重力波望遠鏡を使って宇宙を観測している、米国と欧州の共同実験チームは2017年10月16日、今年8月に中性子星連星の接近合体で放出されたと考えられる重力波を観測したと発表した。重力波の観測は今回で4例目となるが、これまではブラックホールの合体によるもので、中性子星同士の合体によって放出された重力波が観測されたのは初めてとなる。

また、日本の重力波追跡観測チーム「J-GEM」も、ハワイの「すばる」望遠鏡などを使い、この重力波が生まれたと考えられる重力波源「GW170817」の観測を実施。その結果、鉄よりも重い金やプラチナ、レアアースなどの、重元素が誕生する現場を観測したと発表した。

重力波観測と電磁波観測とを協調させた宇宙観測は「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれ、従来からその実現に期待が集まっていたが、ついにその幕が開いたとともに、早くも大きな成果が生まれた。

中性子星合体の想像図。今回観測された重力波は、このような現象から発生したものと考えられている (C) 国立天文台

米欧の重力波望遠鏡、中性子星連星の合体で放出された重力波を初めて観測

中性子星連星の合体で放出された重力波の観測に成功したのは、米国の重力波望遠鏡「Advanced LIGO」を運用するカリフォルニア工科大学とマサチューセッツ工科大学を中心とするチームと、欧州の重力波望遠鏡「Advanced Virgo」を運用する科学者・研究者からなる、LIGO-Virgo共同実験チーム。同チームは2015年に、Advanced LIGOによって人類初の重力波の直接観測に成功し、レイナー・ワイス氏、バリー・バリッシュ氏、そしてキップ・ソーン氏の3名が代表として、2017年のノーベル物理学賞を受賞している。

LIGO-Virgo共同実験チームは今年8月17日、Advanced LIGOとAdvanced Virgoを使った共同観測中に、これまでに検出したことのない波形の重力波を受信。この重力波源を「GW170817」と名づけた。そして分析の結果、「中性子星」同士の合体によって生み出されたと考えられる波形だったことがわかったという。

中性子星とは、大きな質量の星が超新星として爆発したあとに残る天体のことで、密度がきわめて高く、半径が10km程度という小ささながら太陽ほどの質量をもつ。今回観測された重力波は、2つの中性子星からなる連星が、らせん軌道を描いて接近し、合体融合したときに発せられたものと考えられている。

中性子星同士の合体は、ブラックホール同士の合体と並んで、重力波源のひとつとしてかねてより予想されていた。2015年以来、これまで観測された3例の重力波は、すべてブラックホール合体からによるものと考えられており、中性子星同士の合体による重力波の観測に成功したのは今回が史上初となる。

これまで観測されてきた連星ブラックホールの合体から放出される重力波は1秒以下だったのに比べ、今回捉えられた信号は6分以上も続いたという。さらに信号の解析から、この天体の距離が1億3000万光年であったことも判明した。

この中性子星は合体前に、莫大な重力によって破壊されたと考えられている。重力波信号にはこの破壊の痕跡が残っており、そこからこの天体の構造や、超高密度の原子核物質のふるまいについて知ることができるという。

今回観測された重力波は、この想像図のような2つの中性子星からなる連星が、らせん軌道を描いて接近し、合体融合したときに発せられたものと考えられている (C) 国立天文台

電磁波望遠鏡群による観測も成功

ブラックホール合体の場合とは異なり、中性子星同士が合体するとさまざまな波長の電磁波も放射されるため、可視光やガンマ線、X線や赤外線、電波を使っても、重力波源の観測ができると予想されていた。これにより、どの天体が重力波を放ったかを突き止めることができる上に、そこでなにが起きているかを観測することも可能になる。

LIGO-Virgo共同実験チームは、重力波検出後すぐさま、日本を含む全世界の90を超える研究チームに警報を送り、この日から地上や宇宙にある70か所以上の天文台が、LIGO-Virgoが検出した信号の方向に向けられた。

その結果、重力波検出からおよそ11時間後に、複数の望遠鏡がそれぞれ、この重力波に対応すると思われる重力波源の天体を発見することに成功したという。

従来からある電磁波を使った観測と、重力波望遠鏡による観測とを組み合わせた宇宙観測は「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれ、従来からその実現に期待が集まっていたが、ついにその幕が開いたとともに、早くも大きな成果が生まれたことになる。

