理化学研究所(理研)は9月5日、ショウジョウバエの脳において、探索行動に関わる「記憶」「運動」「視覚」といったさまざまな情報を区別して伝える並列神経回路を発見したと発表した。

同成果は、理化学研究所脳科学総合研究センター知覚神経回路機構研究チーム 風間北斗チームリーダー、塩崎博史研究員らの研究グループによるもので、9月4日付けの国際科学誌「Nature Neuroscience」オンライン版に掲載された。

動物は、感覚、記憶、自己運動などのさまざまな情報を組み合わせることによって環境を探索する能力をもっている。これは、哺乳類や昆虫を含む多くの動物に共通するが、この能力が脳のどのような情報処理によって実現されているかはわかっていない。これまでの研究では、主に哺乳類を用いて探索行動の仕組みが調べられてきたが、哺乳類の脳は大きく複雑なため、探索行動を担う情報処理を調べることが困難であった。

そこで同研究グループは、小さな脳で巧みに探索を行う体長約3mmのキイロショウジョウバエ(ハエ)の成虫に着目。バーチャルリアリティ(VR)技術とカルシウムイメージング法を組み合わせた実験装置を作製し、バーチャルリアリティ空間を探索するハエの脳内で行われる情報処理の解明を試みた。

まず、ハエの羽ばたきに応じて景色が変化するバーチャルリアリティ技術を使って探索行動を解析した結果、ハエは、いま見ている景色だけでなく、数秒前に見た景色の記憶を使って、次にどこに飛ぶかを決めていることを発見した。

次に、バーチャルリアリティ空間を探索している最中に、ハエの脳の中でどのような活動が生じているかを調べたところ、探索行動に関わると考えられている脳中枢へつながる脳部位において、視覚物体の位置や記憶した物体位置、ハエ自身の運動といった探索に関わるさまざまな情報を表す脳活動が見つかった。さらに、これらの活動が見られた脳部位がどこから入力を受け取り、どこに出力を送るかを解析した結果、記憶と運動の情報が並行して走る、独立した神経回路によって伝達されていることがわかった。

同研究グループは、今後、神経回路を伝わる複数の情報がどのように統合され、行動が生み出されるかを明らかにすることで、動物が効率的に餌や交配相手を見つけ出す仕組みの理解につながることが期待できると説明している。

記憶と運動の情報を伝える細胞群が作る神経回路 (画像提供:理化学研究所)