企業ITのトレンドを表す言葉としてバズワードのように登場した「ビッグデータ」だが、最近は耳目に慣れた感がある。言葉の定義には諸説あるものの、かつて「情報爆発」などと呼ばれていた「デジタルデータ量の爆発的な増加」という現象に新たなラベルが付加されたことで、そこで検討すべき課題も次のフェーズへと進みつつあるようだ。

ビッグデータの特質はよく「3つのV」で表される。1つ目のVは「Volume」で、データの「量的な増加」を意味する。ビジネスとITが不可分となっているなか、日々の業務の中で生み出されるデータの量は指数関数的に増え続け、企業が持つコンピュータの処理能力を超えてしまっている。2つ目のVは「Variety」で、これは「種類の多様化」を表す。基幹系アプリケーションで扱われる定型データに加え、ビジネスでは文書、画像、動画、音声などのいわゆる非定型データも数多く生み出されるようになっている。3つ目のVは「Velocity」。これは「頻度」や「速さ」を意味し、データが生み出され、処理されるスピードが加速していることを表している。

「情報爆発」として提起された「増え続けるデータをいかに管理していくべきか」という課題は、ビッグデータのフェーズに進むことによって、「データをいかに迅速に情報へと変え、ビジネスにおける価値を生み出すか」という視点から解決を促すものとなっている。

増え続けるデータを「情報」に変え価値を生むには

「データ活用」と聞いて、「ビジネスインテリジェンス」や「ビジネスアナリティクス」といった分野を真っ先に思い浮かべる人も多いだろう。業務データの中から必要なデータを取り出して整理し、分析を行い、その結果を次のアクションを起こすための参考にするといったサイクルで進められるこれらの分野も、データ活用に有効な方法の1つである。

しかし、ビッグデータのフェーズでは、「データ活用」も、新たな段階へと進むことになる。それは、分析に利用するデータの「粒度の細かさ」「関連するデータの組み合わせ」、そして「より高いリアルタイム性」といった要素に由来するものだ。

これまでよりも大量のデータを従来かかっていた時間の何百分の一といった短いタイムスパンで分析し、より短いサイクルで次のアクションへと生かしていくことができれば、それは企業の競争力向上のための強力な武器となる。データの量が増え、質も変わっている一方で、それを処理するコンピュータシステムのイン・メモリ技術や並列処理によって、高速処理の環境が急速に整備されてきている。また、処理結果を必要な人にわかりやすい形で提示する際は、データビジュアライズの技術や近年普及が進んでいるスマートフォンやタブレットといったデバイスも活用できる。これらによって、従来のスペックや環境では不可能だった「データ活用」を実現する下地は整いつつある。

さらに一歩活用が進めば「データ同士の関連性」という要素も重要になってくる。企業内で生み出されるデータは、文書や画像、映像、音声といった非定型データの割合が急速に増えている。これらを基幹システムが生み出すデータと切り分けて考えるのではなく、組み合わせて分析や処理の視点を加えることで、新たな知見が得られる可能性が高まっているのだ。

ビッグデータの特質として、3つのV「Volume」「Variety」「Velocity」に加え、データの「Relevance(関連性)」も重要

例えば、顧客とやり取りしたメールの文面や見積書、インターネット経由で収集できる消費者からのアクション、コールセンターの応答記録といったものの中に、他のデータと組み合わせることで重要な知見をもたらすものが眠ってはいないだろうか。また、多くの設備を所有する業態のビジネスであれば、その設備に設置されたセンサ類から送られてくる情報にこれまでとは違う活用法が考えられないだろうか。さらに企業の外に目を向ければ、ネット上のSNSやツイッター、ブログといったメディアで間断なく情報が流れ続けている。その中に、自社のビジネスにとって、ヒントとなるものが含まれていないだろうか。

高精度かつ迅速な経営判断を支援するビッグデータ

データを蓄積するだけでなく、適切なサイクルで分析し、人がそれを活用するという視点を持つことは、経営者や現場担当者の迅速な意思決定を助ける。そこで初めて、ビッグデータはビジネス上の価値を生み出す資源となる。

経営においてアジリティが必須となっている昨今、迅速かつ的確な意思決定が企業競争力として強力な武器となりうることは言うまでもないだろう。為替変動、グローバル化など、変化へのいち早い対応が求められている国内企業が市場を勝ち抜くために、ビッグデータは大きな力となるわけだ。

ただし、データをただやみくもに蓄積しただけでは、何も生まれない。それどころか、データ蓄積のためにコストがかかるだけである。そこから価値を生み出すには、企業としての戦略と、それに沿った仮説、検証のための分析が必要になることは言うまでもない。こうしたことを立案し、ITを使って実行できるスキルの確保もビッグデータのフェーズにおいては、企業にとって重要な課題となるはずだ。

技術の進歩によって「これまではできなかった、大量のデータ処理や複雑な分析が、驚くほどのスピードで可能になった」とはいうものの、技術自体がコモディティ化してしまえば、それは他社との差別化にはならない。むしろ、価値を生み出す源泉となるのは「企業それぞれが持っているデータ」と「それを活用するアイデア」そして「実行できるスキル」である。今後は、これらの要素が、よりシビアにビジネスの結果に差を生じさせることを、企業の経営者や情報戦略の担当者が意識しなければならないはずだ。

あふれるデータから、いかに迅速に有用な情報を導き出し、リアルタイムな意思決定へとつなげていくか。ビッグデータは、そんなデータ活用に関する「古くて新しい命題」について、企業の真剣な再検討を促すモメンタムともなっている。