1月は国税分野では源泉徴収票や支払調書など法定調書、地方税分野では給与支払報告書や償却資産申告書でマイナンバーの本格的な利用が始まりました。そして、この2月には、個人事業主などの所得税確定申告でマイナンバーが記載・利用されることになります。

すでにマイナンバーが記載された所得税確定申告書の提出は始まっており、これから提出のピークに向かっていくことになります。中小企業でも法人であれば企業としては関係のない所得税確定申告ですが、社長が自らの所得について申告、社員が医療費控除などで申告など、この時期毎年2000万人を越える個人が所得税確定申告書を提出しています。

この所得税確定申告書、書面での提出では、窓口でマイナンバー記載に伴う本人確認が必要になるなど、従来よりも面倒な運用となっている今年の所得税確定申告書について、どのような運用が行われているのか見ていきたいと思います。

平成28年分所得税確定申告書で必要となるマイナンバーの範囲

平成28年分の所得税の確定申告書からマイナンバーの記載が必要となりますが、(図1)のとおり、納税者本人はもちろんですが、配偶者や扶養親族、事業専従者のマイナンバーも記載しなければなりません。

(図1)平成28年分所得税確定申告書B

事業専従者とは、個人事業主が経営する事業に従事する、事業主と生計を一にする配偶者や親族のことです。企業が従業員からマイナンバーを収集する際とは異なり、納税者である個人事業主が必要なマイナンバーを収集するのは事業専従者がいる場合でも、事業専従者は配偶者や子などということになりますので、比較的容易に収集し、それぞれのマイナンバーを記載することができるのではないでしょうか。

企業に勤務するサラリーマンなどが医療費控除などで申告するケースでは、勤務先に提供した配偶者や扶養親族分のマイナンバーを申告書に記載すれば、それで良いことになります。

ここでは、企業が従業員からマイナンバーを収集して記載しなければならない源泉徴収票や給与支払報告書のような、マイナンバー収集時の苦労はないはずですが、マイナンバーの通知から1年以上が経過しているため、個人事業主などが、この時期になって必要な扶養親族分のマイナンバーを集めようとしても、すでに通知カードを紛失している扶養親族がいるケースも出てきているようです。そうしたケースでは、マイナンバーが記載された住民票を取得すれば通知カードがなくてもマイナンバーを記載することができますので、これから提出される方は、記載が必要な扶養親族などのマイナンバーが収集できる状況にあるかどうか、早めに確認しておくことが肝心です。

所得税確定申告書提出時の本人確認

所得税確定申告書へのマイナンバー記載で大きく運用が変わるのが、提出時の窓口での本人確認です。昨年までは、きちんと内容が整った申告書で、必要な添付書類なども併せて提出すれば、提出者が納税者本人であろうが代理人であろうが提出時に面倒な本人確認はありませんでした。

(図2)は国税庁のホームページに掲載されている所得税確定申告書へのマイナンバーの記載および本人確認書類についての案内です。同様の内容のチラシが、申告書が送付される事業主などには同封されて届けられています。

(図2)国税庁「確定申告書へのマイナンバーの記載及び本人確認について」

自ら所得税確定申告書を作成し、税務署の窓口に届ける場合は税務署員に納税者の本人確認書類を提示しなければなりません。マイナンバーカードを取得していれば、マイナンバーカードを提示するだけで済みますが、マイナンバーカードを取得していない場合は、通知カードまたはマイナンバーが記載された住民票などマイナンバーを確認できる書類と、身元確認ができる運転免許証などを用意して、窓口で提示することになります。また、郵送などで提出する場合は本人確認書類のコピーを添付する必要がありますが、税務署では(図3)のような台紙も用意していますので、これに納税者の本人確認書類のコピーを貼り付けて、申告書とあわせて郵送する必要があります。

(図3)本人確認書類(写し)添付台紙

また、税理士が個人事業主などの確定申告書を作成し、納税者に代わって書面で税務署に提出する場合は、納税者本人の本人確認書類のほかに、代理権を証明するための税務代理権限証書および税理士の身元確認書類が必要とされています。税理士事務所が書面で確定申告書を提出する場合、複数の申告書をまとめて提出することが一般的ですが、全部の申告書に納税者の本人確認書類のコピーや税務代理権限証書を添付した上で、窓口では税理士本人の身元確認書類を提示することになります。納税者本人が税務署に提出する場合でも、本人確認書類を持ちこむことになり、紛失などのリスクがありますが、複数の納税者の申告書をまとめて提出する税理士はより多くのリスクを負うことになります。

