防災科学技術研究所(NIED、以下 防災科研)と科学技術振興機構(JST)は、雷危険度予測手法の研究開発を推進するため、「雷放電経路3次元観測システム」による雷の試験観測を開始したことを発表した。

XバンドMPレーダーと雷放電経路3次元観測システムによる雷雲観測の模式図

野外イベントの主催者や建設現場からは安全確保のため、精密機器工場からは機材や製品の破損被害の防止のため、さらに電力会社、鉄道会社からは停電事故防止とともに復旧活動のためなど、雷予測情報に対するニーズは多い。

今回、防災科研とJSTが試験観測を開始した雷放電経路3次元観測システムは、地面に対する放電である落雷だけでなく雲内や雲間の放電(雲放電)観測にも優れた、Lightning Mapping Array(LMA)による観測システム。

防災科研では、XバンドMPレーダーの観測データから、雷雲の中の上昇気流や電荷の担い手である「あられ」の有無を判断して、雷の発生状況と比較することにより、雷の危険度を評価する手法開発に取り組んでいる。手法をより高度化するには、比較する雷の発生状況として、落雷位置だけでなく雷雲の中の雲放電を含めた雷の放電経路を、見逃すことなく把握する必要があるため、落雷だけでなく雲放電の捕捉率も高い、米国LMA Technologies LLC製のLMAセンサー12台を首都圏に配置予定だとしている。

現在、8台のLMAセンサーを配置しており、埼玉県、東京都、神奈川県にまたがって8月の落雷数が多く、かつ防災科研のCバンドMPレーダーの観測範囲に含まれる領域を主な対象としてLMAセンサーを配置している。設置点は、事前にVHF帯の電波のノイズ調査を行って選定したが、試験観測を通してより適切な配置を検討しているという。

防災科研構内に設置したLMAセンサーの外観。左が全体、右が収納箱に格納された受信装置とバッテリー

LMAにより、落雷位置だけでなく、落雷に先行する場合もある雲放電を含めた雷の放電経路を、なるべく見逃すことなく3次元的に把握できることが明らかとなった。今後は、Xバンドマルチパラメータ(MP)レーダー等のデータとの比較解析により、雷危険度予測手法の研究開発を進め、得られたデータを活用して研究機関や民間企業との共同研究を行い、雷発生メカニズムの解明や危険度予測手法の社会実装を目指すという。

LMAセンサーの配置図

なお、雷放電経路3次元観測システムの優位性を示す事例として、北関東各地で激しい雷雨となった平成29年6月16日の茨城県南部の観測結果と、花火大会が中止された平成29年8月19日の世田谷区周辺の観測結果が公開された。

6月16日の例では当日、大気の状態が不安定で宇都宮等で雹(ひょう)が観測されたほか、北関東各地で激しい雷雨にみまわれた。既存の雷観測結果では、落雷と雲放電の位置が1点ずつ観測されただけであった。落雷の位置はよく一致し、LMAの特長である雲放電の捕捉率が高いことも確認できた。既存の常時観測ではわからない、放電点の高さ情報を含む詳細な3次元分布が得られることが優れている。

一方、8月19日の例では、1時間に発生した雷放電点の位置の分布を単位面積あたりの点数で色分けしてし、世田谷区から川崎市にかけてと埼玉県南東端付近の上空に雷が集中したことがわかった。今後、他の雷観測機器との比較やMPレーダーデータとの比較など詳細な解析を行う予定だという。

なお、これらの時間変化を示した動画については防災科研「気象災害軽減イノベーションセンター」のWebページに掲載されている。