複数の事業会社から構成されるホールディングス制は、事業単位の意思決定の迅速化やリスク分散、コスト意識の浸透などさまざまな面でメリットを生み出します。国内だけでなく海外でも事業を展開する企業の場合、こうしたメリットだけでなく、事業会社間の情報共有の難しさや経営指標の分散化といった課題をしっかりと理解したうえで経営戦略を練る必要があるでしょう。

2008年に日清食品グループがホールディングス制に移行して誕生した日清食品ホールディングス株式会社は、2016年、「グローバルカンパニーとしての評価獲得」を目指すべく「中期経営計画2020」を策定。前中期経営計画よりも広範囲かつ高い経営目標を掲げたことで、全事業会社の経営指標、数字の標準化、可視化をより高いレベルで要求されるようになったのです。この課題の解消に向けた取り組みの1つとして同社が選択したのは、Power BIによる経営ダッシュボードの構築でした。

プロファイル

日清食品ホールディングス株式会社
2008年、ホールディングス制に移行することで、国内および米州、中国、アジア、EMEAの海外4地域をサポートする体制を築きました。"「食」の可能性を追求し、夢のあるおいしさを創造していく""グローバルに「食」の楽しみや喜びを提供することで、社会や地球に貢献する"ことを理念として、国内事業の収益力強化や海外事業の成長加速を進めています。

導入の背景とねらい
グローバルカンパニーとして成長するために、事業会社すべての経営数字の標準化と可視化が不可欠だった

日清食品ホールディングス株式会社 執行役員 CIO グループ情報責任者 喜多羅 滋夫氏

「EARTH FOOD CREATOR」をグループ理念に掲げ、全世界でフードビジネスを展開している日清食品ホールディングス株式会社(以下、日清食品ホールディングス)。同社は2013年に「中期経営計画2015」を策定して以降、グローバルカンパニーとしての地位を確固たるものとすべく海外展開を強化。同計画の結果、日清食品ホールディングスは、2015年度の決算で海外事業の売上高を2012年度比で約189%も伸長させるなど、大きな成長を遂げています。

しかし、複数の事業会社を抱え、事業のグローバル化、製造、販売する商品の多様化も加速する中で競争力をよりいっそう高めていくには、強固なIT基盤を築くことが求められます。日清食品ホールディングス株式会社 執行役員 CIO グループ情報責任者 喜多羅 滋夫氏は、『グローバル化推進フェーズ』ともいえる2013~2015年度の期間でIT環境の整備も進めてきたと説明します。

「グローバルでの競争力を強化するには、各国にある情報の集約化が欠かせません。そこで、従来ホストコンピュータで稼働していた基幹システムをSAPへ移行するなどオープン化を進めました。各国の事業会社が単独で経営を行うのではなく、情報を標準化することによって国々で発生している事項を随時共有することを目指したのです。こうした横断的な経営戦略を進めるには、事業会社間のコミュニケーションの円滑化が欠かせません。そのため、国内外の事業会社に対してOffice 365の導入を進めており、2017年5月現在で国内11法人、海外9法人への展開が完了しています。全世界で幅広く用いられているマイクロソフト製品でツールの標準化も行いました。これらの取り組みによって、グローバル化の推進面で一定の成果を生み出すことができました」(喜多羅氏)。

2015年度までの取り組みで、⽇清⾷品グループのグローバルカンパニー化は⼤きく躍進したと⾔えるでしょう。これに続き同社が策定したのが、「中期経営計画2020」です。同計画ではグローバルカンパニー化について、これまでの"推進"から"評価獲得"へ移⾏するフェーズと設定。海外営業利益⽐率30%、ROE(自己資本に対する純利益の割合)8%を目標に掲げた取り組みを開始します。

ROEという指標が示すとおり、同計画では従来以上に「収益性」が重視されました。当然ながら、この目標の達成には、全世界にある事業会社の経営力向上が求められます。 そこで同社の経営企画部が取り組んだのは、50項目にもなる全事業会社統一の経営指標の設定と、同指標の全社でのモニタリングでした。しかし、そのためには経営情報を可視化する方法を抜本的に見直す必要があったといいます。

