【連載】

中小企業にとってのマイナンバー制度とは?

44 行政側のマイナンバー制度へのシステム対応 現状の動きを確認する

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今年1月よりマイナンバーが利用開始となりましたが、税の分野での本格的なマイナンバー利用は、年末に行われる年末調整や源泉徴収票といった法定調書の作成・提出からで、まだ利用実績はないに等しい状況です。また、社会保障の分野では現状雇用保険のみ適用し、社会保障のメイン分野である社会保険については、平成29年から利用が開始されることになっています。

マイナンバーカードの発行においては、年初より繰り返されていたシステムトラブルは解消されたものの、市区町村での発行業務は当初より大きく遅れてしまっています。また、平成29年1月よりサービス開始としていたマイナポータルは、本格運用開始は平成29年7月からに延期となりました。

これらは行政側のマイナンバーに関するシステム対応が、予定通りに進んでいない状況を物語っています。

今回は行政側のマイナンバー制度へのシステム対応の現状を確認します。

社会保障関連の行政側のシステム対応

社会保障関連のマイナンバーの利用は、雇用保険関連から始まっています。今年の1月から社員の入退社に伴う雇用保険被保険者資格取得届・喪失届などにマイナンバー欄が設けられ、対象となる社員のマイナンバーを記載して提出することになりました。ただし、提出先であるハローワークではマイナンバーの記載がなくても書類を受け取るケースもあるなど、以外とゆるい運用が行われているようです。

また、健康保険や厚生年金など社会保険に関する分野でのマイナンバーの利用は平成29年1月1日提出分からとなっていますが、実際には [図1]の※3にあるとおり、日本年金機構が提出先になるものはマイナンバー記載時期が未定とされています。

日本年金機構は昨年5月個人情報の漏洩事件を起こしたため、システムの見直し・再構築およびマイナンバー対応にも時間がかかることが考えられます。実際に政府のIT投資について情報公開しているIT DASHBOARDの政府情報システム投資計画のページを見てみると、[図2]のとおり、2015年度の投資計画のうち「社会保険オンラインシステムの改修及び見直し、番号制度導入に必要な経費」がトップで、実に1800億円以上費やす計画になっています。現在のところ、2016年度の計画はこのページで公表されていませんが、2014年度も「社会保険オンラインシステムの改修及び見直し、番号制度導入に必要な経費」がトップでほぼ同様の金額を計上していることから、来年1月からのマイナンバーの利用開始が予定できないということは、これまで日本年金機構が使用してきたシステムが、情報漏洩事件がなかったとしても相当使えないシステムだったのではないかというふうに考えてしまいます。

これだけの巨額を投入したシステムが、実際にいつから運用されるようになっていくのか、今後の動きに注目していきたいと思います。

[図2] 投資計画上位20件

マイナンバーカード発行業務の現状

私は昨年12月下旬にマイナンバーカードの交付を申請しました。当初予定では今年3月くらいには交付通知書が届く予定でしたが、実際に届いたのは6月、先日ようやくマイナンバーカードの交付を受けることができました。

マイナンバーカードの交付にあたっては、格納されている電子証明書等のパスワードを設定することになるのですが、このパスワードは住基ネットを通してマイナンバーカードの発行等を担う地方公共団体情報システム機構(J-LIS) のカード管理システムに登録されます。([図3]参照)

マイナンバーカードの交付が始まった今年1月以来、このカード管理システムの中継サーバのシステムトラブルが相次ぎました。トラブル発生後しばらくはカードの交付手続きができなくなり、交付を取りやめる市区町村もあったようです。また、トラブルに至らないまでも1枚のカード交付に要する時間が長く、スムーズな交付作業が進まない事態が続いていました。

J-LISのホームページでは、現在トップページに「カード管理システムの障害に対するお詫びと説明」を掲載しています。これによりますと、カード管理システム内の中継サーバの障害については、3月11日までに発生現象を抑える改修等の対応策を実施し、ようやく4月に至って発生原因(発生原因については報道資料「カード管理システムの中継サーバに生じた障害原因の特定と対応について」を参照ください)が判明したため、4月15日及び22日に根本的な発生原因を取り除くための対応策を実施、その結果、現在カード管理システムは安定的に稼働していることが報告されています。 その後6月に公表された報道資料では[図4]のように、障害発生の背景や原因特定まで時間を要した要因をまとめています。

