10月5日のマイナンバー制度の施行以来、マイナンバーがニュースになることが増えてきました。そうしたなかで、家電量販店にマイナンバー対応の給与計算パッケージソフトやシュレッターが揃えられたマイナンバーコーナーが設置、マイナンバー商戦が本格化してきたことを告げる報道がありました。

大手ITベンダーなどがマイナンバー管理システムを、リリース前の早い時期から売り込んできたのに対し、中小企業などで利用されることの多い給与計算パッケージソフトなどは年末調整にも対応しており、マイナンバー対応のバージョンアップ版リリースが間近になって、ようやく本格的な売り込みにはいってきたようです。

マイナンバー対応が遅れているといわれる中小企業では、そうしたコーナーに足を運び、そのまま給与計算パッケージソフトなどを購入する、または現状利用している給与計算パッケージソフトをバージョンアップすることでマイナンバー対応に備えることが多くなると考えられます。

ここから制度がつづく限り管理していかなければいけないマイナンバーについては、システム選びはきちんと選択の軸を設けたうえで行いたいものです。

今回は中小企業向けにも出揃ってきたマイナンバー対応のシステムについて、システムの選択によって、安全管理措置などマイナンバー対応の運用がどのように変わってくるのか、その点に焦点をあててみていきましょう。

店頭販売の給与計算パッケージソフト バージョンアップでマイナンバー管理に対応

現在、家電量販店のソフトウェアコーナーでは、給与計算パッケージソフトを前面にならべ、「今購入すればマイナンバー対応版に無償バージョンアップ」とのうたい文句で販売促進がはかられています。実際にこれらのソフトウェアのマイナンバー対応版のリリースは10月末から11月にかけてとなっているため、デモンストレーションが行われているわけでもなく、家電量販店のソフトウェアコーナーでのマイナンバー商戦が本格化するのは、まだ先のことになると考えられます。

これらパソコン用給与計算パッケージソフトのマイナンバー対応ですが、以下のような機能が追加され、基本的に製品による大きな差異はみられません。

・あらかじめ給与計算ソフトウェアに登録されている従業員および扶養親族のマイナンバーを入力・登録できる機能
・マイナンバー取扱担当者の登録、担当者のみマイナンバーの登録・編集・閲覧などが行えるようなアクセス制御
・登録されたマイナンバーデータの暗号化
・源泉徴収票等へのマイナンバーの印刷
・マイナンバーに対する操作などのアクセスログ

こうした機能で、マイナンバー対応は十分といえるのでしょうか。

マイナンバー対応に給与計算パッケージソフトを利用する場合の課題

収集は紙ベースが基本 受け渡し・保管には十分な注意が必要

これらのソフトウェアでは、事業所内に設置されたパソコンにマイナンバー取扱担当者が従業員などのマイナンバーを入力することが基本となっているため、マイナンバー取り扱いの入口であり、一番手間のかかるマイナンバーの収集や本人確認は、システム外で行う作業ということになります。

そのため、マイナンバーの収集は基本的に紙で行うことになりますが、収集用に従業員本人および扶養親族のマイナンバー記入用紙をサプライ品として販売しているベンダーもあります。この場合は、マイナンバーが記載された用紙と本人確認のための通知カードのコピーなども一緒に収集することになり、これらの紙資料を従業員から企業への受け渡す際や、マイナンバー入力まで保管しておく際に、紛失や漏えいに備えた安全管理措置をきちんと講じる必要があります。

なお、マイナンバーのCSVデータの一括取り込みなどの機能が用意されているソフトウェアもありますが、この機能を利用するには、従業員がパソコンなどでマイナンバーを入力し、そのデータをCSVに出力して企業に受け渡す必要があり、ここでも紛失や漏えいに備えた安全管理措置をきちんと講じる必要があります。

提出も紙ベースが基本 必要なマイナンバー対応の支払調書に未対応のものも・・

次次にマイナンバー取り扱いの出口である源泉徴収票など法定調書や給与支払報告書の提出については、電子のまま税務署や市町村に送信できる電子申告・申請まで対応したソフトウェアは少なく、電子申告・申請に未対応のソフトウェアでは紙に印刷して提出することが基本となります。ここでも、持ち運ぶ際に紛失や漏えいに備えた安全管理措置をきちんと講じる必要があります。特に、給与支払報告書は従業員の居住する市町村が複数にわたり、これらの市町村への提出を郵送で行ってきた企業が多いと思われますが、今後郵送する場合は、安全のために簡易書留にするなど従来よりも手間や費用がかかることになります。

また、源泉徴収票を添付して提出する「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」では、多くの中小企業が源泉徴収票のほかに「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」や「不動産の使用料等の支払調書」なども作成、添付して提出しています。これらの支払調書でも支払先が個人の場合は、支払先からマイナンバーを収集しマイナンバーを記載した支払調書を作成する必要がありますが、そもそも、給与計算パッケージソフトではこれらの支払調書に対応していないものもあります。そうしたソフトウェアを使用している場合は、中小企業が税の分野でマイナンバーの記載を義務づけられるすべての帳票にシステムでは対応できないことになり、紙の支払調書に手書きして提出することになります。そして、これらの支払調書に記載するマイナンバーは、紙で収集後、紙で保管するしかなく、収集から保管、利用、提出とすべて紙で行うことになります。

そのため、これらのソフトウェアを使用する場合は、源泉徴収票に記載する従業員などのマイナンバーはパソコンで電子データとして管理し、支払調書に記載する支払先のマイナンバーは紙で管理することとなり、マイナンバー対応としては二重に負荷のかかる中途半端な対応と言わざるをえません。

マイナンバーの保管は事業所内のパソコンで パソコン利用状況に応じた安全管理措置が必要

給与計算パッケージソフトでは、基本的に事業所内のパソコンにマイナンバーを保管することになります。そのパソコンがいろんな業務で利用されている場合は、マイナンバー取扱担当者以外の従業員もパソコンを操作することになります。

本来であれば、マイナンバーを保管し給与計算や年末調整に利用するパソコンは、担当者以外の従業員が立ち入ることができない場所に設置し、担当者のみしか操作できないようにするのがベストです。

それが難しい場合は、担当者しかマイナンバーにアクセスできない機能を使って、担当者以外の従業員がマイナンバーを閲覧などできないようにすることです。このような利用方法でマイナンバーを利用して源泉徴収票などの書類を作成する作業を行う場合は、

・画面を覗き見できないようにパソコンを配置しなおす
・画面を開きっぱなしにしたまま席を立たない
・担当者のアクセス制御のためのID・パスワードは本人が厳格に管理する
・マイナンバーいりの書類を印刷する場合はプリンタから印刷されたらすぐに回収する
・パソコンの盗難防止のためセキュリティワイヤで固定する

などの措置をとるようにすべきです。

また、給与計算パッケージソフトを利用する場合、先に見たようにマイナンバーが記載された紙の書類も取り扱うことになりますので、それらの書類は常に書棚などに施錠保管し、鍵の管理も厳重におこなう必要があります。

以上みてきたように、中小企業の多くが利用する給与計算パッケージソフトでは、収集、利用、提出、保管といったマイナンバーの取り扱いプロセスのすべてにおいて、電子データおよび紙の書類に対して安全管理措置を講じた取り扱いが必要となります。中小企業がこれらのソフトウェア利用でマイナンバー取り扱いの負荷を軽減できればよいのですが、実際にはそれ相応の負荷がかかってくることは避けられません。

次回は、システム選びの選択肢として、マイナンバー管理に特化したシステムを検討していきます。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役

1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。