第5章では、EMS(イミュニティ)試験について説明していきたい。イミュニティ試験は「製品に想定される電磁環境における耐性を評価すること」を目的としている。試験は定められた手順、レベルで電磁妨害を与え、試験対象機器の動作を確認する。主な試験項目には、静電気イミュニティ試験、放射電磁界イミュニティ試験、電気的ファースト・トランジェント/バーストイミュニティ試験、サージイミュニティ試験、伝導性イミュニティ試験、電源周波数電磁界イミュニティ試験、電圧ディップ、一時遮断イミュニティ試験がある。

多くの国で古くから法的な規制が行なわれているエミッション(機器から発生する電磁波ノイズ)とは違い、イミュニティ(電磁波ノイズへの耐性)に関しては製品の品質の問題であるとの考えに基づき、アメリカなど法律で規制していない国もある。一方、欧州においては、EMC 指令の強制化と共に、イミュニティに関してもエミッションと同等の規制が行われている。そのため、仕向地によってイミュニティ試験が要求されるかどうか確認しておく必要があることも、ぜひ念頭に入れていただきたい。 それでは、各試験の概要を紹介していこう。

静電気イミュニティ試験

帯電した人体などが電気・電子機器などの導電性の物体に接触し、あるいは充分に接近すると、激しい放電が発生する場合がある。この現象は ESD (Electro-static discharge; 静電気放電) と呼ばれ、電気・電子機器の誤動作や損傷などの問題を引き起こすことがある。試験はこのような人体やその他の帯電した物体から試験対象機器(EUT)への直接の、あるいはEUTの近傍で発生する静電気放電をシミュレートし、静電気を受けた時のEUTの性能を評価する。機器の使用に際して人の手が接近する可能性がある全ての箇所が評価の対象となる。意外なことかもしれないが、人体から生じる静電気は電子機器に与える影響がとても大きい。エネルギーとしてはそれほど大きくはないものの、人がバチッっと痛みを感じられる静電気放電では、10kV 以上となる場合も多く見受けられる。静電気イミュニティ試験では、試験レベルが接触放電で4kV、気中放電で8kV と決められており、試験中のEUTの機能損失は認められるが、データの損失にいたるような劣化は認められない。

・接触放電
導電性の部分(金属部分など)に対して行われる。装置の近傍で発生した静電気放電の影響は、装置の近傍のグランドプレーンや垂直結合板への放電によって評価される。

・気中放電
非導電性の部分(樹脂などの筐体)に対しては気中放電試験が適用される。

放射電磁界イミュニティ試験

放射電磁界イミュニティ試験では、試験対象機器が放送局や各種無線機器などから放射される周波数の電磁波に耐性があるかを評価する。試験は電波暗室内で実施され、規格の定める周波数の電磁波をEUTに照射し、その際の動作が正常であるか確認する。周波数範囲は自動車、医療器などの特殊なものを除き、80MHz~1000MHz とされていたが、携帯電話や各種無線機器の普及に伴い1000MHz 以上の帯域における試験も要求されるようになった。対象物に対してすべての面、つまり前後左右、場合によっては上下にも電界を照射する必要がある。試験中は電波暗室に立ち入らず、動作確認用カメラなどを設置し、試験対象機器の動作をチェックするのが一般的である。

電気的ファースト・トランジェント/バーストイミュニティ試験

この試験では、試験対象機器が電源、信号及び制御ポート上で“繰り返しのある高速な過渡電圧(バースト)"を受けた時の性能を評価する。これは、簡単に言えば機器の電源を入れたり切ったり、機器が動作を始めたり終えたりする際に発生するノイズと思ってもらえればよい。試験は断続的に(ただし一定の間隔で)非常に短いノイズをEUTに印加し、EUTはこのようなノイズを受けた際に、誤動作がないかを試される。試験対象となるのは電源やケーブルで、通常、500V~2kVの試験ノイズが印加される。

