スマートフォンが普及し、オフィスにもPC設置が標準となった現代、「JPEG」に触れたことがないという人はまずいないのではないだろうか。この媒体に掲載している写真やイラストも「JPEG」形式で保存されている。

だが、あまりにも生活に浸透しすぎていて、「JPEG」そのものについて意識する機会はあまり無かったのではないだろうか。

そこで今回は、JPEGを作った団体に所属し、画像処理の研究を行っている拓殖大学の渡邊修准教授に、「世界一身近な画像圧縮技術」と言って差し支えない地位を確立した「JPEG」について、誕生の経緯から普及の流れ、そしてこれからリリース予定の次世代規格までお話を伺った。

拓殖大学 電子システム工学科 渡邊 修 准教授


ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 1 (JPEG) メンバー。画像処理、特に画像圧縮とその応用に関する研究が専門

――最初に、「JPEG」という名称の由来を教えてください。

策定団体の略称の頭文字からとられています。団体の正式名称は「The Joint Photographic Experts Group」、ISOの中の団体で、国際的な組織です。日本で言えば、たとえばJISみたいなところですね。規格を決定するところ、と言った方がいいかもしれません。

――「JPEG」の読みはどの国でも「ジェイペグ」なのでしょうか?

はい、JPEGの読み方は世界共通で「ジェイペグ」です。

――今や広く使われているJPEGですが、そもそもどういった経緯で生まれたのでしょうか?

まず、規格として定められたのは1992年です。研究・開発の分野では、この年の少し前(1986年)から、写真のような自然画像を通信回線を通して共有する、ということがホットトピックになったそうです。時期としてはFAXの規格化が落ち着いた頃で、テレビのように「白黒画像からカラー画像へ」という流れですね。JPEG策定当時、デジタルカメラはまだ普及していませんでしたが、実際、JPEGの策定直後に製品化されました。

当時のPC、ひいてはメモリ、HDDなどの容量は、今と比べると相当少なかった。通信速度も、今とは比べ物にならないほど低速・高コストでした.それに対して、画像データの占める割合がかなり大きかったんです。

――当時の圧縮技術では運用が難しかったのでしょうか?

静止画像のフォーマットはその当時すでにいくつかありましたが、自然画像のデータをその時あったフォーマットで保存していくとすると、たとえばデジカメのメモリーカードひとつに写真を数枚分しか記録できないとか、送受信に一日がかり、などということになりかねなかった。それではいけないということで、データのサイズを削減する方法が検討されはじめました。

ですが、ただ容量を削減するだけでは画質が汚くなってしまうので、世界のいろいろな人の知恵を借りて、なるべくきれいな画質でデータを小さくできるような方法を作ろうということになったんです。

やはり写真というのは、フィルムの時代であれば撮って、焼き増しして、それを配るというところまでが消費の流れです。それを電子データにするなら、コピーして渡すことができないといけない。そうなったら、カメラデータを持っている人だけではなくて、渡した先でも再生できなければいけない。であれば、画像の圧縮は共通の方法で行う必要があります。JPEGはそのために作られたんです。

――特定の企業が主導するのではなく、ISO団体として取り組んだ理由はどこにあったのでしょうか?

仰るように商業ベースで取り組むのもひとつの方法ですが、ISOで標準規格を作ってそれを「使ってください」という姿勢で展開することで、市場の広がりというのは大きくなって、メリットがあるのではないかという観点からJPEGという組織が作られたんです。

実際、それまでにも、大学・研究所レベルでは同様の発想で画像データの削減を試みていたのですが、先ほど述べたように画像データは共有できてなんぼですから、やはり国際的な標準規格が必要だろうという流れになったんですね。

――JPEGは非可逆圧縮なので、加工と保存することを繰り返すと画像は劣化していきます。劣化は基本避けたい事象だと思うのですが、非可逆が採用されたのはなぜですか?

規格策定に際して、「高い圧縮率」という目標があったためです。まず、可逆圧縮は頑張って圧縮しても、データ量はせいぜい元データの半分程度にしかならず、それだと不十分なんですね。

当初の目標で、実際に実用レベルにするには100分の1程度にはしたいというものがありました。そうなると、非可逆圧縮を使うしか無いんです。非可逆圧縮メインの方法になったのには、まずそこがあります。

次回は、JPEGという組織に世界の大企業や大学、研究所が参加する理由や、JPEGの広がりの裏にあった理由をお話いただきます。