書籍化しても売れるケータイ小説

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ケータイ小説は公開されているので、誰でも無料で読める。にもかかわらず、人気の作品は書籍化しても売れるという。「本を購入しているのは、半分がケータイで読んでいた人で、残りは本から入った人です。もちろんケータイでしか読まない人もいますが、手元に形として残しておきたい、宝物みたいに本棚に置きたいという人たちが多いようです」。ケータイ小説サイト「野いちご」編集部 編集長の松島氏は、ケータイ小説の書籍版が売れた理由をそう分析する。読者は携帯電話のパケット料金定額サービスに加入しているケースが多いが、中にはパケット代がかかるので、書籍のほうが安くなると書籍版を買い求める人も多いそうだ。

松島氏は、「ケータイ小説の分野には男性はあまり入ってこないのではないか」と思っている。ケータイの活用頻度は女性が圧倒的に高いからだ。最近は主婦がケータイ小説の面白さにはまる傾向にあるそうだ。「コミュニティやネットワークがあって、ケータイ小説が受け入れられるクチコミという流れができやすい環境だからかもしれない」(松島氏)。

ケータイ小説に対する世間の反応について

ケータイ小説に対する世間の過剰な批判について松島氏は、「理解の範疇からはみ出たところから来たものだから嫌がられているのかもしれません。正直、私も最初は(読んでみて)キツイと思いました。でも、ケータイで読んでいると、ドキドキするんですよ。ケータイのスクロール速度と読む速度がちょうどしっくりくるのがケータイ小説なのです。受け入れてくれる人たちにとっては大事なものなので、その人たちに受け入れられる作品を作っていきたいですね」と語った。

最近のケータイ小説の中には、十和氏の『クリアネス』『雪花』など完成度の高いものもある。それらの作品は、ある著名な作家からも「しっかり書かれている」という評価を受けているという。「ケータイ小説の中にも、最近は子ども向け小説から本格小説まで種々雑多なものがあるので、素直な気持ちで向き合えば、きっと楽しい作品に巡り会えると思います。ケータイ小説はぜひケータイで読んでみていただきたいです」(松島氏)。

「タダ・気軽・感動」で人気に

ところで今回、連載の取材を進めるにあたり、関東圏の公立高校で情報教育を担当する教諭にご協力いただき、教諭が担当する高校一年生の生徒(100名)にアンケートをとっていただいた。それによると、子どもたちの7割がケータイ小説を読んだ経験を持っていた。内容評価は「良い」という印象を持つ生徒が圧倒的に多い。もちろん中には「ひどすぎる。小説という価値がない」と、多くのオトナと同じような評価をしている生徒もいたが、あくまで少数派だ。ケータイ小説が10代に深く浸透していることを改めて裏付けた形となった。

彼らがケータイ小説を評価するポイントはおもに3点。「ケータイで気軽に読める」「パケット定額料金だけで本を買わずに読めるので経済的」「感動するときがある」というものだ。お金がない高校生には、「タダでしかもいつも持っているケータイで手軽に読める小説」というところがウケていることがよく分かる結果だ。子どもたちは、オトナとは違う視点から、"ケータイ小説"という新しいメディアに触れているのだ。

ケータイ小説には、レイプ、ドラッグ、死別など、ステレオタイプとも言える"不幸のオンパレード"的な小説が多いと言われている。しかしそれは、昔のメロドラマや韓国ドラマのように、それがある種のエンターテイメントだからなのではないか。その裏に、今の10代の読者たちの純粋な悩みや願いが隠されているからこそ、これだけヒットしているのかもしれない。簡単に毛嫌いせず、新しい文化の流れをくみとることも大切なのではないだろうか。

著者プロフィール:高橋暁子

小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、『660万人のためのミクシィ活用本』(三笠書房)、『ミクシィをやめる前に読む本』(双葉社)などの著作が多数ある。ネットと教育関係やSNS関連などをテーマに多数連載中。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、"人"が関わるネット全般に興味を持つ。ブログはこちら