岐阜大学は9月20日、回転している空気塊や水塊を、体積を変化させずに回転軸方向に伸縮させたときに保存される物理量である「渦位」に着目し、台風の進路形成メカニズムを解析する方法「渦位部分的逆変換法」を開発したと発表した。

同成果は岐阜大学工学部附属応用気象研究センター長の吉野純 准教授によるもの。2017年7月、土木学会において、東北の太平洋側に上陸した台風10号(2016年)の進路を同手法で解析した論文が採択され、10月に出版予定となっている。

「渦位部分的逆変換法」の解説(出所:岐阜大学ニュースリリース)

現在、台風の進路予報は、観測データと物理法則に基づきコンピュータ計算を行う「数値予報」によって行われているが、台風がなぜその進路をとったのかというメカニズムを説明することはできなかった。

今回の研究では、「渦位」の可逆性原理と呼ばれる、風速ベクトル、高度、温度から渦位へと順変換するだけでなく、その逆に変換することもできる性質に着目。この原理を用いて、台風のある時点の風速、温度、気圧データから、それを6種類の渦位に分解し、台風自身の渦位を除いた台風の進路に影響を与える5種類の渦位が作り出す風速をそれぞれ推定することで、台風の進路形成メカニズムを解析する方法を開発した。これにより、今まで説明することができなかった台風の進路形成のメカニズムを量的に説明することができるとしている。

また、台風の上陸経験のない東北地方から北海道地方を中心とする広い範囲で大雨となり、甚大な被害をもたらした台風10号(台風1610号)を同手法を用いて解析を行った。その結果、寒冷渦以外に下層の積乱雲活動や台風北側の上層高気圧も台風1610号の移動に貢献していたことが解明されたという。

吉野准教授は同成果によって、今後、気象予報士による台風進路の予測精度向上に繋がると期待している。また、今までは、台風から温帯低気圧に移行する判断は気象予報官による主観的判断でなされていたが、同手法を応用することで、数値による客観的な判断基準を提案できるようになり、より信頼度の高い防災情報を提供できる可能性があるとしている。