日清食品ホールディングス株式会社 経営企画部 部長 吉田 洋一氏

付加価値の高い「食」を消費者へ提供し続けるには、市場ニーズ、販売食数といったさまざまな情報の分析と、そうした情報に基づいた根拠ある意志決定が行われなければなりません。しかし、これまで同社の経営会議では、担当者がExcelで手集計したデータを元に作成したPowerPoint形式のファイルをベースに議論がされていました。こうした方法は準備工数がかかるだけでなく、作成者の意図したポイントに焦点が当てられるため、必然的にそのポイントが議論の中心となる傾向が見られました。さらに、事業会社の独立性を重視するあまり、各社の報告フォーマットを統一することができず、意志決定者が事業会社の情報を横断的に比較、分析することが容易でなかった点も問題でした。

日清食品ホールディングス株式会社 経営企画部 部長 吉田 洋一氏はこの点について、次のように補足します。

「当社では四半期に一度、主要な事業会社がホールディングスの経営層に対して業績を報告し、同時に今後の戦略も発表する『戦略プレゼン』を実施しています。こうした重要な会議であっても、扱われる数字が事業会社によって単独だったり連結だったりと異なることがありました。会議の本義である『経営課題の議論』を行うためには、明確な共通言語を持つことが緊急の要件だったのです」(吉田氏)。

全事業会社統一の経営指標を設定し、そこへの到達状況を随時モニタリングする。中期経営計画2020を前進させるためのこの取り組みを遂行するには、それぞれの事業会社、部門が用意するデータを標準化し、それをリアルタイムに可視化、視覚化することが不可欠でした。こうした背景から、日清食品ホールディングスは中期経営計画2020策定後の2016年8月より、新しい経営ダッシュボードの導入を検討します。

システム概要と導入の経緯、構築
わずか2週間でプロトタイプ構築、Office 365との親和性を評価し、Power BIを選択

日清食品ホールディングス株式会社 情報企画部 次長 中野 啓太氏

この検討で特に重視されたのは、サービスインまでのスピードです。先に挙げた課題からBIを利用した経営情報の可視化は不可欠であり、早期での実装が、中期経営計画2020で掲げた目標の達成に近づくことを意味するのです。日清食品ホールディングス株式会社 情報企画部 次長 中野 啓太氏は、サービスインまでのスピードに加えて教育や展開完了までの時間も最小化することを考えた場合、既に運用していたSharePointとの連携が不可欠だったと語ります。

「BIツールの効果を早期に生み出すには、まずユーザーに使いこなしてもらう必要があります。そのため、ユーザー教育や展開までの時間を最小化せねばなりませんでした。当社ではOffice 365のSharePoint Onlineを使用して全事業会社共通のイントラネットを構築しています。新しい経営ダッシュボードをこのイントラネットに統合することができれば、必要なユーザーに即座に展開することが可能ですし、毎日アクセスするイントラネットに導線があることで利用を促すこともできます。さらに、Macやスマートフォン、タブレットからイントラネットを利用しているユーザーもいますので、デバイス フリーであることを必須条件とし、そのもとでBI製品の選定を進めました」(中野氏)。

ところで、オンプレミスでシステムを構築する場合、ハードウェアの調達や環境のサイジングだけでも数か月を要します。リードタイムを最小化すべく、日清食品グループではすばやく利用可能なクラウド サービスの中から比較検討を実施。その結果選定されたのが、マイクロソフトの提供するPower BIです。

同社がPower BIを選定した主な理由としては、サーバーレスによる構築スピードと SharePoint との連携性、グローバル展開に適していることが挙げられます。日清食品ホールディングス株式会社 経営企画部 係長 斉藤 圭氏は、これらに加えて可視化機能の有効性も高く評価したと語ります。