・電源直接印加試験
EUTの電源に印加する試験。

・クランプ印加試験
結合クランプ(*注1)を使用し、ケーブルに印加する試験。

*注1: 結合クランプとは、イミュニティ試験において、妨害信号を被試験信号線に注入、印加するための試験器具である。印加する信号の種類によって、容量性結合クランプ、電流クランプ、EMクランプがあるが、放射電磁界イミュニティ試験では容量性結合クランプを用いる。

サージイミュニティ試験

サージイミュニティ試験とは、瞬間的に異常に高い電圧を発生させ、対象機器の動作を確認するものである。もっとも身近な例でいえば、落雷などがある。落雷が起きた際に、自然界で大きな電圧・電流が生じることは想像に難くないが、雷に直撃されない場合でも、電力線や屋外配線に大きなノイズが生じ、それに接続されている一般機器にも侵入してくる。そのため、一般の機器でもサージイミュニティ試験は要求される。試験は雷や電源施設からの送電系統の開閉を模擬し、前述のバースト試験とは異なる、瞬間的、かつ、大きな電圧を印加して製品の耐性を確認する。製品が壊れる可能性が高い試験のため、最後に試験することが推奨される。

伝導性イミュニティ試験

伝導性イミュニティ試験は、電源や入出力ケーブルへの妨害ならびに電流による影響を模擬した試験である。試験の目的は、無線信号の干渉がケーブルなどへ結合し伝導ノイズとして試験対象機器に入り込んだ場合の評価をすることなので、無線信号にあたる0.15~80MHz の周波数範囲においてノイズを印加する。通常、妨害信号は、電源ラインには結合/減結合ネットワーク (CDN) (*注2)を用いて、信号ラインにはEMクランプを用いて印加される。動作判定の基準が比較的に厳しく、試験の再現性を保つためには、セットアップを規定に従い細心の注意を払って行う必要があり、試験の中でも難易度が高い。

*注2: 結合/減結合ネットワークは、結合減結合回路網(Coupling Decoupling Network; CDN)とも呼ばれる。対象とする回路に対して、信号を測定または印加するための回路網であり、試験用補助機器などへの信号の流入防ぐ役割を持つ。

電源周波数磁界イミュニティ試験

電源ラインからの50~60Hz の磁界を模擬し、磁界の中に試験対象機器を入れた際の作動を確認する試験である。この試験は、試験対象機器にホール素子、ダイナミックマイク、磁界をセンシングするセンサーなど磁界を検出して動作を行う部品が使用されていた場合のみ適用される。

電圧ディップ、一時遮断イミュニティ試験

電源電圧の一時的な低下や停電の影響を模擬する試験である。試験は、試験対象機器に供給する電源を、所定の時間、所定の割合で低下させることによって行なわれる。短時間の電圧低下(電圧ディップ)に対しては、試験対象機器が動作を継続することが、長時間の電圧低下に対しては電源電圧が正常な範囲に復帰した後に機器が正常な動作を再開することが要求される。これら試験で機器が壊れることはあまりないが、電圧低下・瞬停時に逆起電力が発生する機器や、プリンター装置などの紙詰まりによる破壊などが起こることがあり、注意が必要である。

以上で、主なイミュニティ試験を紹介した。

「ゼロからわかるEMC」の連載も、次回で最終回となる。EMCの近年の動向についてお話ししていきたい。

参考文献:
主要国EMC規制と試験概要 (UL Apex Co.,Ltd)
EMC用語集(第2版) (一般財団法人KEC関西電子工業振興センター)
EMC入門講座 電子機器電磁波妨害の測定評価と規制対応 (山田和謙、池上利寛、佐野秀文)

著者紹介:UL Japan

2003年に設立された、世界的な第三者安全科学機関であるULの日本法人。現在、ULのグローバル・ネットワークを活用し、北米のULマークのみならず、日本の電気用品安全法に基づく安全・EMC認証のSマークをはじめ、欧州、中国市場向けの製品に必要とされる認証マークの適合性評価サービスを提供している。詳細はUL Japanのウェブサイトへ。