サグラダ・ファミリアはいつも修復中。いったい総額はいくらになるのか…

アントニ・ガウディが設計し、1882年に着工され、建設中のサグラダ・ファミリアはスペインのバルセロナにある世界遺産として有名な場所である。建設当初から建設資金は寄付やお布施のみで賄われているということだが、今までどのくらいお金がかかっているのかはわからない。私の目から見たところ、とりたてて急いで建設しているようにも思えないし、すでに100年以上経った部分の修復作業を同時にやっているわけだから、まだまだお金はかかりそうだ。

このような建物や生産設備など、形のあるものを購入して投資効果が上がるものはまだわかりやすいが、IT投資は他の投資と同様にかなり大きい額にもかかわらず、見えにくい。以前述べたように、一般的に、投資を含めたITにかかる費用は、売上高の数パーセントにもなるので、経営者のITに関する一番の関心事は、「投資に見合った効果が出ているか」ということになる。簡単に言うと、ITに使った金額とその効果を比べて、IT投資の妥当性を判断するということなのだが、IT投資とその効果を比較することは意外と困難である。

どんな企業においても、投資評価の基準があり、ROI(Return on Investment)、NPV (Net Present Value)や回収年月が使われているだろう。通常、IT投資の評価でも、他の投資と同様にこれらの基準を使うのだが、どうしても違和感が出てしまう。そもそも近年ITが社会のインフラとなり、電話や電気や水道のようにライフラインとして欠かせないものであるから、IT投資が直接的に売り上げに貢献できるのであればともかくとしても、「これだけの投資で直接このくらい儲かる」という因果関係は、不明瞭なことが少なくない。さらにいうとITは単なるツールであるから、道具を正しく使う体制、制度、文化などがなければ、何の役にも立たない。つまり業務の改革/改善とセットで効果が出る性質のものであるために、IT関係の費用だけで簡単に評価ができないという事情がある。

というものの、投資は投資であり、金額としてはきちんと見えるはずである。ところが、これを確定するのも意外と困難である。

IT関係の投資が正しく計算されるということは、何をどうしたいのか、それをどう実装していくのか、こういったことがきっちりわかっていて、かつ、そこに投入する人員、増強するコンピュータリソースなどが正しく見積もれている場合に限られる。

まだ構想段階で、「こんなことをやりたいが、概算でいくらかかるのか?」とIT組織の人間に聞いて、無理矢理に答えが出る場合があるかもしれないが、当然ながら「"当たるも八卦、当たらぬも八卦"、度胸で勝負だ!」の数値と思ったほうがよい。ましてや、この数値をキャップにした最大投資額と思い込まないほうがよい。何をするかも決まっていない条件で正しい見積もりができるはずもないからだ。「リフレッシュするために旅に出るが、いくらくらいかかるか?」と聞いて、正確に答えられないのと同じである。どこに行くのか、何人で行くのか、いつ行くのか、何で行くのか、どんなことをしたいのか、まったくわからないで答えた数値は当てずっぽうに決まっている。

では決めればよいじゃないか、ということになるだろうが、見積もりの精度を高くするためには、要件定義や基本設計という、時間も金もかかるプロセスが必要になる。つまり投資を決めるためには投資が必要ということだ。これなしで、「いつまでたっても正確な見積もりができない」とか、「出てきた金額が高すぎる」とばかり責めるのはまずい。このプロセスを忘れている人も多い。

投資は見えにくいのはわかったが、これと比較するための効果を金額で換算するのも容易ではない。たとえば「お客様の満足度が上がる」ということでいくら儲かるのか、「業務品質が上がってミスがない」ことがいくら原価低減するのか、これらを具体的に示さなければならない。

もしも金額どうしで比較できなければ、「10億の投資で、品質アップ10%、納期短縮10%」という表現で投資対効果を示してもよいが、たとえば、自分にとっての価値が高いものは何か?という議論において「ゴジラ vs. 生け花は、生け花の勝ち」という異種格闘技の解を出すことと似てしまう。こういう比較では、経営者でも判断に苦しむだろう。

効果を考えるときは、たとえば顧客の満足度アップという定性的な効果であっても、これを数値化したもの(KPI: Key Performance Indicator)を出すのが適切だろう。さらにこの数値を金額換算すれば、やっと投資対効果が比較できるようになる。取らぬ狸の皮算用でもいいから、比較できる数値にする努力を惜しんではならない。

ナスカの地上絵を見に、ペルーのイカ空港を訪れた人もいるだろう。消えかかっている地上絵は巨大で、観光客のほとんどが、飛行機から地上絵を鑑賞するわけだから、比較的たくさんのフライトがある空港だ。サグラダ・ファミリアと比較するのも変であるが、ここの管制塔はものすごくあっさりしており、(見た目で判断してはいけないが)パタパタと作られ、いかにも金がかかっていないという感じだ。もちろん管制塔の機能は果たしているから、うらやましいことに投資対効果は高いだろう。

IT投資が経営者にとって"胡散臭く"見えるのは、その投資効果が不明瞭なことが多いから。びっくりするような金額を見せられて、あげく、形に残るモノが何もない、という場合もある。「具体的に何ができるんだ!」と詰問されても、答えに窮することがないようにしたいものだが…

(イラスト ひのみえ)