「BIツールとして経営ダッシュボードを構築したとしても、それがユーザーである経営層、管理職層にきちんと活用されなければ意味がありません。大事なことは、意志決定に必要な情報が明確に可視化されること、そしてそれをユーザーに『有用だ』と実感してもらうことです。Power BIは比較検討した製品の中でもグラフィカルな表示能力に優れていました。各社のパフォーマンスをグラフにしトレンド化することで、数字の羅列よりも変化に気付きやすくなります。それだけでなく、画面上で知りたい項目が簡単に見られるよう直感的に操作できるデザインになっているので、自発的に情報を活用し、結果『有用だ』と感じてくれると考えたのです」(斉藤氏)。

こうして正式採用を決定したPower BIは、圧倒的な速度で構築を進めることができたといいます。この点について、日清食品ホールディングス株式会社 経営企画部 係長 萩原 裕朗氏は、次のように説明します。

「高い利便性を持った経営ダッシュボードを構築するために、今回、マイクロソフトだけでなく、BI専業ベンダーである株式会社ジール(以下、ジール)にも相談しました。驚いたのはそこからのスピードです。相談からわずか2週間後には、マイクロソフトとジール合同での POC(概念実証) を実施していただけました。最初の打ち合わせではExcelで集計し加工したデータと可視化のイメージを見せて『このように構築したい』と伝えただけなのですが、それがあっという間に Power BI上で閲覧できる形になっていたのです」(萩原氏)。

日清食品ホールディングス株式会社 経営企画部 係長 斉藤 圭氏

日清食品ホールディングス株式会社 経営企画部 係長 萩原 裕朗氏

このPOCでは、スピードだけでなく構築の容易性についても評価されたといいます。Power BIでは情報ソースとそれを組み立てるロジックさえ整理すれば、システムの専任者でなくとも容易にプログラムを組むことが可能です。日清食品ホールディングスでは、サービスイン後も改良を続けて最適な形としていくイテレーションモデルの採用を予定していました。それを自社だけで、かつ実務担当部門の担当者レベルで高いスピード感のもとに進められるという観点でも、Power BIの採用は同社にとって最適な選択だったのです。

導入の効果
2か月という早期導入を実現。Power BIが自発性を促すことによる経営力向上に期待

株式会社ジール アナリティクスソリューションセンター センター長 瀧澤 祐樹氏

日清食品ホールディングスでは2016年11月より、ジールと共同で開発作業に着手。POCで実感したスピード感のとおり、同社は開発着手からわずか2か月後となる2017年1月から運用を開始しました。

イテレーションモデルである同環境は今後も改良が計画されていますが、サービスインの初期段階でも、利益最大化の指標となる「価値分解図」の各構成要素について過去5年間のトレンド表示が可能になるなど、ユーザーにとって欠かせない情報の可視化に成功しています。 このプロジェクトを支援した株式会社ジール アナリティクスソリューションセンターセンター長 瀧澤 祐樹氏は、BI専業という立場から、Power BIの優位性について次のように説明します。

「BI基盤の構築では、会社が持つさまざまなデータソースを統合する必要があります。一般的にこの作業では専門的な知識、技術を必要としますが、Power BIの場合、GUIで統合の定義をつくるだけで構築することが可能です。今回はまず当社で核となる基礎定義をつくり、日清食品ホールディングス様でそれを調整するという流れでプロジェクトを進行しました。難解なプログラミング言語ではなくGUIをベースに作業を進められるため、ベンダーとお客様とのコミュニケーション ロスも発生せず、円滑にプロジェクトが進行できます。Power BIだったからこそ、これほど早期に開発できたのだと感じています」(瀧澤氏)。

2017年5月現在、日清食品グループでは22事業会社、100名以上のユーザーへPower BIのライセンスを展開しています。同社が期待したとおり、この展開作業はスムーズに進行。直感的に使いこなせる操作性や、各事業会社側で追加作業が発生しない効率的なしくみであることを背景として、テレビ会議を通じた用途説明のみで利用が浸透したといいます。

