前回の三脚を使った流し撮りだったが、今回は手持ちの場合だ。手ブレしやすく、三脚を使用するよりも難しくなるが、三脚を持っていないときや、三脚のセッティングに向かない場所での撮影のためにマスターしたいものだ。その要となる撮影フォームを、体育会系の鉄道写真家・助川康史さんにうかがった。
手持ち流し撮りに必須の"軸"
スローシャッターとなる流し撮り。「手持ちだと難度が上がります」と助川さんは言う。「シャッターを押す瞬間にカメラが下に動き、列車が波打ってしまうんです」。しかし、三脚が立てられない場所や、線路や架線が見えず前回書いたような"列車とカメラの水平を合わせるセッティング"ができない場所では、手持ちで撮影することになる。
上の作品の撮影地は、真幸(まさき)のスイッチバック。「ここは林が少し途切れただけのところで、先頭車両の流し撮りに適した場所ではありませんでした。いつ先頭が林から出てくるかわかりにくく、タイミングがとても難しいんです」。それで、車両の中間部を狙うことにした助川さん。
まずはレンズを選び、大まかな構図を決める。選択したのは、70-200mm望遠レンズの150mm付近(35mm判フイルムカメラ。以下同様)。前回の繰り返しになるが、流し撮りに向いたレンズは100~300mmくらいの望遠系である。この場所の明るさや車体の色を考慮して、シャッタースピードを1/15、絞りはF22に設定した。
肥薩線は列車の本数が少ないので、練習用の列車はなく、撮影はぶっつけ本番になる。しかし、助川さんは列車の動きをイメージして、カメラの素振りを行う。撮影フォームは、三脚を使用する場合とは全く違う。頭頂部から背骨へと、軸を作るのがポイントだ。「テニスやゴルフではなく、野球のスウィングなんです」と助川さん。詳細は、下のイラストを参考に。
手ブレの"味"を見逃すな!
この場所はスイッチバックなので、同じ列車が方向を変えて2度通過する。「1度目の通過の時、展望席の部分にアテンダントさんがいて、お客さんがすごく楽しそうにしていたのが見えたんです。それで、この部分を流し撮りすることに決めました」。そう思いついた後はすかさず、かなり大袈裟に手を振って乗客に自分の存在をアピールしたそうだ。その効果があって、2度目の通過ではお客さんが助川さんに笑顔を見せてくれたり、手を振ってくれたのだ。5枚ほど連写し、最も列車と乗客の雰囲気をよく切り取れたのがこの作品である。
最初に言った通り、手持ちでの流し撮りは失敗が多い。しかし、列車の記録としては失敗でも、イメージ写真としてはブレが"味"となって大成功ということもある。助川さんのアドバイスは、「失敗したと思った写真も、他人に見てもらうことです。いい感想がもらえるかもしれませんよ」ということ。自分の挑戦を前向きに評価して、流し撮りを好きになり、数をこなして上達していこう。