iPhoneを持つ必然性がない労働環境

私は20年来のMacファンで、3年前にiPhoneがソフトバンクモバイルから発売されると決まった時には気もそぞろでした。その時の気持ちを一言で述べれば欲しい

しかし、まず自宅兼事務所に年間300日以上常駐しており、そこにはすべて光回線に接続されたMacが3台あります。取引先は地元足立区が中心で、事務所からの移動時間は最大でも30分。また、加盟しているマクドナルド店内から無線通信ができるサービスに申し込んでいるので、区内ならどこにいても5分以内に「ノマドオフイス」が開設可能です。

つまり、iPhoneを持つ必然性がないのです。おまけに私の端末はau。機種変更ではなく新規にもう1回線を持つ意味(言い訳)が見つかりません。

広告代理店の営業マン時代、ポケベルを持たされていました。ベルが鳴ってから30分以内に会社に電話をしなければ5,000円の罰金が課せられます。都心ならともかく、埼玉県も少し奥に入れば公衆電話が見つからないことはザラで、高速道路を走行中に渋滞に巻き込まれれば30分などあっという間です。そこで仕方なく購入したのが「0円ケータイ」で、キャリアはTu-kaです。

ガラケーだってネット閲覧もメールチェックは可能

本当は織田裕二さんがCMキャラクターを務めていた「IDO」が欲しかったのですが、0円ケータイは在庫処分の意味合いが強く、残っていた端末はTu-ka製だったのです。

その後「KDD」と「IDO」が統合して「KDDI」となり、携帯ブランドを「au」に変えました。さらに「Tu-ka」が「KDDI」に吸収合併され、しばらく経つとTu-kaが「今後使えなくなる」という脅迫状が届き、泣く泣く機種変更した端末が「au」です。

また、妻の携帯のキャリアは「J-phone」でしたが、「Vodafone」「ソフトバンク」と請求書の差出人が勝手に変わり、同じ端末を何年も使っている「常連」へのサービスは一切ありません。夫婦揃って「au」にしたのは、社名変更の回数を比較しての消去法です。携帯通信の必要性とキャリアの都合に振り回された記憶がiPhoneを断念させました。

冷静に考えれば、アドレス帳も予定も手書きで管理しており、携帯電話で最も使う機能がワンセグTVでしたので、iPhoneは私のニーズを満たすものではありません。私の携帯電話はいわゆる「ガラケー(ガラパゴス携帯。スマートフォンではない端末の蔑称)」ですが、10年前のPCぐらいの処理能力と通信機能は持っており、フルブラウザ機能を使えばそれなりにネット閲覧はでき、メールも携帯版のGmailでチェックできます。そう、私にスマホは不用です。

迷い込んだ先は墓場、すっかり鬼太郎の気分に

昨年末、某全国紙の記者と飲み会を開くことになりました。足立区と大手町の間を取って文京区の千駄木の和食屋に、予約を入れたと記者からメールが届きます。メールに書かれていた住所をGoogle マップでチェックすると、私の事務所からのルートは「日暮里・舎人ライナーで終点の日暮里まで上り、JR日暮里駅を越えて左斜めに進めば、徒歩で5~6分ぐらい」とのこと。「道に迷ったらガラケーで地図をチェックすればよい」と事務所を出ました。

JR日暮里駅に着いたら、左斜めを目指します。千駄木は多くの文人が愛した昔ながらの風情がたっぷりと残った味わいのある街です。その風情も、日が暮れてくると色を濃くする夕闇に装いを変えます。細い路地の合間を縫うように進むと、カタカタと不気味な音が耳に届きます。音がするほうをそーっと向くと、その主は塀の向こう側にあり、塀の上からチラッと除くのは「卒塔婆(そとば)」です。気がつけば周りは墓場ばかりです。

来た道を振り返ると、日暮里の新しいランドマークの高層ビルが見えます。方角は間違っていないと突き進んだ左斜めに待っていたのは谷中霊園でした。

左から、千駄木と谷中霊園。味わいのある街だが日が暮れてくると……

マイルールが通じなかったGoogle マップ

ここでガラケーからグルメサイトへアクセスし、店の住所からGPS機能を使って地図を呼び出します。画面に映しだされた地図に思わずつぶやきました。

「地図が間違ってるじゃん」

右に曲がるはずの道がないのです。何度確認しても自分の位置は同じで、左折路はあっても右折はできません。卒塔婆がからかうように乾いた音を響かせます。仕方なく来た道をガラケーで地図を確認しながら戻ります。すっかり信用していないガラケーですが、すれ違う人に「道を探している」というアピールをすることで「不審者」と間違われて警察に通報されるのを避けるためです。そして自分の位置が地図上で上に移動していることを知り、過ちに気がつきました。

ガラケーに映しだされた地図の南北を逆さまに見ていたのです。実際は南下しているのに、地図上で北上しようとしていたのですから、左折路は右折路で正解でした。これは東京以北の北方民族に時折見られる勘違いで、「上る」という表現から地図上の「上」を目指してしまうのです。足立区より北の埼玉県越谷市に生まれて育った私の営業の師匠も、いつも地図の天地を逆さにして見ていたものです。そこに「左斜め」がプラスされます。

北が上に表示されるGoogle マップで見ると、目的地は日暮里駅から左斜めの方向です。日暮里駅は北西から南東へと右斜め下に向けてホームがあり、目的の出口正面は南西方向に当たります。そこから「左下」を向かえば真南。アナログ時計の文字盤に置き換えれば、短針が指す7時30分を正面に見た時の左斜めは6時になるということです。地図上の左斜め前と、現地に降り立った時の左斜めを混同していたのです。日暮里駅の真南は徳川最後の将軍 徳川慶喜の眠る谷中霊園です。

上が元の地図で、下が実際の進路を表した地図。「左斜め」の解釈の違いで全然異なる方向へ行ってしまった

私にスマホは過ぎたおもちゃであり、iPhoneなどもってのほか。地図上の南北を間違え、地図上の左右を現地に降りたった時の左斜め前に適用するのですから。ただ愚痴をこぼせば、携帯端末の処理能力の向上から、モバイルサイトでも店舗案内図に各種地図サービスを利用したものが多くなりましたが、客のすべてが地図を読めることを前提としているのはいささか傲慢な気がしてなりません。

今回の情弱ポイント

思い込みの前に電子機器は無力……だが、あえて言う。「Google マップをすべての客が理解できるとは限らない。客商売なら店舗案内地図ぐらい自作してください、お願いだから。夜の墓場は40代になっても怖いのです」