探検飛行試験1

最初に宇宙へ飛ぶオライオンのミッションは「EFT-1」と名付けられた。EFT-1というのはExploration Flight Test 1の略で、直訳すると「探検飛行試験1」となる。

オライオンEFT-1ではまず、宇宙飛行士が乗るクルー・モジュールの、宇宙飛行時の機能確認や、大気圏再突入時に使用する耐熱シールド、パラシュートなどが予定通り機能するかといった実証を行うことが目的とされた。だから当然無人での飛行で、またサーヴィス・モジュールは実機と質量が同じだけのダミーで、太陽電池やロケット・エンジン(スラスター)などは搭載されていない。また、打ち上げで問題が起きた際に、宇宙船をロケットから引き剥がすための緊急脱出システムもダミーで、分離用のロケットモーターしか装備されていなかった。NASAによれば、本番のオライオンと比べると、オライオンEFT-1は55%ほどの完成度だという。

打ち上げに使われたロケットはデルタIVヘヴィという、現在人類が持つ中で、もっとも打ち上げ能力が大きなロケットだ。外見も豪快で、コモン・ブースター・コア(CBC)と呼ばれる、いわゆるロケットの第1段に相当する部分を3本束ねて構成されており、見るからに力強い。

オライオンEFT-1の製造は2012年6月にひと段落し、その後NASAケネディ宇宙センターのオペレーションズ&チェックアウト棟(Operations and Checkout Building)へ輸送され、組み立てが始まった。完了後、オライオンは同センター内にあるペイロード・ハザーダス・サービシング施設(Payload Hazardous Servicing Facility)へと移された。ここでオライオンに燃料の充填が行われた後、続いて9月29日にローンチ・アボート・システム施設(Launch Abort System Facility)へ移動し、オライオンの上から被せるような形で、打ち上げ時の緊急脱出システム(ただしダミー)が取り付けられた。そして2014年10月30日、NASAはオライオンの「完成」を宣言した。

一方、並行してデルタIVヘヴィの準備も行われた。2014年10月1日にはロケットが発射台に立てられ、組み立てと試験が始まった。他の多くのロケットは、衛星も搭載し、ほぼ完成した状態で初めて発射台へ輸送されて打ち上げられるが、デルタIVロケットは未完成の状態で発射台に立て、そこにモバイル・サーヴィス・タワーと呼ばれる、ロケットを覆い隠せるほど巨大な移動式の整備塔を接続して、その中で最後の組み立てや人工衛星の搭載、そして試験などを行う。そして打ち上げの前にこの整備塔を外し、打ち上げるという方法を採っている。11月5日には、ロケットに実際に推進剤を入れるなどし、打ち上げ当日の手順を確認する予行練習(ウェット・ドレス・リハーサルと呼ばれる)が行われた。

そして米東部標準時2014年11月11日20時30分、オライオンは専用のトレーラーに載せられ、ローンチ・アボート・システム施設を出発した。時速約8kmというゆっくりとした速度で移動し、翌12日の3時7分に、デルタIVへヴィが待つケイプ・カナヴェラル空軍ステーションの第37発射台に到着した。そしてオライオンEFT-1はロケットの先端に固定され、機器の確認などを行い、打ち上げのときを待った。

発射台へ向けて輸送されるオライオンEFT-1 (C)NASA

打ち上げを待つデルタIVヘヴィとオライオンEFT-1 (C)NASA

完璧な成功

オライオンEFT-1を載せたデルタIVヘヴィは、米東部標準時2014年12月5日7時5分(日本時間2014年12月5日21時5分)に、フロリダ州ケイプ・カナヴェラル空軍ステーションのSLC-37Bから離昇した。NASAのロケットの打ち上げでは、離昇直後にアナウンサーが印象的な一言を発することで有名だが、今回は「オライオン宇宙船と、米国の宇宙探査の新たな時代にとっての夜明けだ」という言葉だった。

ロケットは順調に飛行し、約17分39秒後、ロケットの第2段とともに、オライオンEFT-1は地球を回る軌道に乗った。

オライオンEFT-1を載せたデルタIVヘヴィの打ち上げ (C)NASA

オライオンEFT-1のサーヴィス・モジュールの保護パネルが分離された瞬間 (C)NASA

そして地球を1周した後、離昇から1時間55分後にロケットの第2段エンジンに再点火され、オライオンと第2段は、最大で高度約5,800kmにまで達する楕円軌道に乗り移った。無人とはいえ、有人宇宙船が地球低軌道を越えて飛行するのは、実にアポロ17ミッションから42年ぶりのことだ。

宇宙船はヴァン・アレン帯の内帯を通過し、打ち上げから約3時間5分後に最大高度に到達した。船内に搭載されたカメラからは、外に見える丸い地球の映像が、ほぼリアルタイムで送られた。スペースシャトルや国際宇宙ステーションは高度400kmほどの軌道を回っているから、地球の縁が弧を描いている様子は分かるが、円、もしくは球のようには見えない。有人宇宙船の窓から丸い地球が見えるのもまた、アポロ17以来のこととなる。

その後は地球に向かって降下を開始し、打ち上げから3時間24分後にはロケットの第2段とダミーのサーヴィス・モジュールから、クルー・モジュールが分離された。

オライオンEFT-1の窓から見える丸い地球 (C)NASA

大気圏再突入時、オライオンEFT-1の窓の外にはプラズマが見えた (C)NASA

そして打ち上げから約4時間13分後、オライオンのクルー・モジュールが大気圏に再突入した。耐熱シールドは最大で2,200度もの高熱を浴びたが、無事に切り抜け、濃密な大気圏の中へ帰ってきた。続いてクルー・モジュールはパラシュートを開き、緩やかに降下し続けた。

このとき、着水予定区域の上空には、NASAが保有する無人航空機イカーナが飛行していた。同機のカメラは降下するオライオンの姿をはっきりと捉えていた。

そして打ち上げから4時間24分後の12月6日1時29分(日本時間)に、カリフォルニア州の南の沖の太平洋上へ着水した。

その後、内部の電力やスラスターなどの機能を落とす作業が行われた。起動したままだと、回収時に動作するなどして危険であるためだ。そして安全が確保されたのち、ヒューストンのNASAジョンスン宇宙センターでミッションの指揮を執っていたフライト・ディレクターのマイク・セラフィン氏は、自身らの仕事が終わったことを宣言した。

続いて、ミッションの主役は着水地点へ移った。現場海域には米海軍の揚陸艦USSアンカレッジが待機しており、NASAや米海軍のスタッフがヘリコプターやボートを使ってオライオンに近づき、回収された。そしてUSSアンカレッジのウェルドックに収容され、サン・ディエゴの港を目指して発進、現地時間12月8日に到着した。

このあとは陸路でケネディ宇宙センターへ運ばれ、詳細な分析が行われる予定となっており、得られた成果はオライオンのさらなる開発に役立てられることになっている。

パラシュートを開いて降下するオライオンEFT-1 (C)NASA

着水後、回収されるオライオンEFT-1 (C)NASA

(次回の記事は12月13日に掲載予定です)

【参考】

・https://blogs.nasa.gov/orion/
・https://twitter.com/NASA_Orion
・http://spaceflightnow.com/news/n1206/26orion/
・http://www.nasa.gov/press/2014/december/nasa-s-new-orion-spacecraft-completes-first-spaceflight-test/
・http://www.nasa.gov/content/successful-launch-of-orion-heralds-first-step-on-journey-to-mars/