コンテンツマーケティングを正しく理解し、正しく実践するための本連載。前回までは、コンテンツマーケティングの概論や実施の際のおおまかなステップ、そして今コンテンツマーケティングが求められる背景をご紹介しました。

3回目となる今回は、「これからコンテンツマーケティングに取り組みたいのだけれど社内の理解を得るのが大変……」というマーケティング担当者の方向けに、上司説得術を伝授いたします。

1. コンテンツマーケティングの成果は測定可能です 

コンテンツマーケティングは、効果が分からないのではないか――これは、実施する際に最も"ありがち"な反応です。確かに、直接的に自社の商品やサービスを宣伝しない手法のため、効果が分かりにくい印象があります。

ですが、実はそうではなく、定期的に測定することでコンテンツマーケティングの効果を定量化することが可能なのです。マスメディアでの広告露出よりもむしろ計測しやすい、といってもよいでしょう。

測定のポイントは、KPI設計

効果を定量的に計るためには、あらかじめ「KPI (Key Performance Indicators: 重要業績指標)」を決めておくことが重要です。

例えば、コンテンツを閲覧した人数「ユニーク訪問者」や、コンテンツを表示している時間「ページ滞在時間」からは、どれだけのユーザーがコンテンツを見て、関心を持っているかが分かりますし、ソーシャルメディアの「フォロワー数」からはブランド認知度が、コンテンツの「シェア数」からはコンテンツの人気度(共感度)が分かります。また、シェアされたコンテンツの種類や、それらへのコメントを読むことで読者の興味関心や意見を知ることも可能です。

ダウンロードコンテンツを活用すれば、売上への貢献度も可視化できる

また、eBookやホワイトペーパー、お役立ちテンプレートといったダウンロードコンテンツを用意しておけば、見込み客のリード情報(属性情報)を取得することもできますし、その後実際に商品を買ったかどうかを評価することも可能です。どのコンテンツを見たユーザーが、会員登録・メルマガ登録・ダウンロード・問い合わせ・購入をしたか分かれば、売上に対するコンテンツごとの貢献度も数値化でき、より効果的なコンテンツを準備する際には重要な目安にもなります。

コンテンツマーケティングでは「ユーザーが何に興味を持ち、どのような経路で購入するのか」を数字で把握することができるのです。

「コンテンツマーケティングにおけるKPIの指標例」 資料 : 宗像氏著「商品を売るな」

2. 小予算からでも始めることができます

予算がないから始められない! ――これも、コンテンツマーケティングを提案したときに、上司から言われそうな一言ですよね。

これに対しては、「一般的な広告に比べ、コスト削減につながります!」と堂々と切り返してください。広告の多くは、露出料に応じて出稿費用がかかりますが、コンテンツマーケティングは、(極端に言えば)自社サイトにコンテンツを置いておけば始められる手法ですのでコスト削減に繋がります。

蓄積効果で継続に応じてROIが改善していく

また、広告は一般的に、出稿し続けるとその分費用が発生しますが、コンテンツは、一度公開してしまえばコストはかかりません。

加えて、コンテンツの掲載を継続すればするほどその量は増えていくため、1ユーザーを取得するためにかかるコスト(CPA)は改善していきます。米カポスト(Kapost)のレポートによると、「コンテンツマーケティングはコンテンツ制作時に費用が掛かるものの、コンテンツを長期間にわたって公開できるため、公開後5カ月でリード情報の獲得単価が一気に下がる」ことが明らかになっています。

「1件の問い合わせ取得に掛かる費用」 データ出典 : 「Content Marketing ROI」(Kapost) 資料 : 宗像氏著「商品を売るな」

3. 人的リソースは、社内に隠れています

競争の激しい今の時代において、社内に十分な人的リソースがあるような会社ばかりではないでしょう。むしろ、一人の担当者が数多くの業務を兼任するようなケースも多いのではないでしょうか。こういった企業のマーケティング担当者が抱える導入障壁は、「コンテンツマーケティングには興味があるが、社内には取り組める人材がいない」ことです。

しかし、コンテンツマーケティングは新しい取り組みです。現状のマーケティング部門やWeb担当部門だけに着目していたら、経験者はいないかもしれません。(業界全体を見渡しても、まだまだ「コンテンツマーケティングのプロ」が少ないというのが現状です。)

では、少し広い視野で社内を見渡してみましょう。手掛けている仕事のアウトプットを「コンテンツ」と呼んでいなかったとしても、日常業務でコンテンツ制作に携わってきた社員は、思いのほか少なくないのではありませんか?

例えば、ほとんどの企業はWebサイトを持ち、日々運用しているはずです。商品販売用のECサイトを持っている企業もあるでしょう。そういったサイトの制作チームや、外部の制作会社との調整業務を行っている社員は、コンテンツマーケティングの担い手候補です。

また、営業や販売促進の担当者として、顧客向けの説明資料やメールマガジンの制作に携わる社員はいませんか? 表品開発部門で商品パッケージのデザインを担当しているデザイナーは?

このほかにも、メディア対応の窓口となり、ニュースリリースの執筆を行う広報担当者や、社内報の担当者などもコンテンツマーケティングにはうってつけと言えるでしょう。

このように、社内外へ向けた何かしらのコンテンツを制作した経験のある社員から、マーケティングに興味を持ちそうな人を探してみましょう。最初は担当者ができることから始め、効果を見ながら徐々に取り組みを拡大していくことが成功の秘訣です。一定以上の規模に拡大する際には、社外のコンテンツ制作会社などを利用するのも手でしょう。

「社内を見渡せば、狙い手は意外なところに」 資料 : 宗像氏著「商品を売るな」

いかがでしょうか?

大きな投資をせず、まずは小さい規模でから始められることも、コンテンツマーケティングの利点の1つです。アメリカから盛り上がった手法ではありますが、すでに国内企業も続々と挑戦しています。競合他社に出し抜かれてしまう前に、ぜひ一歩を踏み出してみて下さい。

次回は、コンテンツマーケティングを成功に導く5つのステップをご紹介します。

執筆者紹介

イノーバ 代表取締役社長 宗像淳

福島県立 安積高等学校出身、東京大学文学部卒業。その後、富士通にて北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等を経験する。MBAを取得するため、ペンシルバニア大学ウォートン校に留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから楽天へ転職。その後、ネクスパス (現 : トーチライト)で、ソーシャルメデイアマーケティング立ち上げを担当する。
2011年6月に株式会社イノーバを設立(公式Webサイトはこちら)。著書に『商品を売るなーコンテンツマーケティングで「見つけてもらう」仕組みをつくる (日経BP)』がある。

書籍紹介

商品を売るな

著者 : 宗像淳
発行 : 日経BP 2014年12月8日

生活者の購買行動が大きく変化している。プッシュ型広告で商品を売り込んでも、顧客はそれを無視するようになっている。従来のマーケティングはもう効かないのだ。表立って宣伝せず、見込み客に見つけてもらうための古くて新しいマーケティング手法、それがコンテンツマーケティングである。

この手法は、コカ・コーラやP&Gといったマーケティング先進企業だけでなく、中小・スタートアップ企業が積極的に導入している。では、コンテンツマーケティングとはどのような取り組みかなのか? どんな効果があり、費用はいくらか? 運用のコツは? 成功するポイントは? ――本書では、国内・海外企業の事例紹介を交え、コンテンツマーケティングの全貌を分かりやすく解説する。