init__(self, dbip)  # call parent method

    def register(self):
        text = 'input from REST'
        Register.register(self, text)  # call parent method

c = ConsoleRegister('10.0.0.1')
c.register()
# write "input from Console" to DB Server at 10.0.0.1

w = WebRegister('10.0.0.1')
w.register()
# write "input from REST" to DB Server at 10.0.0.1

見てもらうとわかると思いますが、親クラスでデータベースへの処理を概念化した処理をさせています。

そして、子クラスはそれぞれ親クラスのメソッドをオーバーライドして独自の入力メソッドを作っていますが、そのなかで親クラスのメソッドを呼び出しています。コメントした箇所ですね。このように書けばオーバーライドされて上書きされている親クラスのメソッドも呼び出せると覚えておいて下さい。

ちなみに子のメソッドfun1()からオーバーライドされている親のメソッドfun2()を呼び出すといった使い方もできます。ただ、あまりにそのような使い方をするとコードが読みにくくなるので、設計レベルで改めたほうがいいかもしれません。そもそもfun2をオーバーライドするのではなく、別のメソッド名のものにしたり、後述するデリゲーションを使うべき状況かもしれないです。

ポリモーフィズム

ポリモーフィズムは日本語で多態性と訳されます。その意味をWikipediaで調べてみると

ポリモーフィズムあるいはポリモルフィズム(Polymorphism)とは、プログラミング言語の型システムの性質を表すもので、プログラミング言語の各要素(定数、変数、式、オブジェクト、関数、メソッドなど)についてそれらが複数の型に属することを許すという性質を指す。多態性、多相性、多様性とも呼ばれる。

とあります。ポリモーフィズムの概念をある程度理解している私にも難しくてよくわからないです(笑)。難しい説明よりも、簡単な例をあげて説明しましょうか。たとえば以下のコードを見てください。

print(1 + 1)
print('hello ' + 'python')

何を今更と思われるかと思いますが、注目して欲しいのは演算子の + です。この + の使われかたとして「数を足す」「文字列を足す」という2通りの使い方をされているのがわかりますね。

つまりこの + は与えられる値によって、同じ「足す」という動きであっても挙動が微妙に違います。要するに「書き方はひとつなのだが、動き方は複数ある」というのがポリモーフィズムのメリットだと思っていただければかまいません。

ちょっとPythonっぽくないのですが、ポリモーフィズムの例を示してみます。前回お話しした図形描画をポリモーフィズムで実現するという話です。

以下の図を見てください。これは図形を描画する簡単なGUIアプリケーションの画面とします。左側のボタンで選択された図形が、右側の描画領域でドラック開始からドラッグ終了ポイントまでの大きさで描画されます。

今回は三角形が選択されているので、ドラッグ&ドロップすると三角形が描画されます。パワーポイントと同じですので、わかりやすいですよね。そして以下の図のように丸が選択されていれば、丸が描画されます。四角形も同じです。

さて、これを実装するにはどのようにすればいいでしょうか。答えは簡単でポリモーフィズムを利用すればいいのです。ポリモーフィズムの「書き方はひとつなのだが、動き方は複数ある」という性質を使うことで「親クラスを使うかのようにプログラムを書き、実際には子クラスが利用されている」という状況を作ります。

実際にこれをコードを書いてみます。コードを書くにあたって重要なのは、ポリモーフィズムをどのように実現するかという戦略を立てることです。

その戦略は一般的には以下のようになります。

  • 呼び出されるメソッドは親クラスで実装する
  • 共通した処理は親クラスに任せる
  • 子クラスは親クラスとの差分のみ実装する

このようにすることで、子クラスのメソッドをまるで親クラスのメソッドを使うかのように呼び出し、実際は子クラスとして振る舞うということが実現できます。

口でゴチャゴチャ行っても頭が混乱しそうなので、コードで示したいと思います。まず最初の「呼び出されるメソッドは親クラスで実装」と「共通した処理は親クラスに任せる」を考慮した親クラスの設計をします。

class Graphic:
    def __init__(self, x1, y1, x2, y2):
        self.x1 = x1
        self.y1 = y1
        self.x2 = x2
        self.y2 = y2

    def draw(self):
        print('Error')

まず、x,y座標はすべての図形で持つため、それは親に持たせています。そしてすべての子クラスは共通して「描画」という機能を持つので、それも親に実装します。

次に子クラスを実装します。親クラスのx,y座標を使いつつ、独自のdraw処理をします。

rectangle = '''({},{})
#######
#     #
#     #
#######
   ({},{})'''

class Rectangle(Graphic):
    def draw(self):
        print(rectangle.format(self.x1, self.y1, self.x2, self.y2))


triangle = '''({},{})
   #
  # #
 #   #
#######
   ({},{})'''

class Triangle(Graphic):
    def draw(self):
        print(triangle.format(self.x1, self.y1, self.x2, self.y2))

四角と三角をどういう数式で書くかは今回の話題ではないので、手抜きをさせてください(笑)。それぞれの子クラスではアスキーアートの四角、三角を座標付きで表示させています。

