スマートフォンアプリを必要としながら、開発技術も技術者の当てもない企業と、技術とアイデアを持ちながらもアプリを必要としている企業と接点がない技術者との間に立ち、スマートフォンアプリのスムーズな開発とマネタイズに尽力する「Future of Apps」。今回、同サービスを運営するベストクリエイトサービスの社長付 事業企画担当の中塚薫氏に、立ち上げの経緯や今後の展望について聞いた。

ベストクリエイトサービスの社長付 事業企画担当 中塚薫氏

裾野が広がる企業のスマホアプリに対するニーズ

「Future of Apps」の始まりは同じ名称のイベントにある。開発者からスマートフォンアプリの企画を募り、優秀な企画には開発費を投入し、配信・マネタイズまでをサポートするというイベントだった。

「もともと、われわれはスマートフォンアプリの開発者を紹介していなかったのですが、イベント直後から『開発者を紹介してほしい』という問い合わせを受けるようになりました。それらに随時対応しているうちに、『企業と開発者の橋渡し』にニーズがあるなと感じたのです」と、中塚氏は振り返る。

通常のアプリケーション開発において、企業側が要件定義を行うのが常識だが簡単ではなく、開発の知識がない企業にとっては難関だ。しかし、スマートフォンの急速な普及から、スマートフォンアプリに注目している企業が急増していることがわかり、スマートフォンアプリを必要としている企業をサポートするための対応策として同社が出した答えが「Future of Apps」だった。

「イベントでテーマに沿った企画書を募集し選定することが新鮮に感じられ、実際のビジネスでも『企画募集型』がいいのではないかと考えました。ユーザーのニーズに合った企画を複数集めて比較検討できるわけです。幸い、イベントに賛同してくれた企業のネットワークもあり、生かせるものがあると考えたのです」

自身もさまざまな開発に携わった経験から、「企業側にとってリスクや手間が少なく、開発者のアイデアが生かせる取り組みがあったら便利だろう」と考えていたという同氏。開発について詳しくない企業でも、「テーマ」と「予算」だけを決めれば大ヒットアプリを送り出すことも夢ではない、という「Future of Apps」はこうして誕生した。

「Future of Apps」では、開発したいスマートフォンアプリの予算とテーマを決めるだけで、技術者から企画を募集することが可能だ

開発に不慣れな企業と技術に偏りがちな技術者を仲介

実際に企業と技術者のマッチングを行っているなかで、いくつかの問題が見えてきたという。中塚氏は、「企業側にはアプリケーション開発における不慣れさが目立ち、それゆえに極端な低予算や短納期の案件が見られます」と話す。

「スマートフォンアプリで『やりたいことは明確だけど実現する方法がわからない』という企業が少なくありません。そのため、自社が欲しいアプリの開発に何人でどの程度の作業が必要かわからず、非常に低い予算を提示してしまうケースがあります。また、よい企画を集めるには一定の期間が必要なのですが、その辺りも考慮されていないケースもあります」と同氏。

厳しい条件を承知のうえで企画を募集することも可能だが、案件の成立が見込めないほどの低予算や短納期に関しては、実際に募集を開始する前にベストクリエイトサービスから指摘を行うこともある。

一方、開発者側にも問題はある。「技術者にはそれぞれの得意分野があるので、企業がテーマを設定することで、面白い切り口に転換することができます」と、同氏は語る。

企業側の無理なニーズを指摘したり、技術者側からたまに出てくる企画趣旨に合わない企画書を選別したりと、単なるマッチングの枠を越えて開発プロジェクトにベストクリエイトサービスが積極的に関わるのが「Future of Apps」の大きな特徴だ。

適正価格での開発を実現できる「逆オークション状態」

実際に成立した案件の中には、最初に企業が提示したよりも低い予算で収めることができたものもある。特に大規模なシステム開発を委託したことのある企業は過去の経験から予算を高めに出す傾向があり、結果、想定よりも安くなる傾向があるようだ。

「全体的に成立した案件は適正価格に落ち着いているのが特徴です。企業側の募集に開発者が応募するという、いわば逆オークション状態のため、相場からかけ離れた価格で成立することがないのです」

案件が成約する前に、両社間でカスタマイズの必要性を確認する。当初の要件から変更がなければ、200万円の予算に対し、「120万で十分です」と開発者が言うこともある。また、機能追加をしても、180万円で収まったというケースもあるそうだ。もちろん、両社合意のうえで、予算を上回った例もある。

「アプリの開発だけでなく、それを配信するWebサイトや配信サーバなどについても話をします。通常は要件定義に抜けがあれば企業の責任になりますが、Future of Appsでは開発者と当社がアプリの公開まで踏まえて三者ミーティングを行うので安心です。すべてに合意して契約書を交わすまで、われわれがしっかりとサポートします」

実際の開発フェーズに入ると、ベストクリエイトサービスの出番は少なくなるが、リリース完了までは進捗具合の確認などを含めてきめ細やかに対応してくれる。開発に不慣れな企業でも安心して利用できる仕組みだ。

数年後にはスマホアプリを提供していないと恥ずかしい時代に!?

中塚氏がインタビュー中に繰り返し口にしていたキーワードに「黎明期のWebサイト」がある。「インターネットが急速に普及した頃、企業にとってWebサイトはなくても困らないものでした。しかし今や、Webサイトを持たない企業は非常に少ないですよね。スマートフォンアプリは現在、黎明期にありますが、2~3年後にはある程度の規模の企業は持っていないと恥ずかしいくらいの感覚になると予想しています」と同氏は語る。

ここで言うスマートフォンアプリは、必ずしもコンシューマーに向けたゲームなどを指しているわけではない。企業内で活用するもの、モバイルで業務を効率化するものも含まれる。つまり、何らかの形で業務にスマートフォンを取り入れることや、B to Cのビジネスにおいて顧客がスマートフォンから利用可能な環境を整えることが当たり前になる時代が近づいているというわけだ。

「現在、Androidを搭載したスマートフォンが急激に増えています。2011年末までに1000万台は普及するでしょう。1,500万台に届くという予想もあります。これにiPhoneが加われば2,000万台です。また、今後はPCや家電のOSとしてもAndroidが採用されるはずです。もはや、スマートフォンアプリは『まだ早い、よそがやってからでいい』という時代ではありません。すぐそこに取り組むべき時期が来ているのです」

マーケットを見ている企業であれば、こうした状況を少なからず感じ、「今後スマートフォンが重要になる」と考えているはずだ。しかし、スマートフォンに対し何かしようと考えると、「誰に頼んでよいのかわからない」、「何からスタートしてよいのかわからない」という企業が多いかもしれない。そうした時、自社で用意できる予算と簡単なテーマだけを決めて、「Future of Apps」にアクセスすればよい。きっと思いがけないアイデアに出会えるはずだ。

前回と2回にわたり、スマートフォン向けアプリの開発の現状についてお届けしてきた。世界のスマートフォンの販売状況を見る限り、今後、顧客などの社外向け、社内向けとそれぞれに対するスマートフォンアプリの需要が高まるのは間違いない。基幹業務向けシステムと違って、提供のスピードも問われるスマートフォンアプリを開発するうえで、適切なコストと期間で行えるかどうかは成功のための要素の1つと言える。アプリを開発したい企業も、アプリを開発するエンジニアも、絶好のビジネスチャンスを失わないために、一度、「Future of Apps」をのぞいてみていただきたい。