理化学研究所(理研)は、重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」を用いて、陽子過剰な新同位元素である「ルビジウム-72(72Rb)」と「ジルコニウム-77(77Zr)」を発見し、核図表において72Rbが天橋立のような構造を作っていることを明らかにしたと発表した。
同成果は、理研仁科加速器研究センター実験装置運転・維持管理室の鈴木宏協力 研究員、櫻井RI物理研究室の西村俊二 先任研究員、櫻井博儀 主任研究員らを中心とする国際共同研究グループによるもの。詳細は米国の科学雑誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載された。
原子核の性質は、陽子数と中性子数の組み合わせで決まり、対相関という機構により、陽子数または中性子数が偶数のときに安定性が増す。これを反映し、原子核を陽子と中性子の数で分類した核図表において、陽子をこれ以上付け加えられない境界である陽子ドリップラインは、陽子数が偶数の核では出っ張り奇数の核では引っ込むような、ギザギザした形をしている。陽子数が37のRb同位体では、38のストロンチウム(Sr)同位体と36のクリプトン(Kr)同位体が作る「岬」に挟まれた「入江」になっている。
今回の研究では、仁科加速器研究センターの超伝導リングサイクロトロン(SRC)を中心とした多段階加速システムにより、キセノン-124(124Xe)ビームを光速の70%まで加速し、厚さ4mmのベリリウム(Be)標的に衝突させ、入射核破砕反応によって新同位元素を含む放射性同位元素(RI)ビームを生成した。超伝導RIビーム生成分離装置およびゼロ度スペクトロメータにおいてRIビームを分離・識別し、72Rbと77Zrを発見した。
特に、72Rbは核図表においてRb同位体の「入江」の入口に位置することから、これまで発見されたことがない天橋立のような構造を作っていることが分かった。今回観測されなかった短寿命非束縛核の73Rbは「入江」の奥にある「ラグーン(潟)」と言える。72Rbは陽子数も中性子数も奇数のため「天橋立」の現れる機構は対相関では説明できず、現在知られていない新しい核構造効果が寄与している可能性が考えられる。
また、同研究は、宇宙における元素合成の1つであるrp過程(高速陽子捕獲過程)を解明する上でも重要だ。rp過程の研究では、途中の72Krが元素合成の進みにくくなる滞留点であるかどうかが争点だった。今回73Rbが観測されなかったことから、72Krが強い滞留点であると分かったという。
今回の成果を受けて研究グループは、今後の展開について、宇宙における元素合成機構の解明につながることが期待できるとした。