実際は以下の図のように、各draw関数を実装することで、どの子クラスが利用されているかによって描画方式が変わっていると思っていただければかまいません。

じゃあ、これを実際に使ってみます。まず、先ほどのアプリケーション画面を前提として、

  • どの図形を描画するか選択されている
  • ドラッグ&ドロップが完了し、x,yはすでに取れている

という前提をしましょう。するとコードは以下のようになります。

# (1)
graphic_type = 'rectangle'
#graphic_type = 'triangle'
x1,y1,x2,y2 = 1,2,3,4

# (2)
if(graphic_type == 'rectangle'):
    graphic = Rectangle(x1,y1,x2,y2)
elif(graphic_type == 'triangle'):
    graphic = Triangle(x1,y1,x2,y2)
else:
    graphic = Graphic(x1,y1,x2,y2)

# (3)
graphic.draw()

# (1,2)
# #######
# #     #
# #     #
# #######
#    (3,4)

実際は上記のコードのgraphic_typeとx1,y1,x2,y2はマウス操作などで動的に決まります。重要なのはそのあとで、graphic_typeなどの値によって、「どの子クラスを使うか」は動的に決まるものの、最後の処理(3)に関してはどの子クラスであっても完全に同じ使い方をするということです。

つまり子クラスに細かい描画の実装は任せるものの、それ以外のほぼすべては親クラスが持つ性質を使ってプログラムが実行されます。こうすることで、複数のクラスごとの処理を細かく大量に書くのではなく、同じ処理を複数のクラスで使い回すことができるのです。

まぁ、このあたりの話はかなり難しく、聞いただけではよくわからないと思っています。実際に私もそうだったのですが、ある程度自分でコードを書いてみて初めて腑に落ちることもあるので、勉強して、書いて……を繰り返すのがいいのではないでしょうか。

多重継承

Pythonのクラスは2つのクラスを継承することができます。これを禁止している言語もあるので、存在は知っておいて欲しいですが、あまり積極的に使って欲しくはない機能です。

class Parent1:
    def print_hello(self):
        print('hello')

class Parent2:
    def print_world(self):
        print('world')

class Child(Parent1, Parent2):
    def print_python(self):
        print('python')

c = Child()
c.print_hello()
c.print_world()
c.print_python()
# hello
# world
# python

継承 vs コンポジション

さて、今回まで継承についていろいろと説明してきましたが、継承を覚えたときに陥りがちなのは「継承中毒」というやつです。要するに、なんでもかんでも継承してしまうということです(笑)。なお、継承は「絶対継承すべき」という場面以外では使わないというのが私の持論です。詳しくは『Effective Java(第2版 丸善出版 1994年)』あたりの本を読んで欲しいのですが、「継承よりもコンポジションを使うべき」というテーマの話題があります。

コンポジションは前半戦で学んだので覚えているかと思いますが、要するに、あるクラスに別のクラスを持たせることです。継承で実現できる「親クラスの関数やパラメータを使う」という機能はコンポジションでも実現可能です。

一方、たとえばGUIのパーツやスレッド関係のクラスは、場合によっては継承が必須です。また、今回のような「ポリモーフィズム」を実現するのにも、継承を使うべきかもしれません。型システムがJavaなどより厳格でないPythonでは、必ずしも継承を使わなくてもポリモーフィズムは実現できます。継承を使わなくても、同じメソッド名でそろえれば問題ありません。ただ、「俺はポリモーフィズムを使っているぞ」という表明のためにも継承を使うべきかもしれません。

継承にすべきかコンポジションにすべきか悩んだ場合は、それが

  • IS-A 関係
  • HAS-A 関係

であるかどうかを考える必要があります。A is Bのときは継承を使い、A has Bのときはコンポジションを使うというのが一般的な決め方です。時と場合により例外はあるでしょうが、まずは基本に忠実に実装してみるのがよいかと思います。


演習1

ポリモーフィズムとは何か説明してください。この記事だけでなく、いろいろなソースをあたっていただきたいと思います。

演習2

多重継承のメリットとデメリットについて調べてください。

演習3

継承とコンポジションのそれぞれのメリット・デメリットについて調べてください。『Effective Java』に載っているこのトピックは非常に有名なので、調べれば情報がでてくると思います。


次回とその次の回はGUIについて扱います。今まで何度もお伝えしましたが、GUIはオブジェクト指向を学んだり、気軽にアプリケーションを書いたりするのに良い素材です。比較的、理屈っぽくないゆるく面白い内容になるかと思いますので、次回もよろしくお願いします。

執筆者紹介

伊藤裕一(ITO Yuichi)

シスコシステムズでの業務と大学での研究活動でコンピュータネットワークに6年関わる。専門はL2/L3 Switching とデータセンター関連技術およびSDN。TACとしてシスコ顧客のテクニカルサポート業務に従事。社内向けのソフトウェア関連のトレーニングおよびデータセンタとSDN関係の外部講演なども行う。

もともと仮想ネットワーク関連技術の研究開発に従事していたこともあり、ネットワークだけでなくプログラミングやLinux関連技術にも精通。Cisco社内外向けのトラブルシューティングツールの開発や、趣味で音声合成処理のアプリケーションやサービスを開発。

Cisco CCIE R&S, Red Hat Certified Engineer, Oracle Java Gold,2009年度 IPA 未踏プロジェクト採択

詳細(英語)はこちら