1月から始まったマイナンバーの本格利用においてマイナンバーを記載した書類をより安全に提出するには書面によるのではなく、電子申請・申告をお勧めしてきましたが、実際に電子申請・申告で提出する事業者や税理士事務所が増えたのか、給与支払報告書や償却資産申告書など地方税分野の電子申告のシステムであるeLTAX(地方税ポータルシステム)が1月27日から31日にかけてアクセス集中によりつながりにくい状況になりました。これはマイナンバーの本格利用が電子申請・申告の利用を促進することになった結果だと思われます。今後の経緯をみながら、マイナンバーの利用状況と合わせて、電子申告の利用状況などもレポートしていきたいと思います。

今回は、前回アカウントの開設から現状のメイン画面などについてみてきましたマイナポータルで、7月からの本格的なサービス開始で予定されている機能およびその後予定されている機能について、何が便利になるのか、事業者にはどのような影響が出てくるのか、その概要をみていきましょう。

マイナポータル 7月から利用できるサービス

2017年1月5日、新年早々内閣官房のホームページにマイナポータル紹介ページが開設されました(図1参照)

前回ご紹介したアカウントの開設が「2017年1月からできること」として紹介されています。そして、2017年7月以降にできることとして「サービス検索・電子申請機能(子育てワンストップサービス)」などの機能が紹介されています。7月当初に実装されるサービスは、子育てワンストップサービスを中心にした機能のほか、”やりとり情報”や”あなたの情報”などが挙げられています。

個人が行う行政手続きなどさまざまな手続きをワンストップで実現するというのが、マイナポータル構想でアピールされてきました。当初は引越し時の諸手続きのワンストップ化が例として紹介されていましたが、実際にサービス開始時の7月は「子育てワンストップサービス」から提供されることになったようです。

この「子育てワンストップサービス」で何が便利になるのかについては、以下の(図2)のように紹介されています。

「かんたん検索」、「かんたんオンライン申請」、「プッシュ型通知」といったサービスが紹介されていますが、便利なサービスとして利用されそうなのは、役所に出向くことなく申請が可能となる「かんたんオンライン申請」ではないでしょうか。このオンライン申請の具体的な例として認可保育園への入所申請については(図3)のような流れが示されています。

この流れの中では、事業者が「勤務先」として登場しています。前回取り上げた「社印」代わりにマイナンバーカードを使用する「電子委任状」をとりあげた際、雇用証明書([図3]では就労証明書)の電子発行も可能になるということでした。(図3)の流れの中では「電子データと原本を発行」となっています。「電子委任状」の仕組みが制度的に担保されるようになると、書面での原本発行の必要がなくなり、電子の雇用証明書のみ作成、発行すればよいことになると考えられます。

マイナポータルの「子育てワンストップサービス」の利用が進むと、子育て世代の従業員をかかえる事業者では、雇用証明書の電子発行が可能になるように「電子委任状」を利用できる体制を整える必要がでてくることも考えられます。事業者としては、契約書の電子化への取り組みとあわせて、「電子委任状」を利用できる体制の整備を検討しておく必要があります。

民間送達サービスとの連携とe-Taxとつながることでできること

7月開始のサービスも含めて「マイナポータルでできること」の全体像として、(図4)のようなサービスが紹介されています。

この民間送達サービスでは、(図4)にあるように生命保険料控除証明書が生命保険会社から電子データで送信され、マイナポータルで受け取れるようになることなどが想定されています。マイナポータル構想時点で「電子私書箱」と呼ばれていた機能の実際の運用を、ここでは「民間送達サービスとの連携」と呼んでいるようです。2018年度にはマイナンバーカードを健康保険証代わりに使用することができるようになる予定ですが、そのような運用が進めば、もともと「電子私書箱」で構想されていたように、医療費の明細なども民間送達サービスで、健康保険組合などから電子データで送信、マイナポータルで受け取ることができるようになると考えられます。そうなるとe-Tax(国税電子申告・納税システム)との連携により、マイナポータルを利用して医療費控除の所得税申告が行えるようになるように構想されています。

この「民間送達サービスとの連携」は、「G もっとつながる(外部サイト)」を利用して事前に民間送達サービスを提供する事業者とつなぐことが必要になります(https://img.myna.go.jp/manual/9.pdf#page=33 )。実際に生命保険会社が生命保険料控除証明書を電子データで提供するようになり、それをマイナポータルで受け取りたい場合は、生命保険会社が指定するウェブサイトとマイナポータルをつなぐことになるということです。

また、この「G もっとつながる(外部サイト)」機能では、電子データを受け取るだけでなく、マイナポータルの自分のデータを提供することもできるようになります。このデータの提供は、医療費控除のために自ら所得税の申告を行う場合に、電子データで受け取った医療費の明細や生命保険料控除証明書などをe-Taxに提供するといったことが使い方として考えられます。そのほか、生命保険料控除証明書の電子発行が一般的になると、マイナポータルで受け取った電子データの生命保険料控除証明書を年末調整のために勤務先の事業者に提供するといった使い方も考えられます。そうなると、事業者や税理士が利用する年末調整システムでも、こうしたデータを取り扱えるようにする必要がでてくると考えられます。

この「G もっとつながる(外部サイト)」機能では、すでに1月からマイナポータルとe-Taxとつなぐことができるようになっています。(図5)では現状マイナポータルとe-Taxとをつなぐことでできることでできることが説明されています。

マイナポータルとe-Taxをつないで利用する場合、現状はメッセージボックスに届いたお知らせの確認やe-Taxソフト(Web版)から納税証明書の交付請求を行うことなどができますが、所得税の申告などはまだマイナポータルからできるようになっていません。今後マイナポータルの機能が拡充されていくのにあわせて、マイナポータルと連携してe-Taxソフトの改善も行われていくものと思われます。7月のマイナポータルの本格稼働以降、どのように機能の拡充が進んでいくのか、民間送達サービスやe-Taxなどの動きとあわせて、注目していきたいと思います。

以上、7月に本格的にサービス開始となるマイナポータルのサービス概要およびその後に予定されているサービスについて、特に民間送達サービスとe-Taxの関連に注目してみてきました。マイナポータルで利用できるワンストップサービスは、現状の書面ベースでの手続きに比べれば確実に便利になります。ただし、その便利なサービスが多くの人たちに利用されるようになるためには、マイナンバーカードがもっと普及することや、前回レポートしたマイナポータルを利用するためのアカウントの開設がもっと簡単にできるようになることなど課題があります。こうした課題に対して政府がどのように対応していくのかといった点も注目していきたいと思います。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。