JR鶴見線は京浜工業地帯の通勤路線。朝夕のラッシュ時間帯重視のダイヤで、日中の運行本数は極端に少ない。それゆえに「都会の中のローカル線」と呼ばれている。そんな典型的通勤路線はどんなダイヤになるだろう? そして休日はどうだろう? 比較してみたら、意外な結果になった。
鶴見線は鶴見駅と扇町駅を結ぶ本線と、浅野駅と海芝浦駅を結ぶ支線、安善駅と大川駅を結ぶ支線で構成されている。支線の列車もすべて本線に乗り入れ、鶴見駅を発着している。かつて大川支線は武蔵白石駅と大川駅の間を1両の電車が往復していたけれど、現在は本線の鶴見駅発着。武蔵白石駅を通過し、事実上は安善駅から本線を離れる。
海芝浦駅は隠れた観光名所としても知られている。海芝浦駅はほぼ海の上にあり、ホームからは京浜運河の風景が見える。首都高速湾岸線の鶴見つばさ橋のライトアップを眺めるデートスポットでもある。ところがこの海芝浦駅、東芝工場内にあるため、東芝関係者以外は駅の外に出られないという特殊な駅としても知られている。
さて、今回は通勤路線の平日ダイヤと休日ダイヤを比較してみよう。鶴見線も前回の南武線と同様、貨物列車が走るけれど、今回は旅客列車のダイヤを比較してみる。
まずは鶴見線の本線から。平日ダイヤの全体図を眺める。黒い線は本線の列車。赤い線は大川支線に乗り入れる列車、青い線は海芝浦支線に乗り入れる列車だ。
通勤時間帯の運行本数が多く、日中はスカスカだ。7時台と8時台に鶴見駅を発車する列車は約6分間隔となっている。都心の通勤電車は2~3分間隔だから、ややローカル色が現れている。かなり混雑しているから、本当はもっと増発してあげたいところだ。日中は運行間隔が広がって20分間隔になり、ローカル線らしくなっている。
区間ごとの本数を比べると、鶴見~浅野間が多い。これは海芝浦支線直通の電車が多いからだ。次に多い区間は浅野~浜川崎間となる。これは日中も同じ。浅野駅付近は民家が多く、浜川崎駅付近も民家や家族経営の小さな工場が多い。浜川崎駅は南武線支線との乗換駅だから運行本数を多めにしているともいえそうだ。
浜川崎駅と扇町駅の間は、日中に2時間おきとなる。工場に勤める人は、出勤したら退勤するまで外出しないだろうし、日中は乗客が少ないということらしい。
その鶴見線が土休日にはどうなるか? もっと閑散とすると思ったけれど、意外にも通勤時間帯の運行本数はほぼ同じだった。鶴見発で6時台は半分になるけれど、7時台に2本、8時台は4本減る程度だった。沿線の工場は年間を通じてフル稼働しており、従業員の多くは交替シフト勤務だろうか? もちろん、沿線住民のお出かけ需要もあるのだろう。
日中は運行本数が減っている。平日は20分おきだったけれど、土休日は30分おきだ。工場はフル稼働でも、事務員や訪問客は減るということか。沿線の人々の休日はのんびり。列車ダイヤから、鶴見線沿線の勤務形態や生活の様子がうかがえる。
海芝浦支線、大川支線は通勤需要が顕著に表れる。本線のダイヤの青い線は海芝浦支線の電車だ。この電車の支線の動きを描いてみよう。
本線の一部が支線に入るから、本線より運行本数は少ない。それでも朝夕は多め。そして日中は最大で2時間おきになる。これは本線の末端区間とほぼ同じ。「都会のローカル線」と呼ばれる理由も、この運行本数の少なさにあるだろう。取引先の工場を訪問する場合、アポイントメントに遅れないように気をつけたい。
土日はさらに運行本数が減る。土日に工場の勤務当番になった人は要注意。出勤時刻ギリギリに間に合う電車に乗り遅れると大遅刻になってしまう。昼間の運行本数は平日とほぼ同じ。これ以上減らせないという感じだ。デートで訪れたら、少なくとも2時間は帰れない。たっぷりと語り合えるというわけだ。相手を退屈させない話術や振る舞いが求められる。鶴見線は高度なデートコースかも……。
大川支線は究極のローカル線かもしれない。平日と休日を眺めよう。
なんと、平日の日中は走らない! 通勤時間帯だけの運行だ。最寄りの工場の都合に沿ったダイヤ。日中に行き来する人はクルマを使うしかない。その程度の移動数なのだろう。土日は1日3往復だけ。横綱級のローカル線といえる。うっかり乗りに行くと帰れない……というのはちょっと大げさかも。電車で訪れ、帰りも電車となると待ち時間が長いけれど、本線の安善駅までは徒歩20分程度だ。工場街の景色を楽しみながら散歩しよう。