カード管理システムは、システムベンダー5社によるコンソーシアムにより開発されていますが、それぞれが[図3]のシステム構成の各パーツを受け持っています。このような方法を取る場合、それぞれが受け持つシステム間の連携については、相当に気を配る必要があるのです。しかしながらここで挙げられている原因・背景をみていくと、通信による連携部分だけでなく、単体テストの不足も指摘されており、システム全体としての管理責任が問われます。この点については、「プロジェクトマネジメント能力の強化」などを再発防止策として掲げるとともに、J-LISの役員の報酬を返納するとしています。

また、各市区町村が使用しているカード交付に係るシステムは、異なるベンダーが提供しており、そのためシステムがいまだにスムーズに稼働していない市区町村に対してシステム支援担当チームを設置して対応することが、再発防止策のなかに掲げられています。

私がマイナンバーカードの交付を受けた地域では、7月時点でスムーズに交付手続きが進んでいましたが、市区町村によってはいまだにスムーズに交付作業が進んでいないところもあるようです。

政府など公共機関のシステム開発では、このカード管理システムのように数社で分担してシステム開発を行うような形態はよく見られます。再発防止策でいうまでもなく、このようなケースではプロジェクト全体をきちんとマネジメントできることが大事なのですが、システム開発にあたるベンダー側だけでなく、システムを発注する行政側がその能力を持っているのかどうかが問われることになります。

マイナポータルの本格運用 半年延期?

行政機関で自分のどのような個人情報が管理されているかなどを確認することができるマイナポータルは2017年1月から利用開始とされていましたが、内閣官房が4月25日公表した「マイナンバーまるわかりガイド(保存版)」によると、[図5]のとおり、実際に利用できるようになるのは7月頃からと半年ほど延びることになったようです。

同じく政府省庁及び関連機関間の情報連携も2017年1月からとされていましたが、先述の通り、社会保険関連システムのマイナンバー対応が一部2017年1月には間に合いません。こちらも国民にとって関心の高い社会保険関連の情報提供が2017年1月時点でできないこともあって延期されることになったようです。

マイナポータルは国民ひとりひとりの個人情報を確認できるサイトになりますので、セキュリティには十分に配慮したシステム構築が望まれます。カード管理システムのシステム障害の例もありますので、拙速な開発により利用開始後に個人情報の漏えいなどが起こることは許されません。マイナポータルも行政機関間の情報連携も、延期されることはやむをえないとしても、いずれも相当の金額を投入して開発されるシステムであることから、実際の運用開始までに十分にテストを重ねるなどして、安全性が確保されたうえで国民の利便性の向上に寄与するものとして運用開始にいたることを願っています。

なお、法人向けのマイナポータルとなる法人ポータルについては、すでに経済産業省が「[経済産業省版法人ポータル(β版)」を公開しており、予定通り2017年1月より、本格運用がスタートするようです。

この「法人ポータル」については、法人の行政手続きが簡略化されたり、事業者が取引先の情報収集で、行政機関がもっている情報(公共事業の受注実績や処分等の履歴など)を簡単に収集できるような利用方法が想定されています。実際の運用開始時に法人事業者にとってどこまで便利な機能が搭載されてくるのか、注目していきたいと思います。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。