電子申告であれば、申告書にマイナンバーを記載した電子データに、電子署名をして送信すれば、納税者の本人確認書類は不要です。多くの税理士事務所では電子申告に取り組んでいますが、これまで電子申告に対応していなかった税理士事務所でも、書面提出のリスクを考慮して、今年の所得税確定申告では電子申告で対応するようになってきています。

マイナンバー制度が電子申告を促進する

給与支払報告書や償却資産申告書など地方税分野でのマイナンバー記載書類の提出が集中する1月に、地方税の電子申告の受付システムであるeLTAX(地方税ポータルシステム)では、1月27日(金)に電子申告で送信しようとしてもつながりにくい状況となり、eLTAXのホームページでは「処理が集中してつながりにくい状況になっている」旨のメッセージが表示されました。その後、30日(月)、31日(火)、2月1日(水)午前中まで同様の状況が続き(図4参照)、送信が完了できないケースが多くなったため、最終的に申告期限延長の措置がとられることになりました(総務省 「地方税ポータルシステム(eLTAX)に一時的につながりにくい状況が発生したことに係る地方税の対応について」 参照)。

(図4)平成29年1月30日午後時点のeLTAXホームページ

2月10日に公表されたeLTAXを運営する地方税電子化協議会の「eLTAXへの接続障害について(これまでの経緯と再発防止対策)」によると、今回の事態について、予想を越えたアクセスの集中と一部の通信機器の障害によるものと説明されています。eLTAXが公表している利用件数によると、給与支払報告書の電子申告に該当する「個人住民税」の平成29年1月31日現在の利用件数は4,624,895件となっています。平成27年度が4,493,503件で、平成26年度と比較すると60万件超プラスだったことからすると、今年1月31日時点の件数では前年比でこれまで以上に増えてはいませんが、これは予想を越えたアクセスの集中と接続障害により送信完了が2月になってしまった件数が相当数あるためと思われます(eLTAX利用件数[平成28年度]より)。アクセス集中がどの程度のものであったのかは、2月末時点での利用件数をみてみないとなんともいえませんが、当社のユーザーである税理士事務所からも、初めて電子申告に取り組むための問い合わせが増えていることから、本格的にマイナンバーを記載した書類の提出という事態が、改めて事業者や税理士事務所に電子申告への取り組みを促進していると考えられます。

この流れは、所得税確定申告書の提出でさらに促進されると見込まれます。電子申告であれば、提出時に納税者の本人確認が必須とされる所得税確定申告書でも、納税者のマイナンバー確認のための書類を添付する必要はありません。税務代理で個人事業主の所得税確定申告書の作成を行う税理士の場合は、書面で提出する際には申告書を作成した人数分のマイナンバー確認のための書類のコピーまで書面で収集し、マイナンバーを記載した申告書と一緒に税務署の窓口に持ち込むことになります。マイナンバーを記載した書類を持ち運ぶだけでもリスクなのに、マイナンバー確認書類まで一緒に持ち運ぶとなると、それだけ紛失などのリスクは増えることになります。

これが、電子申告であればマイナンバーを記載した所得税確定申告書を電子データで作成し、税理士が電子署名して代理送信すれば良いのです((図5)参照)。

(図5)代理人が税理士の場合の本人確認方法

もともと、マイナンバーを電子データとして管理し、マイナンバー記載が必要な書類を電子データとして作成しているのに、それを印刷して提出するということは、マイナンバー利用の最後の段階でわざわざリスクのある方法を選択していることになります。税の分野であれば国税も地方税も電子申告が可能になっていますので、電子申告を利用して提出すれば、それだけリスクを軽減できます。特に、本人確認のために納税者のマイナンバー確認書類の提示や添付が求められる所得税確定申告書では、電子申告を利用することが、提出時の紛失などのリスクを大きく軽減することになります。

医療控除などで確定申告するサラリーマンなど納税者が、自ら所得税確定申告書を作成する場合も、国税庁の確定申告書作成コーナーなどを利用すれば、作成から電子申告までスムーズに処理することができますので、マイナンバー紛失のリスクを意識するこれらの納税者などでも電子申告の利用が進むと考えられます。

税の分野のマイナンバーの本格的な利用が、電子申告の利用を促進していくことになるのは確実と思われますが、今年の所得税確定申告書で電子申告の利用件数がどれだけ伸びていくのか、注目してみていきたいと思います。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。