カーナビOSにWindows

クルマのインフォテインメントを支えるカーナビあるいはカーコンピュータの基本となるOSとして、「Windows Automotive」がここ1~2年急速に広まってきている。1台20~30万もする日本の高級なカーナビ装置とは違い、4~5万円程度の安価なPND(パーソナルナビゲーションデバイス)が世界的に普及してきたからだ。国内でも従来のITRONやLinuxに代わってWindows AutomotiveをPNDではなく高級なカーナビにも使うメーカーも増えてきた。ユーザーインタフェースを改善してきたことが大きいという。

Windows Automotiveの強みは、ミドルウェアがしっかりしており、Linuxなどと比べ、開発が楽になるからである。PNDは、Windows Automotiveの採用なしには4~5万円という安い価格で売るデバイスとしては作れない。しかもOSだけではなく、その周りにユーザーインタフェース開発キットも搭載されているため、少ない人数で機能を追加できる。

これまでMicrosoftは、日本市場で急伸してきたWindows Automotiveとは別に、欧米の自動車メーカー向けに「Microsoft Auto」というOSを販売していた。このほど、この2つのOSを統合させていく方針を打ち出した。共にOSだけの機能ではなく、ユーザーインタフェースなどを含む統合的なプラットフォームという位置づけである。Windows Automotiveには、車載用ユーザーインタフェース開発ツールや信頼性解析ツール、グラフィックスモデルなども搭載している。一方のMicrosoft AutoはイタリアのFiatと米Ford向けに専用に開発されたプラットフォームで、やはりOSに加えiPodなどの音楽プレーヤーを接続できるメディア接続機能、Bluetoothのハンズフリー機能、音声認識・音声操作、デバイスマネージャーを搭載している。

現在のMicrosoftのカーナビ用プラットフォーム

統合へのロードマップ

2つのOSを統合した新プラットフォーム

この二つのプラットフォームを統合した新しいプラットフォームを同社は、「Motegi」というコード名で呼んでいる。Motegiは2009年の9月に米国でリリースする予定だが、その時は別の正式名称で呼ばれるようだ。

Motegiプラットフォームには、基本OSのWindows Embedded CE 7.0に加え、HMI(ヒューマンマシンインタフェース)開発キットや、高速起動とエラー復帰の最適化を行うReady Guard機能などが加わる。同じプロセッサコアを並列動作させるSMP(対称的なマルチプロセッシング処理)のサポートやIE7に相当するブラウザなどはOS上に載る。

Motegiの基本構造

HMI開発キットは、2008年6月に発売されたWindows Automotive 5.5に搭載されているAUIF(オートモーティブ・ユーザーインタフェース)をベースとしているが、AUIF自体は製品化しない。このAUIFをMicrosoft本社が開発しているユーザーインタフェース「Silverlight」に統合していく予定だ。このAUIFには豊富なグラフィカルユーザーインタフェースが搭載されており、カーナビのメニュー画面やサブメニュー画面、地図などをグラフィカルに表示できる。カーナビの最初のメニュー画面でVistaのようなグラフィックなアイコンや、次々と動いて出てくるようなアイコンを持つ画面を作り出すことができる。

一方、Fordのカーナビシステム「Sync」やFiatの「Blue&Me」に搭載され始めたMicrosoft Auto 3.0には、Bluetooth 2.0 + EDR仕様のソフトウェアスタックを含み、Bluetooth搭載電話をハンズフリーで話ができる機能を持つ。ただし、英CSRや米BroadcomなどのBluetoothチップの多くがソフトウェアスタックも含んでいるため、このチップを使う場合にはMicrosoftのこのソフトウェアスタックは使わなくて済む。しかし、ソフトウェアスタックを搭載していない安価なBluetoothチップだともっと安価になる可能性があるという。また、このMicrosoft Autoに使える携帯電話はGSM対応機に限られるが、日本向け仕様にはNTTドコモやソフトバンクモバイル、au方式に対応できるようにする予定だとしている。

Microsoft Autoのリファレンスデザインキットは米Freescale Semiconductorのi.MX31プロセッサを用いて共同開発した。FordにしてもFiatにしてもそれぞれSyncやBlue&Meが搭載されているクルマは搭載されていないクルマよりも2倍以上の売れ行きだという結果を報告している。

Motegiに搭載されるReady Guard機能には、起動を高速化するための機能がついている。OSの機動を高速化するために、疑似的な小さなOSを新たに設け、まずこのOSを立ち上げ(初期のロードプログラムが700KB程度だと数十msで起動)、その後メインのOSを立ち上げる。擬似OSからメインOSへの切り替えは10μs以内。メインのOSは身軽になるためこの後、例えばオーディオ再生まで2秒以内で起動する。全体的な起動時間はこのようにして短縮した。

また、Ready Guard機能には、誤動作エラーからの復帰時間を短くする工夫も織り込まれている。従来だとエラーが起きるとOS全体をリスタートしてしまっていたため、復帰に時間がかかっていた。今回のエラー復帰機能ではいくつかのエラー検出センサを使ってエラーを検出した後、エラーステータスを解析し、メインOSをリブートするか、システムをリセットするか、プロセスをリセットするか、といった判断を行う。部分的にリブートするだけで済めば復帰時間が軽減されるというわけだ。信頼性のレベルが異なるソフトウェアが共存するシステムのなかで、エラーに応じて復帰方法を変え、それぞれのソフトに対処する。

この新しいプラットフォームMotegiの日本国内向けのリリース時期は明らかにしていない。