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インデックス

連載目次
第74回 「税務行政の将来像(国税庁)」から見えてくる電子政府の未来
第73回 社会保障分野の電子化とマイナンバー
第72回 マイナンバー制度のもう一つのナンバー 法人番号活用の現在
第71回 特別徴収税額通知 誤送付などでマイナンバー漏洩
第70回 進む税務の電子化 年末調整 プロセスも電子化へ
第69回 マイナポータルおよびマイナンバー制度情報連携 試行運用開始
第68回 法人税等の電子申告義務化に向けた基本計画
第67回 2017年 「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」をみる(3)
第66回 2017年 「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」をみる(2)
第65回 2017年「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」をみる(1)
第64回 特別徴収税額通知書 “官”からマイナンバーがやってきた
第63回 デジタルファーストを目指す政府 法人税電子申告義務化へ
第62回 電子申告とマイナンバー制度
第61回 「特別徴収税額決定通知書」へマイナンバーが記載され通知されることの影響
第60回 マイナポータル・行政機関間での情報連携 本格運用は10月以降へ
第59回 1月~3月 マイナンバーの本格利用の時期を終えて
第58回 政府が進める「デジタルファースト」への流れとマイナンバー制度
第57回 マイナンバー本格利用 次は所得税確定申告
第56回 マイナポータル 2017年7月本格スタートのサービス概要
第55回 2017年におけるマイナンバー制度の動き
第54回 2017年におけるマイナンバー利用の動き
第53回 年末調整直前 今からでも間に合うマイナンバー対策 その4
第52回 年末調整直前 今からでも間に合うマイナンバー対策 その3
第51回 年末調整直前 今からでも間に合うマイナンバー対策 その2
第50回 年末調整直前、今からでも間に合うマイナンバー対策 その1
第49回 マイナンバーカード・マイナポータルの活用促進をめぐる総務省の動き その2
第48回 マイナンバーカード・マイナポータルの活用促進をめぐる総務省の動き その1
第47回 マイナンバー制度、今後のスケジュールを再整理する
第46回 なかなか進まない支払先からのマイナンバー収集
第45回 経済産業省版法人ポータル(β版)など法人番号をめぐる動き
第44回 行政側のマイナンバー制度へのシステム対応 現状の動きを確認する
第43回 中小企業・小規模事業者からマイナンバー取り扱いの委託を受ける税理士の現状
第42回 マイナンバー対応 準備を順調に進めている企業と進まない企業
第41回 世界最先端IT国家創造宣言とマイナンバー制度
第40回 マイナンバーが記録されているパソコンは修理できない?
第39回 平成28年度税制改正でマイナンバーの取り扱いはどう変わったのか?
第38回 動き出した企業版マイナンバー(法人番号)の利用が与える影響
第37回 マイナンバーカードは民間活用でどのようなメリットがもたらされるのか
第36回 多くの企業がメリットを感じない、マイナンバー制度の課題を考える
第35回 新入社員を迎える季節 継続的にマイナンバーを管理・運用できる体制作りを
第34回 中小企業のマイナンバー対応 システム選択? 外部委託? 現状の傾向を探る(2)
第33回 中小企業のマイナンバー対応 システム選択? 外部委託? 現状の傾向を探る(1)
第32回 あいつぐマイナンバー制度のトラブル 中小企業への影響を考える
第31回 個人事業主のマイナンバー利用 今後のスケジュールを整理する
第30回 マイナンバー利用開始1カ月 マイナンバー利用の課題を考える
第29回 マイナンバーの取り扱い 中小企業から委託を受ける税理士などの最新動向
第28回 マイナンバーとマイナンバーカードの役割を考える
第27回 マイナンバー利用開始 すぐマイナンバーの記載が必要な書類・時期を再整理
第26回 平成27年分年末調整業務進行中 来年を見据えて準備しておきたいこと
第25回 マイナンバーの収集、今年中に収集するか? 来年に入って収集するか?
第24回 マイナンバーの通知と中小企業の取り組み 最新状況
第23回 中小企業向けマイナンバー商戦 現状整理
第22回 マイナンバー制度への対応を中小企業の本格IT化のきっかけに
第21回 法人番号の通知・公表スタート 中小企業に与える影響を考える
第20回 マイナンバー通知本格化 いよいよ本番 中小企業のマイナンバー対策
第19回 中小企業のマイナンバー対策 システム選びが成否をにぎる? (その2)
第18回 中小企業のマイナンバー対策 システム選びが成否をにぎる? (その1)
第17回 マイナンバー利用開始 間近に迫る 今中小企業は何をすべきか?
第16回 マイナンバー通知カードの送付始まる 待ったなしで始まるマイナンバー制度
第15回 税理士などにマイナンバーの取り扱いを委託する場合のシステム連携の課題
第14回 マイナンバーの保管・廃棄 システムで異なる安全管理措置
第13回 マイナンバーの利用・提出 よりセキュアに対応するためにほしい機能
第12回 マイナンバーの収集 システムで異なる業務運用
第11回 IT活用で対応するマイナンバー対策 システム比較
第10回 マイナンバー対策を契機にIT活用を見直す
第9回 法人番号とマイナンバー制度の将来像
第8回 マイナンバーの取り扱いを税理士事務所などに委託する場合
第7回 マイナンバーの保管、利用シーンで求められる安全管理
第6回 マイナンバーの収集で注意すべきこと
第5回 マイナンバー制度 中小企業に与える影響
第4回 中小企業が「個人番号関係事務実施者」として行う実務内容と必要な準備
第3回 すべての中小企業が「個人番号関係事務実施者」へ
第2回 マイナンバー制度の概要と今後のスケジュール
第1回 マイナンバー制度で業務のここが変わる!

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