親の代わりにできることはすべて学童で
「環優舎」代表の吉川まりえさん |
東京メトロ日比谷線の「広尾」駅からほど近く。緑豊かな公園と大使館に囲まれた閑静なエリアに立地するマンションの1室に「環優舎」はある。大きな看板は出ておらず、インターホンにも代表者の名前のみ。ここは「家庭的な預かり」を掲げる定員15名の小さな学童保育だ。まだ今ほど民間学童がなかった10年前から長時間預かりを実施し、専門職や管理職といった保護者たちから支持されている。
代表の吉川まりえさんのキャリアが興味深い。もともとは外資系IT企業のワーキングマザー。責任ある仕事をする中で妊娠、出産を経験し、当時は子どもを納得して長時間預けられる施設がなく、シッターにお願いしながら、出張時は子どもを同伴するなど苦労を重ねた。
しかし、「この方法も子どもが幼児になってまでは続けられない。行政が動くのを待っていたら子どもはどんどん成長してしまう。同じ悩みを持つ人のためにも自分でやるしかないと思った」と吉川さん。自分だったらどう保育してもらいたいか、預ける側の発想で環優舎を立ち上げた。働く親もわが子は手塩にかけて育てたい。その気持ちに寄り添って最上級の保育を提供しようと考えた結果、規模は大きくせず、一家庭からきちんと利用料(月額20万円)をとる形になったという。
現在、環優舎には幼稚園の年中児から小学6年生まで14名が在籍。私立や公立の他、土地柄インターナショナルスクールへ通う子もいる。放課後の過ごし方はみな様々で、リビングでおもちゃ遊びをしている子どももいれば、環優舎に学校の荷物を置いてから、習い事や塾へ行く子どももいる。近くには大きな公園や設備の充実した児童館もあり、遊び場所には困らない。小さな子どもの習い事への送迎はスタッフの他、シッターを別に手配することもある。
迎えが遅くても子どもの生活リズムは変えない
保護者からの要望にはできる限り応えるのが環優舎の方針だ。翌日使う体操着を家で洗う時間がなければ洗濯をしておき、頼まれれば遠足のお弁当も作る。宿題の丸つけが必要なら保護者にかわってチェックをする。驚いたことに吉川さんは、一人一人の学習進度をきちんと見た上で、その子に合った教材を選び個別に取り組ませていた。
また環優舎には延長保育というメニューが存在しない。迎えが何時になっても保育料は一律だ。子ども達は学校から環優舎に帰ってくると、それぞれの予定をこなし、いつもの時間に宿題をやり、18時には揃って夕食をとる。夕食前に迎えがあった日は夕食はお弁当にして持ち帰ることができ、両親ともに残業で迎えが遅い日には、入浴まで済ませて20時30分にベッドに入り、仮眠しながら迎えを待つ。
「『お迎えの時間』で親を拘束したくなかった」と言う吉川さん。一般的な学童だと急な仕事が入って迎えの時間に間に合わない場合、延長の連絡をしなければならないが、環優舎では不要だ。ここでは子どもの生活リズムを決して変えないので、いつ迎えにくるかは大きな問題ではない。すべての子を20時30分に寝かせられるようにスケジュールを組んでいるので、親もお迎えの時間が遅くなろうが帰宅後にバタバタすることもない。どんなに親が忙しくても子どもの睡眠時間はきちんと確保する。環優舎が大事にしていることの一つだ。
次回の後編では、環優舎のもう一つの柱、こだわりの食事についてレポートする。