東京大学(東大)は8月15日、レアアース元素Ceをベースとした超伝導体CeCu2Si2において、長年信じられてきた磁気的なゆらぎに基づく超伝導の機構では説明できない超伝導状態が実現していることを、実験的に明らかにしたと発表した。

同成果は、東京大学大学院新領域創成科学研究科の竹中崇了 大学院生、水上雄太 助教、芝内孝禎 教授らのグループはらの研究グループ、京都大学、英ブリストル大学、仏エコール・ポリテクニーク、独マックスプランク研究所との共同によるもの。詳細は米国の学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

物質を低温まで冷却することで発生する超伝導状態に対して、これに当てはまらない非従来型超伝導状態がある。この発現機構は解明されておらず、より室温に近い転移温度をもつ銅酸化物超伝導体や鉄系超伝導体などの高温超伝導体も存在することから、現代の固体物理学における最重要課題の1つとなっている。

CeCu2Si2は銅酸化物超伝導体や鉄系超伝導体と多くの共通点を示すことから超伝導研究の鍵となる物質と考えられており、組成を変化させた際に磁気秩序相を生ずることから、磁気的なゆらぎを媒介とした超伝導機構が提唱されていた。

超伝導の発現機構を解明するうえで手がかりとなる電子状態の対称性についての研究がCeCu2Si2の発見以降行われており、一般的な見解とは異なる、s波型の対称性であることが明らかにされた。また、一定の条件下では、s波型の中でも、異なる電子集団の間で超伝導ギャップの符号が反転する「s±型」と反転しない「s++型」がある。「s±型」は磁気的なゆらぎに基づく超伝導電子対の形成メカニズムと矛盾しないため、CeCu2Si2の超伝導発現機構に理論的な制約を与えるためには、このs波型のなかでの分類が必要になる。

s波型の対称性のうち、複数の電子軌道が寄与する場合に考えられる「s++型」と「s++型」の電子状態を電子の運動量空間に表したもの(出所:東京大学Webサイト)

今回の研究では、異なる電子集団の間での超伝導ギャップの符号反転の有無を実験的に決定するために、超伝導体に導入した不純物が超伝導電子に与える影響に着目。純良なCeCu2Si2単結晶に電子線を照射することによって試料の内部に磁性を持たない均一な格子欠陥(不純物)を導入したうえで、磁場侵入長の温度依存性を約30mKの極低温まで測定し、同一の試料に対して繰り返し電子線照射を行うことで、試料依存性を排除した上で不純物の効果を系統的に調べた。

その結果、照射量を増やしても、超伝導電子の壊れやすさは不純物にほとんど影響を受けないことが明らかになったいう。超伝導ギャップに符号反転を有するd波型やs±型の超伝導体で、同様に不純物の影響を調べた先行研究と比較すると、符号反転を有するケースでは、理論的に予測される結果と一致するが、CeCu2Si2では、全く異なる電子状態であること、すなわち「s++型」であることを明らかになったとしている。これは、このような今まで考慮されていなかった新奇な超伝導機構が深く関与していることを強く示唆するものだという。

今回の成果について研究グループでは、長年に渡り議論が続いていたCeCu2Si2の超伝導発現機構に証拠を与える発見とし、また、磁気秩序相の近傍では磁気的なゆらぎを媒介とした超伝導が出現する、という定説に再考を促す結果であり、強相関電子系における超伝導発現機構を理解する上で重要な手掛かりとなることが期待されるとコメントしている。