岩石に含まれた状態で地球内部に貯蔵されている水が、これまで考えられていた以上に地球内部の奥深くまで運ばれている可能性がある、と愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)などの研究グループがこのほど発表した。超高温高圧でも安定した状態で水を地球内部のマントル深部へと運ぶことができる新しい結晶構造の「水酸化鉄」を発見した研究成果で、研究論文はこのほど英科学誌ネイチャーに掲載された。研究グループは、大量の水が存在すると推定されながら詳しいことが分かっていない地球深部での水の循環を知る新たな手掛りになると期待している。

図1 地球内部構造と今回の研究から示唆される地球深部への水の輸送(提供・愛媛大学GRC)

写真 超高圧発生装置「レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル」(提供・愛媛大学GRC)

図2 発見された新しいパイライト型水酸化鉄(FeOOH)の結晶構造(提供・愛媛大学GRC) 大(八面体中心の茶)、中(赤)、小(ピンク)の球はそれぞれ鉄原子、酸素原子、水素原子。

地球の構造は表面から中心に向かって地殻、マントル、核(外核と内核)に大別される。地殻の一部である海底を形成する岩板は「海洋プレート」と呼ばれ、プレート運動によってマントルへと沈み込む際、大量の海水を一緒に引き込むと考えられている。研究グループなどによると、このような沈み込み帯では、その場所特有の高温高圧によって海洋プレートの岩石と水が反応して、水を含んだ鉱物「含水鉱物」がたくさんできる。

しかし含水鉱物は、さらにマントルの深くまで運ばれると圧力に耐え切れずに水を放出する「脱水分解」を起こすと考えられていた。例えば、含水鉱物の一種で鉄と水からなる「水酸化鉄」はこれまで、マントルの深さ1,900キロメートル、80万気圧の地点まで沈み込むと、脱水分解を起こすとみられていた。

愛媛大学GRCの西真之(にし まさゆき)助教、桑山靖弘(くわやま やすひろ)助教(現東京大学大学院理学系研究科)、土屋旬(つちや じゅん)准教授、土屋卓久(つちや たく)教授らは、まず、スーパーコンピュータ「京」などを用いて、水酸化鉄の結晶構造の理論計算を行なった。その結果、深さ80万気圧の環境では水酸化鉄は脱水分解するのではなく「パイライト型」と呼ばれる結晶構造に変化する、という解析結果が出た。

この結果を受けて、実際に水酸化鉄にマントル深部に相当する圧力をかける実験を実施したところ、実際にパイライト型の結晶構造になり、その構造中に水の存在を確認した。パイライト型は高密度の構造であることが知られ、今回見つかった水酸化鉄は、これまで知られている含水鉱物の中でも最も高密度な鉱物という。

実験では、パイライト型の結晶構造の水酸化鉄は、140万気圧でも構造を保つことが示された。これらのことから西助教らは、パイライト型の水酸化鉄は140万気圧に相当するマントル最深部の2,900キロメートルでも脱水分解せずに水を運んでいる可能性が高い、としている。この研究成果は、含水鉱物は1,900キロメートルで脱水分解するという従来の学説を覆すものとなる。

研究グループなどによると、地球の表層の7割は海に覆われているが、地球の内部に貯蔵できる水の質量は海水の数倍に及ぶと推定されている。このため水は地球表層だけでなく、地球の内部でも重要な成分の一つで地球進化に大きな影響を及ぼしていると考えられている。今回の研究で明らかになった新構造の水酸化鉄は、マントルと核の境界の高圧力下でも存在する可能性が高く、地球深部での水循環やマントルと核との境界でのマントルの上昇など地球深部の運動などに大きな影響を及ぼしていると考えられるという。

実験には、超高圧発生装置「レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル」と、大型放射光施設「Spring-8(すぷりんぐえいと)」の放射光X線などが用いられた。

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