国立天文台は「人類は、初めて重力波源からの光を捉えることに成功しました」とコメントしている。

日本の重力波追跡観測チームJ-GEMが撮影した重力波源GW170817。うみへび座の方向にある銀河NGC 4993で発見され、地球からの距離は約1億3000万光年。ハワイのすばる望遠鏡のHSCをはじめ、複数の観測を合成したもの。2017年8月24日-25日の観測では、天体が減光するとともに赤い色を示している(近赤外線で明るく光る)ことがわかる (C) 国立天文台/名古屋大学

重元素の誕生を観測

日本の重力波追跡観測チームJ-GEMは、重力波検出の知らせが届いてから約17時間後に、ハワイのすばる望遠鏡に取り付けられた超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム」(Hyper Suprime-Cam)をはじめ、ニュージーランドら南アフリカ、そして日本国内にある望遠鏡群、さらに国際宇宙ステーションに搭載されている日本の観測装置「MAXI」と「CALET」も使い、広い波長域での観測を実施した。

その結果、すでに報告のあった光赤外対応天体を可視光から近赤外線にかけての広い波長域で明瞭に捉えることができ、明るさの時間変化を追跡することに成功した。またその観測データから、中性子星の合体で重元素が誕生する現場を、直接的に観測できた可能性が高いとしている。

2つの中性子星同士が合体すると、今回のように強い重力波が放射されるとともに、中性子星の一部が高速で宇宙空間に放り出されると考えられている。この放出物には中性子が豊富に含まれるため、鉄などの原子核に中性子が捕獲されて鉄よりも重い原子核が形成される反応「中性子捕獲反応」のうち、素早く進む反応の「rプロセス」(r過程)と呼ばれる反応が起こる。そしてこのrプロセスでは、金やプラチナ、レアアースなどの元素が合成されることが予想されていた。

rプロセスで作られた元素は放射性崩壊を起こすため、そのエネルギーが電磁波となって放射される、「キロノヴァ」と呼ばれる現象が起こる。そしてキロノヴァは、中性子星同士の合体によって発生すると考えられていた。

国立天文台では2013年から、スーパーコンピューター「アテルイ」を使ったシミュレーションにより、中性子星合体から放射されるキロノヴァのパターンを予測してきた。そして今回観測された重力波天体は、この予測されていたキロノヴァの性質とよく一致していたという。

キロノヴァのシミュレーションを手がけ、今回の観測にも参加した国立天文台の田中雅臣(たなか・まさおみ)助教は、「GW170817の追跡観測を実施しながら、予想していたキロノヴァの性質が実際に見えてきたときは非常に興奮しました」と語っている。

さらに、今回の観測をより詳細に解釈するために新たにシミュレーションを行ったところ、地球質量の1万倍ものrプロセス元素が生成されたことがわかったという。

従来、rプロセス起源の重元素(金やプラチナ、レアアース)は、主に超新星爆発で作られると考えられていたが、研究が進むにつれ、少なくとも通常の超新星爆発ではrプロセスが起こりにくいことが判明。そのため重元素がどこで作られているのかは天文学の大きな問題となっていた。

近年の研究からは、中性子星の合体の際に作り出された可能性が非常に高いことが明らかになっていたが、今回の観測により、実際に中性子星合体でrプロセスが起こっている証拠を観測的に捉えられたことでそれが裏づけられたと共に、重元素の起源に迫る大きな一歩になった。国立天文台は「私たちは金の生成現場を見たのかもしれません」とコメントしている。

この研究成果は、10月16日出版予定の日本天文学会欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)に掲載される予定となっている。

また、J-GEMの代表である国立天文台ハワイ観測所長の吉田道利(よしだ・みちとし)教授は、次のように語っている。

「今後、重力波観測チームや世界の他の電磁波観測チームのデータも併せて詳細な研究を進めることによって、いまだに謎の多い中性子星の物理状態やrプロセスについて多くの知見が得られるでしょう。また、日本の大型低温重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)が重力波観測網に加わり、より精度の高い重力波観測が実現することが期待されます。今後さらに重力波観測と電磁波観測が協力したマルチメッセンジャー観測を進めることで、宇宙の重元素の起源に迫りたいと考えています」。

中性子星合体により放出される物質によってキロノヴァが起こる様子の想像図 (C) 国立天文台

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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