東北大学は、同大大学院生命科学研究科の田中良弥氏、山元大輔教授の研究グループが、ショウジョウバエのうち婚姻贈呈を行う一種を用い、光を当てると脳細胞が興奮するようゲノム編集を行い、その雄を用いて光によって婚姻贈呈を誘発することに成功したことを発表した。この研究成果は11月7日、北米神経科学会誌「Journal of Neuroscience」に掲載された。

D. subobscuraの婚姻贈呈行動。矢印が雄によって吐き戻された消化物を示す(出所:東北大Webサイト)

動物界では、雄が雌に求愛する際に、自分の食べたものを口移しで雌に与える婚姻贈呈が知られているが、この行動を生み出す仕組みはこれまで不明であった。遺伝研究に使われてきたキイロショウジョウバエでは、フルートレスという遺伝子が、性行動を生み出す神経回路の大枠を決定している。この種は婚姻贈呈を示さないが、同属のD. subobscuraでは雄による雌への婚姻贈呈が交尾成功に必須である。

そこで研究グループは、D. subobscuraに対してゲノム編集を行い、光を浴びた時に細胞に興奮を引き起こすタンパク質の遺伝子をfru遺伝子の内部に組み込み、さらに蛍光タンパク質も同時に持たせて、興奮を起こした細胞を目で見えるように工夫した。こうして、fru遺伝子の指令によりD. subobscuraの脳内に形作られる神経回路を、光をあてて興奮させたところ、D. subobscuraに固有の婚姻贈呈行動の一部が惹き起こされた。

このことから、D. subobscuraの脳内では、fru遺伝子の働く細胞がキイロショウジョウバエの脳と一部異なっており、その独自の細胞たちが婚姻贈呈を実行すると推察される。