横浜中華街にある聘珍樓(へいちんろう)は、1884年に創業して以来120年以上愛されてきた中国料理・広東料理の老舗だ。日本に現存する最古の中国料理店でもあり、現在は本店のほかに8店舗を構えるが、特に多くの利用者が集まるのは横浜本店だという。

聘珍樓 横浜本店

聘珍樓の料理。左から北京鴨、叉焼、陶板排翅

その横浜本店で充実した顧客サービスのために導入されたのが「Zoho CRM」だ。他社のCTIと組み合わせることで予約管理のシステムに活用されている。

「横浜本店にコールセンターを設置し、以前からWebベースの予約管理システムを利用していました。ところが現場から『うまく利用できていない』、『お客様への対応を改善したい』という相談があったのです」と語るのは、聘珍樓 執行役員 経営企画室 室長である白野正樹氏だ。

Webベースのシステムはすでに6年ほど利用していたが、電話予約を受けてメニューや人数といった必要情報を店舗と共有するという基本的な目的は果たせていたものの、当初の理想からは遠い状態にあったという。

聘珍樓 執行役員 経営企画室 室長 白野正樹氏

「以前利用していたシステムが電話連携出来ないこと。さらに、電話回線がアナログ対応だったため、お客様の電話番号がこちらの画面に表示されませんでした。そのため、毎回、連絡先の電話番号をお伺いしなければなりません。中には『今表示されている番号だ』とおっしゃって電話を切ってしまう方もいらっしゃいます。お客様の過去のデータは検索できるのですが、すぐに表示ができないため、常連のお客様でも困ることがありました」(白野氏)

聘珍樓のコールセンターでは、顧客からの予約申し込みを電話中に直接システムには入力せず、一度、紙にメモしてから、改めて入力していた。これは、確実で迅速な処理を優先したためだという。そのため、過去の情報を電話中に紐づけることができず、「前回と同じ料理」というようなリクエストに対応しづらいという問題もあった。

コールセンターから店舗側への連絡は、フロント、フロア、厨房といった担当部署ごとに必要情報のみをプリントアウトしたものを用意して、手渡しする形をとっていた。そのため、当日の急な人数変更などを店舗側にスムーズに連絡できない問題もあった。

そこで同社では、全体的な見直しが必要だと判断し、まずは電話番号の表示問題を解決するため、デジタル回線で利用できるCTIを導入することを決定した。

資産を持たない主義でクラウドサービスを選択

CTIとして選択したのは、コムデザインのクラウド型CTIだ。聘珍樓には、「できるだけ資産を持たないシステムにする」という基本的な考え方があるという。

「導入して年数が経ち、修理はできず、保守契約も結べなくなり、リプレースを考えなければならないというシステムでは困る、という意識がここ3~4年で社内に出てきました。そのため、クラウド型CTIは非常によいと思いましたし、Zohoについてもよい出会いができたと思っています」(白野氏)

Zoho CRM以外に、他社のCRMも検討されたが、「一方の製品は、思ったより費用がかかることがわかり、Zoho CRMの方が魅力的だと感じたのです」と白野氏は説明する。

聘珍樓ではコールセンターで常時4~5名が対応しているが、紙に1度書き出す方式や店舗への紙での通達は当面そのまま行うことにしたため、導入したZoho CRMのライセンス数は4。年間コストは1ライセンス当り約1万7,000円程度だという。

「仮に新たに導入したCTIがうまく使いこなせなくとも使い続けられそうですし、コスト的にも社内で簡単に導入できる金額に収まっていました。また、入力フォームのカスタマイズなどができるのも魅力です」と白野氏は選定理由を語った。

1クリックで顧客情報が把握できる快適さを実感

実際の導入はZoho CRMが先行した。2012年5月から利用を開始。検討開始から3カ月ほどで導入が完了し、従来のシステムから顧客連絡先のみを5万件ほど移行した上で、従来どおりに電話を受けた後で情報入力を行うという形で使い始めた。

「最初は、今までのものと変わるのは面倒だという声も当然ありました。しかし、使ってみれば慣れるものです。現場から上がってくる入力欄のカスタマイズなどのリクエストには私が対応しました。以前はベンダーに依頼して時間とコストをかけて対応する必要があったのに、自分でカスマイズができてしまうというのは非常に魅力的です」(白野氏)

「新システムは使いやすいと現場で好評です。まず何よりもお客様の情報が知りたかったわけですが、今は電話がかかってくると同時にZoho CRMに入っているお客様情報が検索され、1クリックで表示できます。もちろんお客様の電話番号も取得できますし、操作方法に対するとまどいもありません」と白野氏は導入効果を語る。

新システムのポップアップ画面

新システムのCRM画面

店舗の各部署向けプリントを作るために、当日の予約データはCSVでエクスポートした上でExcelで加工している。コールセンターから上がってくる主な問い合わせは、このExcel操作の部分で、Zoho CRMに対する問い合わせはほとんどないという。

「最初はPC操作に不安があったものの、2日程度で慣れました。今のところ不満といえば、電話をかけるのに画面上で操作しなければならないことですね。Zoho CRMの名前をクリックすれば電話がかかる、という形になってくれるとありがたいです」と白野氏は語った。

IT知識を必要としない柔軟なカスタマイズ

新たなコールセンターシステムの導入から実運用までを一手に引き受けている白野氏だが、同氏がシステム担当というわけではない。IT・インフラ業務は総務部門が担当するが、最初にコールセンターからの相談を受けた流れから、予約システムに関しては特別に担当している形だ。ITに関する知識も特別深いわけではない。

「専門業者の方と話をしても分からない単語はたくさんありますが、しっかり聞けば何を言っているのかわかります。その程度ですが、Zoho CRMの利用やカスタマイズには全く困っていません。現場で入力したい順番や欲しい項目は決まっていますから、画面構成も簡単です。それに合わせてフォームを追加したり入れ替えるのもドラッグ&ドロップで済みます」(白野氏)

本店の場合は現場スタッフ側から既存システムの改善という要望が出たことで新システム導入に至ったが、そのまま他店舗にも展開することは今のところ考えていないという。それは本店以外には独立したコールセンターがないために客前でPCを使わないというオペレーションが難しいと共に、現場での危機感がなければ実際に使われるようにはならないという考えがあるからだ。

「仮に他店でも本店と同じようなことをしたいという要望が出れば、導入できる方法を考えます。たとえばタブレットで全部利用できるようになってくれるとありがたいですね」と白野氏。

実は本店では、すでに別の業務にタブレットを導入している。それは、コールセンターと店舗の間での連絡用端末としての利用だ。LINEを利用して簡易なメッセージを送り、当日の予約変更について連絡を取り合っている。

「その時々で必要なものを導入してきたため、すでに空席管理用のタッチパネルなどが店内にあります。お客様の前でPCを使うのは見せたくありませんし、店内にいくつもの機械を置くのも難しい。タブレットで使えるようになってくれれば新たな展開もしやすいのですが、今のところCTIの方が対応していません。将来的に可能になればと思っています」と白野氏は語った。