吉田氏はPower BIの導入で生まれる効果について、展開時に起きたあるできごとを引き合いにして説明します。

「用途説明の際、『業界の動きはどうだろう』『過去3年間と比べよう』と自発的に分析するユーザーの姿を多く見かけました。こうした自らPower BIを使いこなす姿は、まさに同製品に期待したことです。これは競争優位の源泉となるクリティカル コアを事業会社が見つけること、つまり経営力の向上に繋がります。必然的に各事業会社が所有するデータの価値も高まります。加えてそれが全社で標準化された『共通言語』となるわけですから、今後、意志決定の正確さや、各事業会社に向けた指示の迅速性が増すことは間違いないでしょう」(吉田氏)。

さらに喜多羅氏は、こうしたクリティカルコアの発見と議論が、経営会議だけでなく現場から生まれることにも期待していると言葉を紡ぎます。

「現在、ユーザー対象は経営層だけでなく、一部の管理職層にも広げています。現場を動かす管理職層がPCやタブレット、スマートフォンから常時リアルタイムな経営データを参照することで、部門単位の意志決定も正確化、迅速化していくでしょう。Office 365と統合したことにより、ユーザーの拡大は容易に行えます。今後、イテレーション作業に加えてユーザーも拡大していくことで、現場でもビジネスチャンスを明確に捕まえることができる組織づくりを進めていきます」(喜多羅氏)。

今後の展望
事業会社が最善の意思決定をスピーディに下せるよう、経営ダッシュボードを発展させていく

中期経営計画2020で掲げられた目標は、容易に達成できるものではありません。しかし、日清食品ホールディングスが実施したPower BIの導入は、確実な一歩となるでしょう。同社では今後、この経営ダッシュボードを発展させていくことで、グローバルカンパニーとしての評価獲得に向けた取り組みを加速していきます。そこでは「事業会社への強固な支援」が1つのテーマだと、斉藤氏、萩原氏の両名は語ります。

「事業会社がビジネスの最前線に立っており、ホールディングスはあくまでもサポートをする立場です。だからこそ、私たちは事業会社が経営ダッシュボードに求める機能を、ホスピタリティをもって迅速に実装していきたいと考えています。事実、現在は海外事業会社からのリクエストに対応し現地通貨を反映できるようになりましたし、まだまだ進化させていく予定です。国によって状況も随時変化するわけですから、彼らが時間をかけずに有益な情報を参照できるよう、システムを発展させていきます」(斉藤氏)。

「中期経営計画2020で掲げた目標の達成には、『最善の意志決定』を下すこと、そのために必要な作業内容や作業時間を見直し、グループ全体を横断的に最適化していくことが求められます。その結果として生まれた新たなリソースを具体的な施策の実行に割り当てることが成長の鍵となるでしょう。Power BIの導入によって作業時間は半分近く減らすことができました。しかし、現段階ではまだPower BIのポテンシャルを十分に使い切っていないようにも感じています。今後は、ツールを整備するだけでなく、『ツールを活用した課題解決ができる人材』を増やしていくことも求められるでしょう。そのための支援も進める予定です」(萩原氏)。

Power BIで可視化された経営情報(左)。視覚化された情報と優れた利便性によって、ユーザーは直感的にデータ分析を行うことが可能。SharePointのイントラネットと連携(右) することで、経営データを常時意識させることもできる

「EARTH FOOD CREATOR」をグループ理念に掲げる日清食品ホールディングスは、その言葉のとおり地球規模で、人類社会への食を通じた価値創造を目指しています。全事業会社の「共通言語」をPower BIによって整備した日清食品ホールディングス。そこから導き出されるクリティカルコアをいっそう強固なものにすることで、同社はこれからも日々、各国で「食」を通じた可能性を提供してくれることでしょう。

「現在、ユーザー対象は経営層だけでなく、一部の管理職層にも広げています。現場を動かす管理職層がPCやタブレット、スマートフォンから常時リアルタイムな経営データを参照することで、部門単位の意志決定も正確化、迅速化していくでしょう。Office 365と統合したことにより、ユーザーの拡大は容易に行えます。今後、イテレーション作業に加えてユーザーも拡大していくことで、現場でもビジネスチャンスを明確に捕まえることができる組織づくりを進めていきます」

日清食品ホールディングス株式会社
執行役員
CIOグループ情報責任者
喜多羅 滋夫氏

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