練馬区立区民・産業プラザにて「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2016」が開催され、数多くのアニメ関係者が参加した。同フォーラムはペーパーレス作画をテーマにした初の大規模フォーラムとして1年前に発足したもの。今回のACTFでは作画のデジタル化とフローの改革に取り組んだ制作プロダクションから担当者が登壇し、実際の作品事例を通してデジタル作画に関する講演を行った。
監督の石田祐康氏、新井陽次郎氏、デジタル担当・栗崎健太朗氏 |
同社が手がけた作品のカット。本文中に登場する作品のほか、劇場作品『台風のノルダ』やガンホーのTVCMなどが挙げられている(C)studio colorido |
本稿では株式会社スタジオコロリドによる講演「CLIP STUDIO PAINT & STYLOS でのデジタル作画ワークフローの構築について」をレポートする。
本講演に登壇したのは、監督の石田氏、新井氏、デジタル担当・栗崎氏の3名。スタジオコロリドはオリジナルアニメを中心に手がける制作会社で、平均年齢は26歳と若手が中心の現場だ。同社がデジタル作画を導入するきっかけになったのは、2009年に制作された短編アニメーション「フミコの告白」。Youtubeやニコニコ動画で公開された同作品は、そのクオリティの高さが高く評価され、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門など様々な賞を獲得している。
制作陣の中心がデジタルツールの恩恵を受けた世代だったため、現場には紙と鉛筆よりアニメを作りやすいという感覚があったという。また、「絵を描くより映像を作りたい」という石田監督の思いもあった。
その際、ツールとして選んだのは、RETAS STUDIOのStylosと液晶ペンタブレット。FlashやTVPaint、紙、板のペンタブレットなど、様々なツールを検討した結果の選択だった。また、仕上げソフト「Paint Man」との連携も強い。「旧式だけど、セルアニメを純粋に作るならRETAS STUDIOがよくできている。」(石田監督)
「フミコの告白」の制作後、スタジオコロリドは「陽なたのアオシグレ」で本格的に活動をスタート。「フミコの告白」で培った手法により商業劇場作品に挑むことになった。この時点ではほぼ全員がデジタル作画未経験だったため、一旦は紙作画でスタートし、後にデジタルに移行したという。
デジタルに移行した理由はアクションとCG背景カット満載のDパート。これならデジタルでやった方がいいのではという意見が飛び出し、紙出身のアニメーターにも優しいStylosを導入した。結果的に同作品は紙100カット、デジタル100カットの200カットで完成。自社内で完結した小規模制作で作りきった経験は大きかった。
その後もデジタル作画を続けるスタジオコロリドだが、一方で「台風のノルダ」以降はデジタル作画も課題も見えてきたという。というのも、長尺になるとどうしても他社との連携が必要不可欠であり、その際のルール決めが問題だったのだ。
Stylosでのみ見ることができるデジタルタイムシートでは、紙で制作するアニメーターや撮影担当とは連携がとれない。そこで、栗崎氏は外部との連携のためにスキャンしたアナログのタイムシートを入れたカットフォルダを作成。「台風のノルダ」以降以後もそのやり方で制作を続けているという。
CLIP STUDIO PAINTで描かれた「台風のノルダ」レイアウト画(C)studio colorido |
同社が他社連携のために用意している、アナログのタイムシート入りのカットフォルダ(C)studio colorido |
講演の後半は、実際のワークフローが実演された。中でも注目はコンテから演出作監までCLIP STUDIO PAINTを使用していること。同ソフトを選んだ最大の理由は描き味で、デジタル作画といえども「紙の感覚で描きたい」(新井氏)のだという。
社内ルールをマニュアル化しておくこともスムーズに進行するためのポイントの一つだ。カットフォルダの用紙設定の変更方法や、原画トレスの方法など、制作時の細かい部分まですべてわかりやすくマニュアルにまとめている。興味のある人に直接配布するというやり方もとっている。
スタジオコロリドのこれからの目標は、より長尺の作品制作だという。そして、それを完全なフルデジタル化で制作できるかが次なる挑戦だ。もしデジタル作画主体で今後も制作を進めていくなら、他社と共有できるソフト選びやCLIP STUDIO PAINTを使った連携なども重要になってくる。Stylosの製造元のセルシスはCLIP STUDIO PAINTの開発がメインになっているため、今後同ソフトに追加されるアニメ機能を使って補うという。
セルアニメを中心としながらも、様々な手法にも挑戦したいと意気込む。制作会社である以上、継続的な作品作りは必須だが、生産性を維持しながらも表現の挑戦をやめないことがスタジオコロリドの流儀だ。
(C)studio colorido