京都大学は7月3日、中国の正史「元史」と「明史」に記録されているオーロラと太陽黒点の記録を調査した結果、その分布が年輪の炭素同位体比などから復元される太陽活動の長期傾向と一致したことを発表した。

同成果は、大阪大学博士課程の早川尚志氏、理学研究科博士課程の玉澤春史氏、総合生存学館の磯部洋明准教授らの研究グループによるもの。詳細は、日本天文学会の学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

太陽フレアは時に地球の地磁気へ影響を与え、大規模な場合の被害総額は約2兆ドルに上るとの試算があるほどの自然災害だ。1859年に発生した観測史上最大の太陽嵐「キャリントン・イベント」ではハワイやカリブ海でもオーロラが確認されており、アメリカやヨーロッパの電報システムも被害を受けている。また黒点数と気温の関係など太陽活動が地球の気候に影響を与えていることも分かっており、気候変動の観点からの注目も集まっている。

中国の天文占書「天元玉暦祥異賦」の黒点画像(出所:京大Webサイト/国立公文書館所蔵)

これら数百年に1度しか起きない極端な「宇宙天気」や太陽活動を検討するうえで問題となるのが、近代的な観測データの観測期間不足だ。望遠鏡による黒点観察の開始は17世紀初頭で、最長でも400年程度しか遡ることができない。従来、歴史書の天文記録を用いた研究も行われてきたが、長期的な太陽活動の変動に焦点を絞ったものや記録の収集が主であり、歴史文献と科学データの本格的な比較検討はあまり行われていなかった。

そこで同研究グループは、中国の正史である「元史」と「明史」のデータベースと刊本を照合して、黒点やオーロラを意味する単語が含まれる記述を抜き出し、その記述が黒点やオーロラを指したものなのか、太陽や地磁気の研究者と検討を重ねた。結果、発見された記述は、年輪から復元される太陽周期長期的傾向と一致していたことがわかったほか、17世紀初頭でのヨーロッパの黒点スケッチと中国正史の黒点記録の同時観測事例の同定に成功した。これにより、過去の成果も含めると隋から清までの1400年近い観測データが整理できたこととなる。

なお今後について研究グループでは、同時代他地域での記録との照合を進めていくとするほか、大規模な現象だと思われ記述については、氷床コアや年輪を用いた調査を交えて、過去の太陽活動の解明につなげたいとしている。