平成28年2月24日、日本経済新聞朝刊に、「厚労省 厚生年金加入逃れ阻止 企業版マイナンバー活用」という記事が掲載されました。また、同じく3月23日の日本経済新聞朝刊には「企業版マイナンバーが国際対応 電子商取引 便利に」という記事が掲載されました。

ここでの企業版マイナンバーとは、法人番号のことですが、マイナンバー制度のなかでマイナンバー(個人番号)と並んで制度の基盤となる企業版マイナンバー(法人番号)を利用した動きが早くも出てきました。今回は、こうした動きが中小企業に与える影響を考えます。

法人番号を利用して社会保険未加入事業者の加入促進へ

平成28年2月24日、日本経済新聞朝刊に掲載された記事では、「従業員のための厚生年金や健康保険への加入手続きを企業が怠らないように厚生労働省が抜本的な対策を始める。4月から企業版マイナンバー(法人番号)を活用し、2017年末までにすべての未加入企業を特定する。未加入の疑いのある企業は79万社にのぼる。悪質な企業には立入検査を実施して強制加入させる方針だ。」としています。

厚生年金や健康保険、介護保険などを総称して社会保険と呼ばれていますが、この社会保険、法人や従業員5人以上の従業員を雇用している個人事業主は加入することが義務であり、保険料は従業員と事業者が折半で負担することになっています。

社会保険未加入の企業に対する加入促進は、これまでも年金機構が外部業者に委託して、未加入と特定できた企業に対しては電話や訪問での加入促進などを行ってきていました。その動きを加速するために、厚生労働省と年金機構は2014年11月、国税庁から従業員を雇用し源泉徴収義務を課されている企業の情報の提供を受けて、社会保険未加入企業の特定を進めてきたが、79万社に加入逃れの疑いがあることは分かったものの、社名の表記違いや転居などにより個々の企業の特定まで至ったのは18万社にとどまっていたといいます。これを国税庁から提供される企業情報に法人番号を付加することとし、社会保険料を支払っている企業の法人番号と照らし合わせて、社会保険未加入企業を一気にあぶり出し、加入促進を図ろうということです。

記事によると、この動きは4月から始まるとのことですが、まだ年金機構が未加入企業の特定作業をしている段階なのか、年金機構のホームページを見ても、この記事に直接関連したようなものは見られません。以前からある、「厚生年金保険などの加入を行っていない事業所への取組み」というページも2015年1月から更新されないままとなっています。 まだ、始まったばかりの段階ですので、ホームページなどに関連した情報が出てくるのはこれからになるのでしょうが、厚生労働省および日本年金機構が今後どこまで加入促進の動きを加速させていくのか、今後を見守りたいと思います。

一方、建設業などを主管する国土交通省では、2012年11月に社会保険等への加入促進に向けて、元請企業及び下請企業の取組の指針となる「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」を策定・施行し、ここまで具体的な取組みを行ってきています。2015年に改定されたガイドラインでは、法令に違反して社会保険に加入していない建設業者について、公共工事の元請業者から排除するため必要な措置を講ずることや、元請業者に対し社会保険未加入業者との契約締結を禁止すること、また社会保険未加入業者を確認した際には通報することなどを求めており、より具体的なガイドラインが示され実施されているようです。

【図1】はこのガイドラインの参考資料として掲載されているなかの、「社会保険未加入対策の全体像」です。

現状把握から課題の設定、社会保険に加入すると一気に負担の増える事業者の法定福利費確保のための施策など、社会保険等未加入事業者への対策の全体像が示されています。こうした施策により、どれだけ加入促進がはかられていくのかは、これからの施策の実施状況を見ていくほかありませんが、国土交通省では2017年度以降企業単位では公共事業の許可業者の加入率を100%にする目標を掲げています。

こちらは、建設業・土木業など国土交通省主管の事業者を対象としたものだとすると、全業種にわたる社会保険加入促進の動きは、厚生労働省・日本年金機構が動き出すことで、今後加速することが予測されます。

この当事者となる社会保険未加入の事業者は、社会保険だけではなく労働保険(労災保険と雇用保険)も未加入のケースが多いと思われますが、それぞれ加入した場合の保険料負担がどれくらいになるか、いつから加入するかなど、社会保険労務士に相談するなどして、検討しておく必要があります。なかには、従業員が自らの保険料負担を嫌がって加入を拒むケースも出ていますので、これについても対策を立てておく必要があります。

いずれにしても、社会保険未加入のままでは、法令違反に問われる可能性もあり、そうした場合、事業にマイナスの影響がでることを考えれば、記事になった厚生労働省の動きが本格化する前に、対策を講じておくことが大事になってきます。

法人番号の国際対応で何が便利になるのか

平成28年3月23日、日本経済新聞朝刊に掲載された記事では、法人番号の発番機関である「国税庁は国連などの国際機関から海外で使う際の認証を得た。企業間の電子商取引では受発注管理に企業番号が必要だが、外国企業との取引でも法人番号を無料で使えるようになり、事務負担を減らせる。」としています。

これまで、企業が電子商取引を行う際には、民間業者から取得した番号と相手企業がもつ自社の番号を紐付けて取り引きしています。この民間から取得した番号には有効期限があって、期限後は新たに取得するとともに、番号が変わるたびに番号を組み込んでいた受発注などのシステムの改修も必要となり、手間と費用がかかることから中小企業が電子商取引、特に海外との電子商取引に取り組む際の障壁となっていました。

【図2】は国税庁が発番機関として登録した国際規格です。

【図2】国税庁が発番機関として登録した国際規格(国税庁「法人番号について」)より

そして、【図3】は「発番機関コード付き法人番号の利用イメージ」です。

【図3】 「発番機関コード付き法人番号の利用イメージ」(国税庁「法人番号について」)より

法人番号は国内において、各法人にユニークな13桁の番号として付番されています。この法人番号に、用途によって図1の国際規格で国税庁に付された発番機関コードをプラスして使用することにより、国際的にも唯一無二の企業を表すコードとして、電子商取引や輸出の際に必要となる電子タグに利用できるようになるということです。

これまで、国内の電子商取引においても、大手企業主導で任意の企業コードなどが割り振られ、それに対するシステム対応などが困難な中小企業では、電子商取引になかなか参加できず、電子商取引のメリットを享受できないという状況がありました。この企業コードに発番機関コード付きの法人番号が利用されるようになれば、相互に共通の企業コードとなり、中小企業など多くの企業が電子商取引に加わっていくことがこれまでより容易になるとともに、電子商取引の輪が海外との取引にも拡大していく際にも、そのまま発番機関コード付きの法人番号を、国際取引に必要な企業コードとして無償で利用できるようになります。こちらの法人番号の利用は、中小企業の国内外の電子商取引への取り組みが今後増えていくことが期待される、そのような利用方法として注目していきたいと思います。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。