コーヒー専門店の専売特許といったイメージのネルドリップコーヒー。そんなネルドリップを家庭でも楽しむべく、前回はまずネルドリップの扱い方を紹介した。今回はいよいよ、茨城・ひたちなか市に本店を構えるコーヒー専門店「サザ コーヒー」の鈴木太郎さんおすすめの方法で、コーヒーの抽出に挑戦。香り高いネルドリップコーヒーはもうすぐそこだ!!

プラス1杯の法則

コーヒーを淹れる際、まずは豆を計量する必要がある。鈴木さんは、計量時に活用したいある決まりごとを教えてくれた。それは「プラス1杯の法則」である。

コーヒー豆を計量する時、たいていの場合は専用の計量スプーンを使用する。スプーン1杯分の豆でコーヒーカップ1杯分のコーヒーが抽出できるので、3杯抽出する場合は、スプーン3杯分のコーヒー豆を使用する、といった具合だ。しかし鈴木さんは、「3杯抽出する場合は、スプーン4杯分、つまりカップ4杯分のコーヒー豆を使います」と言う。このように、通常必要とされるコーヒー豆に1杯分プラスして抽出するのが、鈴木さんがすすめる「プラス1杯の法則」である。

おいしいコーヒーを淹れるための「プラス1杯の法則」

ではこの法則には、どのようなメリットがあるのだろうか。

「プラス1杯の法則によって、コーヒーの味を安定させることができるのです。例えば、ネルに2杯分のコーヒー豆を入れた時と3杯分のコーヒー豆を入れた時とでは嵩(かさ)が違ってきますよね。もちろん3杯分入れた時のほうが嵩がある。ということは、湯がコーヒー粉の中を通過する時間が長いと言うことになります。この時間が長ければ長いほど、豆の味わいを余すところなく引き出すことができるのです。ですから私は、この法則をみなさんにおすすめしたいのです」。

使用するコーヒー豆は、専用スプーンすりきり1杯分で10g。ここでは抽出するコーヒーを1杯120mlと設定するが、湯を計量する必要はない。ネルでコーヒーを淹れる場合、サーバーに抽出されたコーヒーをためていくのだが、サーバーには1杯分、2杯分といった目盛りが書いてあるので、その目盛りまで湯を注いでいけばよい。

これで準備万端。ここからは実際の抽出手順を解説する。

材料(3人分=抽出量360ml):コーヒー豆(粉末) 専用スプーンすりきり4杯(40g) / 湯 適量(80℃)

作り方

1.抽出したコーヒーが冷めないよう、使用する器具にお湯を注ぎ、温めておく。コーヒーカップも同様。
2.ネルにスプーン4杯分のコーヒー豆を入れる。
3.まずは少量の湯を注ぎ、コーヒー豆を蒸らす。
4.豆を蒸らしたら、いよいよ本抽出。ゆっくりと「の」の字を書くように、湯を注いでいく。
5.湯を注ぎ続けていった状態。
6.カップに入れていた湯を捨て、5のコーヒーを注ぐ。
7.ネルドリップコーヒーの完成。

経験者ほど陥りやすい失敗とは

抽出時の注意点としてはまず、手順3の"蒸らし"が挙げられる。ペーパードリップをしたことがある方の場合、蒸らしといえば「ああ、あの作業ね」とすぐにお分かりいただけると思う。しかし、そういった方ほど陥りやすい失敗例があるのだ。

コーヒー豆は、蒸らすことでエキス分を引き出しやすくなる。そのため、コーヒー抽出時には蒸らし作業が必要となるわけだが、「ポトポトとネルからコーヒーが出てきてしまってはいけない」と思い、ほんの少量ずつ、水滴をたらすように湯を注ぐ方もいるのではないだろうか。しかし、これでは豆全体を蒸らすことができない。まずは、豆にまんべんなく湯をいきわたらせることを目標としよう。ネルの先から抽出液が落ち始めても、あまり気にしないことが大切である。

2つ目に注意すべき点としては本抽出。湯を注ぐ時、素早く「の」を書こうと思ってはいけない。外側になるほどゆっくりと文字を書いていくのがポイント。かといって、粉にあたった時、湯がはじけてしまうような注ぎ方もNG。こうなる原因は、湯を注ぐポットを高い位置で構えている点にある。

湯を注ぐ際は、コーヒーの粉に湯が突き刺さるようにするのが正解。底のほうにあるコーヒー豆にも湯を届けることで、ネルの中で縦の対流が起こり、まんべんなく抽出ができる。前述のような湯の注ぎ方だと、上面ばかり抽出が進み、出がらしのような味になってしまう。

緊張してポタポタと湯を注いではいけない

これだけの知識があれば、家庭でもおいしいネルドリップが楽しめるだろう。しかし「まだまだ心配……」という方のために、鈴木さんから教えていただいたちょっとしたポイントを最後にお教えしよう。

「あとは、おいしいコーヒーを淹れようという思いだけです。カツオや昆布からダシをとるような感覚で、コーヒー豆から『旨い成分を全部吸い出してやろう』という気持ちで抽出してください」。

写真:キミヒロ