このさき地球温暖化が進むと、世界の人たちは、今より暑い環境で働くことになる。熱中症を予防するためには長めの休憩が必要になり、そのぶん生産性は下がる。国立環境研究所と筑波大学の研究グループは、二酸化炭素を削減する対策をとらずに温暖化が進めば、熱中症予防のために失う生産性が、2100年には世界全体の国内総生産(GDP)の4%に達することを明らかにし、このほど発表した。温暖化を抑えるための積極策に必要な費用に匹敵する損失額だという。

図 作業可能時間の割合の地理的分布。たとえば、作業可能時間の割合が0.25のとき、1時間のうち25%(15分)の時間は作業が可能で、残りの75%(45分)は休憩時間に当てることが必要。(国立環境研究所提供)

この研究は、世界各国の経済の発展状況に応じてエアコンがどれだけ普及していくかを考えに入れた、現実的な計算が特徴だ。もしエアコンが普及すれば、室内での労働では長い休憩時間が不要になる。エアコンの普及を考慮することの重要性は指摘されてきたが、それを計算に詳しく組み入れた研究は、これまでになかった。

その結果、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が公表している「二酸化炭素の排出削減策をとらなければ、今世紀末には現在にくらべて地球の平均気温が約4度上がる」という予測に基づいた場合、世界の経済発展があまり進まずエアコンの普及が遅れたケースでは、今世紀末でのGDPが、温暖化がまったく進まないと仮定した場合の4%減になった。

一方で、気温の上昇が2度以内に収まるよう対策を積極的に進めれば、GDPの損失は、このさきの経済の発展状況にかかわらず0.5%以下に抑えられることが分かった。

また、エアコンの普及率が低い開発途上国が多い低緯度地域では、事務作業のような軽い屋内労働でさえ、今世紀末にはかなりの休憩が必要になるという。

IPCCの報告書では、気温の上昇を2度以内に収めるために必要な費用は、2100年時点で世界全体のGDPの約5%と推計されている。もしその対策を進めなければ、対策費用にほぼ匹敵するGDPが熱中症予防のために失われてしまうことが明らかになった。

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