TOP500は、HPLというベンチマークプログラムの性能でスーパーコンピュータ(スパコン)の性能のランキングを行い、上位500台のスパコンを発表する。今年のISCは開催が例年より1カ月遅れたが、通常は6月のISCと11月のSCで定期的に発表されており、今回は第45回の発表である。つまり、22年あまりの歴史的なデータの蓄積がある。
TOP500は、単に、順位を付けてスパコンの名前と性能を発表するだけでなく、毎回の発表では、上位3システムとアジア、ヨーロッパ、そして今回からは中近東の1位のシステムが表彰される。なお、上位3位にこれらの3地域の1位が含まれる場合は、地域1位の表彰は行われない。
そして、TOP500の発表では、毎回、Erick Strohmaier氏が、その回のTOP500の傾向などを分析した講演を行う。
次の図1.1はTOP500の500システムのうち、今回のリストで新顔として入ってきたシステムの数をプロットしたもので、1990年代の後半から2013年までの間は、200システム程度が入れ替わるという激戦が続いていたが、2013年以降は新顔が減り、ここ2回は79システムしか新顔が出てこないという状態になっている。この図1.1は、TOP500システムであるが、Top10システムで見ると、新顔は1システムだけという状態がここ4回続いている。
TOP500スパコンの老齢化
永らく、TOP500にランキングされるスパコンの平均年齢は1.27年程度で推移していたが、2011年ころから急増し、今回のリストでは平均年齢は3年を超えた。
次の図1.3の3本の線は、上から、500システム全部の性能の合計、1位のシステムの性能、500位のシステムの性能の推移を示している。1位のシステムは、ダントツなシステムが出ると、しばらく1位を維持するので階段状の線になるが、500システム合計と500位のシステムの性能の推移は片対数のグラフに綺麗に載っていた。
しかし、500位のシステムの性能推移は2008年6月から傾きが小さくなってきた。500システム合計の性能はその後も順調に伸びてきたが、2013年6月以降は、性能の伸びの鈍化が明らかになって来ている。
スパコンの性能向上のトレンドの鈍化
図1.4のように、向上率が低下した以降の性能推移の傾向を外挿してみると、2019年頃には、昔の性能推移の外挿と比較するとほぼ1/10の性能にしかならない。
このように性能の伸びが鈍化した原因であるが、Xeonなどの汎用スカラCPUの1チップ(1ソケット)あたりのLinpack性能は、次の図1.5の青色の線のように片対数のグラフに綺麗に載っており、鈍化の傾向は見られない。この点からは、ムーアの法則に陰りは見られない。
性能向上の鈍化は予算の問題か?
CPUチップあたりの性能が鈍化していないのにシステムの性能の伸びが鈍化しているということは、システムを構成するチップ数の伸びが鈍化していると考えられる。つまり、予算の関係でより大きな規模のシステムを買えなくなっている。あるいは、消費電力の関係でCPUのチップ数の大きなシステムを導入することが出来なくなっているのではないかと思われる。
なお、最近ではGPUやXeon Phiのようなアクセラレータを使うシステムが増加しており、伝統的なXeonやSPARC CPUといったシングルスレッド性能重視のヘビーなプロセサだけを使うスカラシステムは少数派になって来ているが、長期の連続したデータがあるという点で、ここではスカラシステムだけの傾向の分析を行っている。
GPUなどのアクセラレータ採用の動向
今回のTop10のシステムでは4システムがXeon PhiやNVIDIAのGPUといったアクセラレータを使うタイプのスパコンである。図1.17に見られるように、今回のリストではアクセラレータの性能の総計は120PFlopsで、ほぼ半分がXeon Phi、残りのほぼ半分はNVIDIAのFermiとKepler GPUで、その他はごく僅かである。アクセラレータ性能の総計は天河2号が1位でランクインした2013年に急増したが、その後の2年間では50%程度しか伸びていない。
次の図1.8はTOP500全体の総Flopsの中で、アクセラレータのFlopsが占める割合の推移を示したもので、天河2号の登場で比率が急増したが、その後は34%程度でほぼ同じ割合で推移している。