今の世の中では、まだまだ「結婚するのが普通」だと思われています。そして、これは少子化を加速させる要因にもなっていると思うのですが、「子供を産むなら、結婚するのが普通」とも。

と、さも自分はそれが普通だとは思っていませんよ、と言わんばかりの書き方をしてしまいましたが、これらの「普通」に感じる違和感を、はっきり自分の意見として言うことには、なぜか勇気が要ります。心のどこかで、やはりそれが「普通」なんじゃないか、「普通じゃない」のは、今の常識ではなく、私自身なのではないか、という疑問が頭をもたげてくるからです。

別居婚などの「イレギュラー結婚」は珍しいこと?

そんな私にとって、少し勇気の要る告白をします。私は、こんな連載をしているぐらいですから、結婚はしたいと思っています。しかし、私は他人と一緒に長時間過ごすのがとても苦手です。家族と一緒に数日過ごすだけですら、体調を崩すほど苦手なのです。 「できれば、一緒に住まないほうが、うまくいきそうな気がする……」。私は長いこと、こういう自分の性質や考えについて、人に話すことができませんでした。

しかし、最近、友人の一人がこう言うのを聞いたのです。「私、結婚しても一緒に住みたくないんだよね。できれば、同じマンションの別の部屋に住むのが理想」。胸のつかえが取れたような気持ちになりました。そう思っているのは、私だけではなかったのだ、とホッとしたのです。軽々とそう言った友人の態度を見て、私はなぜそういうことを口に出せなかったのだろう、と考えました。

「一緒に住まない、そんな状態で結婚する意味があるのか」
「ただ付き合っているだけと、何も変わらないじゃないか」

だいぶ前に、そう言われたことを思い出しました。私はそう言われてから今まで、結婚できませんでした。そう言った相手は結婚しました。

間違っているのは自分なのだと、私はどこかで思っていたのでしょう。自分でも、「結婚はしたい」「一緒には住みたくない」と、自分のしたいことばかりを並べる自分自身の態度に、「これでいいのか」という疑問を持っていました。

「結婚したい」と思っている男性の多くは、一緒に住むのは当然と考えているだろう……。そう考えると、こんな自分が「結婚したい」と言うのは、なんか、まぎらわしくて迷惑なのでは、という気さえしました。

「結婚したい」。そう言うのだったら、こんなわがままな、普通じゃない願望を口にするべきではない。私はだんだん、そう思うようになっていたのです。「普通」になるよう努力しなければ、結婚なんてできないのだと。そして、「普通じゃない」ことを望むなら、結婚なんかできなくて当然なのだと。

でも、普通の人生なんて、いったいどこにあるのでしょうか。結婚したらしたで、「これぐらい収入がないと普通じゃない」「そろそろ家ぐらい買わないと普通じゃない」「セックスレスは普通じゃない」と、また新しい「普通」に苦しめられるのではないでしょうか。

普通じゃないことは、理解されにくいことです。私は知らないうちに、普通ではない自分の気持ちを人に説明することにも、わかってもらおうとすることにも、疲れてしまっていました。でも、思いきって口にすれば、それで救われた気持ちになる「普通じゃない人」がいるのです。私が友人の言葉に救われたように。自分を苦しめる、「普通」という幻想を、取り払えたらいいなと思います。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